原発の街で生まれ育ったウーマン村本、チョルノービリを思う
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ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画大好きな村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回のテーマは、1986年4月、当時ソビエト連邦だったウクライナのプリピャチで起きたチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所の爆発事故で、大切な人を守るために命を懸けて挑んだ消防士の姿を描いた『チェルノブイリ1986』。原発の街で生まれ育った村本の反応は!? (取材・文:森田真帆)
今回の映画は公開中の『チェルノブイリ1986』です。
1986年にチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所で起きた爆発事故をモチーフに、未曾有の大惨事に立ち向かう人々を描いたドラマ。全世界を巻き込みかねない危機を阻止すべく、若き消防士が命懸けの任務に挑む。製作・監督を『VIKING バイキング 誇り高き戦士たち』などに出演してきた俳優ダニーラ・コズロフスキーが担い、主演も務めた。共演には『スプートニク』などのオクサナ・アキンシナ、『カリーナ、恋人の妹』などのフィリップ・アヴデーエフらが名を連ねる。
戦争が起こっている今だからこそ怖い
中川パラダイス(以下、中川):実際にあった事件や事故はノンフィクションの方が面白いと思ってたんやけどさ、チョルノービリ(チェルノブイリ)に関しては、たくさんの人が亡くなっているから、悲惨だったよな。そうなるとフィクションの方が、観やすいとは思った。放射線を浴びた人たちのリアルな映像をみるとキツすぎるから。これがドキュメンタリーやったら観ていられないと思う。
村本大輔(以下、村本):実際にあったことだから嘘じゃないからね。この作品のフィクションとリアリティーのバランスは絶妙と思うし、フィクションでもきつかったわ。
中川:僕はチョルノービリ(チェルノブイリ)って聞いたことはあったけれど、どういう被害があったのかは知らんかった。だから、チョルノービリ(チェルノブイリ)をネットで調べたのよ。自分が小学校のときのことやし、海外のことだったからそこまで知らなかったからね。それを考えたら、たくさんの人に知ってもらえるってことは、すごくいいと思ったわ。フィクションを観た後に、ノンフィクションの事実を知りたくなるっていうかさ。
村本:映画は人の心動かし、学びを与えるなぁ! 今、まさにウクライナで戦争が起こっていて、この前チョルノービリ(チェルノブイリ)をロシア軍が占拠したってニュースが出た直後やん。キーウ(キエフ)っていう地名も出てきたりしていたから生々しかったな。もしもロシアが変なことして、チョルノービリ(チェルノブイリ)にまた何かあったらって考えたら怖かった。オレも原発の街出身やから、ソ連の誇りっていうセリフがあったやろ。ああいう言葉、めっちゃ聞くからすごいわかるねん。めっちゃ近くやったから、小浜原発は小浜の誇りみたいなのが確実にあったからな。だからこそリアルやった。
中川:東日本大震災のとき、福島で原発事故が起きてからもその誇りっていうのは変わらんかったん?
村本:地元の高浜町の高浜原発の偉い人が賄賂問題でニュースになったんや。でもその人のこと、地元の人たちは神様って呼んでいたから、心中は複雑やったと思うよ。悪いってことは心の中でわかっていても、お陰様みたいなところはあるしさ。チョルノービリ(チェルノブイリ)みたいに小さい街だから、知り合いが原発で働いていることも多いし、大きい声で悪口は言えないってところはあるよな。
中川:でもさ、こういう事故があるっていう怖さみたいなのはないんかな?
村本:福島の原発事故からも時間は経っているから、また少しずつ意識は薄れていってる感じはするよね。あの原発事故が起こった後にさ、住民の避難経路みたいなのは作られたよ。事故が起きた後のことを想定しているってのが怖いよな。
日常が突然地獄絵図になるリアリティー
村本:日本にはオレを黙らそうとするヤツがたくさんいるのよ。そもそも原発のお陰で村が潤っているじゃないかって言ってくる人がいるんだけど、実際に原発のお金でキレイなグラウンドができたりしていたことは事実。でも、だからといってあんなに恐ろしい事故が起きるかもしれない施設と隣り合わせで生きることとは違うやろ。チョルノービリ(チェルノブイリ)ってもっとキレイな街で、素敵な観光名所がいっぱいあったはずなのに、もう危険な場所っていうところの代名詞やもんな。うちの地元だっていいところがたくさんあるのに、嫌なイメージしかないのは悲しいわ。
中川:原発のほかに何があるん?
村本:じ、自然薯(じねんじょ)とか……。その粘り強さで原発を離さないんや!
