ここがキムの人生最大のターニングポイントだったのか!?
今週のベター・コール・ソウル
なかなか全体像が見えにくいキム(レイ・シーホーン)とジミー(ボブ・オデンカーク)が取り組んでいる、サンドパイパー老人ホーム集団訴訟とハワード(パトリック・ファビアン)を陥れる計画はなんだかんだで順調に進んでいるようだった。第6話「目には目を(Axe and Grind)」では、ついに全て抜かりなく手はずを整えて決行の日(Dデー)を迎えるが、アクシデントが発生。キムはここが最大のターニングポイントだったのか!? と深くため息をつくようなシーンで幕切れとなった。(文・今祥枝)
※ご注意 この記事は「ベター・コール・ソウル」シーズン6についてのネタバレが含まれる内容となります。視聴後にお読みいただくことをおすすめします。
今週のベター・コール・ソウル~シーズン6第6話
ラストシーンと呼応するように、今回のアバンタイトルではキムの子供時代が描かれる。ピアスとネックレスを万引きしたとして、店のオフィスのイスに座り貧乏ゆすりをするキム。そこへ現れた母親は若く人好きがする快活さで、キムを叱って店主にわびる。実際には母親は店主に代金を払うつもりはないような雰囲気だ。そして、この時のピアスを、今でもキムは身につけているのはなぜか? またこの出来事から、キムがジミーに引かれる理由が想像できるかもしれない。ちなみに母親の車のナンバープレートから、ここがネブラスカ州だとわかる。シーズン5第1話のアバンタイトルで描かれる「ブレイキング・バッド」後のジミーが別人として働いているシナモンロール屋シナボンの場所もネブラスカ州(オマハ)だった。
キムとジミーのサンドパイパー集団訴訟とハワードをめぐる計画は、第一段階では弁護士クリフ(エド・ベグリー・Jr)にハワードが麻薬依存症だと信じ込ませて、第5話でそうしたキムとジミーの動きはハワードにバレるところも織り込み済みのようだった。ハワードは私立探偵を雇い、ジミーの日常を、写真を撮らせて見張っている。一方キムとジミーは、サンドパイパー集団訴訟の調停人で元裁判官のランド・カシミーロ(第5話でキムが元助手ヴィオラから聞き出した情報)になりすました俳優と、ジミーが写っているところを撮影する。さらにジミーは秘書のフランチェスカ(ティナ・パーカー)に頼んでハワードが共同経営しているHHM弁護士事務所に関係者を装い電話をかけさせ、サンドパイパー集団訴訟の調停会議に入るための情報を入手。この調停会議の日がDデーとなる。調停会議でこれらの写真を使って一芝居打つつもりのようだ。
またキムとジミーは大金を下ろし、闇社会につながりを持つ獣医カルデラ(ジョー・デローサ)のもとへ。ジミーに処方された薬物の効果影響を自ら確かめる。ジミーの瞳孔が開いているようで、どうやらハワード=麻薬依存症という嘘を決定付けるつもりだと考えられる。このパートでは、ジミーはカルデラから「これを売って引退する」と黒い手帳を見せられる。この手帳に挟まれていた一枚の名刺が、“ベスト・クオリティ・掃除機”。「ブレイキング・バッド」『エルカミーノ:ブレイキング・バッド THE MOVIE』に登場したエド・ガルブレイス(ロバート・フォスター)の店で、その実はカルテルなどに関わって窮地に陥った人々の身元を変えて、新たな人生を与える役割を担っている。ここでまた一つ「ブレイキング・バッド」にぐっと近づいた。
一方、キムは郡庁舎でクリフからぜひ話を聞きたいと、ジャクソン・マーサー基金の理事会メンバー、副知事らが出席するサンタフェの昼食会に招待される。その話を聞いたジミーは大喜びするが、昼食会はDデーと重なっていた。不安がるキムに、ジミーはキムがいなくても計画の遂行に問題はないと保証する。
ラストで昼食会に向かって車を走らせるキム。しかし、ジミーからの電話で集団訴訟の調停人カシミーロと偶然遭遇したところ、腕にギプスという想定外の姿になっていたため、今日計画を実行するのはとりあえず延期しようと告げられる。ジミーが撮った写真の偽カシミーロと本物のカシミーロの間に齟齬(そご)が生じてしまったのだ。ジミーは計画の延期にどこかほっとしているようにも見えるが、キムは作戦を実行するために車をUターンさせる。そのままキムが昼食会に車を走らせれば輝かしい未来がありえたのだろうか? 次回がシーズン6の前半パートの最終話。キムが「ブレイキング・バッド」に登場しない理由が、もしかしたら描かれるのかと考えるだけで神経がすり減る思いがする。
ちなみにジミーがカシミーロを見かけた店で、ジミーはあの超高級テキーラ、サフィロ・アネホのボトルを購入していた。このボトルの特徴的な形の栓、そして先の黒い手帳は本シーズン第1話のアバンタイトルで印象に残る形で映っていたことを思い出す。
一方、前回ついに姿を現したラロ・サラマンカ(トニー・ダルトン)は、残虐さ全開! ガス(ジャンカルロ・エスポジート)の地下麻薬工場の建設技師長ヴェルナー(ライナー・ボック)の妻マルガレーテの家にあった記念品から情報を得たラロは、ヴェルナーと共に働いていたキャスパー(ステファン・カピチッチ)のもとを訪れる。森で薪割りをしているキャスパーは危険を察知して逃げるが、小屋に追い詰めキャスパーの口を割らせようとする。ここで得た情報から、ラロはどんな手段を使ってガスに復讐するのだろうか? この一連のシークエンスは、ホラー味もあってインパクトがある。第6話の監督はガス役のジャンカルロ・エスポジート。今回は監督に専念したエスポジートは、全体として個性も出しつつ堂々たる手腕を発揮している。