中川:いやもうネタやんけ! たしかにチョルノービリ(チェルノブイリ)って調べたとき、原発の事故しか出てけぇへんかったもんな。なんか映画が始まったときはちょっとラブロマンスやったからさ、もしかしてこれって恋愛映画なんかなーっとか思ったんよ。途中までね。そっからのいきなりの地獄絵ぶりにビックリしたわ。顔焼けただれた人続出やもん。あんなギャップ恐ろしい展開、ほんまに怖かった。
村本:でもな、そういうことなんよ。何もかもがいきなりなわけ。それって福島でもまさにそうやったんよ。みんな普通の生活をしているところに、突然地震がきて、一瞬で地獄絵図になってしまった。ある日、突然家を捨てなきゃいけなくなってしまったんやからさ。
中川:たしかにね、前触れなんてないもんなぁ。
村本:そもそもこの映画が作られたときも、ウクライナがこんな状態になるなんて思っていなかったと思うねんな。映画の中でキーウ(キエフ)っていう街の名前がまるで安全な場所みたいに出てくるやん。でも、そこがこんなに破壊されてしまうなんてこと誰も想像してなかったと思う。
中川:ほんまやな。そう考えるとますますリアルな映画やし、僕もこの映画のおかげでチョルノービリ(チェルノブイリ)について知れてよかった。
村本:こんなこというの初めてだけど、シネマトゥデイに感謝せなあかんで。ほんまに! だって映画の連載していなかったら、お前は猫の首とか斬ってたと思うもん。
中川:そんなんがアカンことくらいわかってるよ。
村本:アカンことぐらいわかってるって言い方がやばいんやって。
もしも自分だったら…やれるか?
中川:ヒーローたちが動く理由っていうのがそれぞれ違うのが面白かったわ。あぁいうのってだいたい国のためってなるけど、それだけの理由じゃないのがすごく納得できたな。家族のためとか、お金のためとか、国のためとか、部下のためとか、個人的な理由を持って、誰かがやらなきゃいかんっていうことをやっているのはよかったな。
村本:パラダイスは息子おるやん。お前もやっぱり息子があぁいう目にあったら、命かけて行く?
中川:……。
村本:いや、即答じゃないんかい!
中川:これこそ自分が直面しないと考えられないことやと思うよ。これまた難しいところが、ちゃんと守ってもらえるのかもわからんやん。自分を犠牲にして、お父さんが自分のせいで死んだって思われるのもあかんなって思う。なにが正解なのか判断するのはナンセンスよね。
村本:お父さんっていう生き物は、息子のために命かけるもんちゃうんかい!
中川:いやだって51度の熱湯やろ? うちの近所にヘルシー温泉タテバっていう温泉があるの。そこに地獄風呂やったかな。47度のお風呂があるよ。僕はサウナも好きでお風呂も好きなんやけど、まじで足首までしかつけれないんや。もしかして60度くらいちゃうかって思ってたんやけど聞いたときに47度って聞いてさ。僕は47度の恐ろしさを知っているから。51度のお湯を作って手をつけてごらん。まずはそこから。僕は51度のお湯に入れるかは考える。
村本:昔付き合ってた彼女といたときにさ、タクシーのおじいちゃんがヤンキーに胸ぐらを掴まれてて、オレはそれを彼女と見ててん。そしたら、彼女が止めに行こうとしてスタスタ歩いて行くのよ。オレが止めなあかんやん、普通。男として止めなきゃと思って走って、彼女を追い越していこうと思ったんやけど、ビルのガラスに映った自分が月面歩いているんかってくらいゆっくり歩いてて(笑)。それで結局彼女の方が先に向かっていってヤンキーが逃げていったんやけど、そのとき「まあ、オレはこういう仕事しているからなー。うかつに行かれへんわ」って言ってもうてん。
中川:一番ダサいやつ!
村本:でも、この映画みたいに大切な人の命がやばいってなっていたなら、オレやったら行くと思うよ。
中川:説得力ゼロやな。
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『チェルノブイリ1986』5月6日公開
映画『チェルノブイリ1986』公式サイト
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ウーマンラッシュアワー・プロフィール
2008年に結成された、村本大輔と中川パラダイスによるお笑いコンビ。2011年「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞受賞、2012年「THE MANZAI 2012」決勝進出、2013年NHK上方漫才コンテスト優勝など数々の賞に輝き、4月に東京進出。「THE MANZAI 2013」で見事優勝し、3代目王者に輝いた。
村本大輔
1980年生まれ。福井県出身。自分でも「ネットに書き込まれるうわさはほとんどが事実です!」と認めている、自称・ゲス野郎芸人。だがその一方で、ジブリ作品やピクサーなどの心温まるアニメが大好きで、映画『あなたへ』で号泣するほどのピュアな一面も持ち合わせる大の映画好き。水産高校に通っていたため(中退)、お魚系や海洋ネタにも意外に詳しい。
中川パラダイス
1981年生まれ。大阪府出身。これまで10回もコンビ解散している村本と唯一トラブルもなくコンビを続けている広い心の持ち主。2012年に入籍し、現在1児の子育てを満喫中のイクメンパパでもある。映画に関しては、「王道なものしか観ない」というフツーレベル。