『はい、泳げません』『ベイビー・ブローカー』など6月公開映画の評価は?
今月の5つ星
今年のカンヌ国際映画祭で話題を呼んだ2作に、長谷川博己&綾瀬はるかの共演作、映画賞レースを騒がせたアニメーションドキュメンタリー、豪華キャスト集結のハリウッド映画と、見逃し厳禁の作品をピックアップ。これが6月の5つ星映画だ!
長谷川博己の大河後初主演にふさわしい作品
『はい、泳げません』6月10日公開
長谷川博己の大河ドラマ以来の主演作。高橋秀実のどちらかというとほのぼのとしたエッセーが、劇的なうねりのあるフィクションに仕上がったことや、前半と後半のトーンがまるで違うことに驚かされる。
原作は、水泳教室に通った著者の2年間が面白おかしく、かつ切実につづられたもの。例えば「死体と同じで力を抜けば浮いてくる」というコーチの教えに、著者は心の中で「死んだことがないので要領がわからない」とつぶやく。この屁理屈のようにも聞こえる自問自答が、映画では長谷川演じる大学教授・小鳥遊(たかなし)の「頭でっかちな言い訳」として表現されている。映画で最も大きくアレンジされているのは、主人公の夫、父としての記憶が泳ぐ動機として描かれていること。これは渡辺謙作監督の知人の過去を参考にしているという。「前にも後ろにも行けない」ともがく小鳥遊と、彼を具体的な言葉でグイグイ引っ張っていく水泳コーチ・薄原(綾瀬はるか)のやりとりが心地いい。(編集部・石井百合子)
「ずっといてもいい場所」を奪われた難民の孤独が胸に迫る
『FLEE フリー』6月10日公開
祖国を追われたアフガニスタン難民アミンの、20年にわたり誰にも明かすことができなかった壮絶な記憶をアニメーションでたどるドキュメンタリー。他人に心を開けなくなったアミンの逃走の日々を通して、故郷を捨てざるをえなかった人々の味わう孤独が後の人生にまで与える深刻な影響を克明に描き出す。シンプルで芸術的なアニメーション表現によって、アミンの幼い記憶と過酷な日々が親身に迫ってくるだけに、随所に挟まれる実写映像が、われわれ日本人にとって他人事として捉えがちな難民問題をより切実に訴えかけてくる。
世界では、一体どれだけの人々が、自分の故郷を見いだすことができずに生きているのか。故郷の定義を語るアミンの「ずっといてもいい場所」という言葉が胸に響く。逃亡の途上で、一家がモスクワで過ごす描写は、何百万人も生まれている“アミン”たちと同じ境遇の存在に思いをはせずにはいられない。(編集部・入倉功一)
「生きる」ことを見つめ直すことができる力作
『PLAN 75』6月17日公開
是枝裕和が総合監修を務めたオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一編『PLAN75』を新たに作り上げた、早川千絵監督オリジナルの人間ドラマ。舞台は75歳以上の高齢者に生死の選択権を与え、支援する制度が施行された社会。長編映画デビュー作にして第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出され、新人監督賞にあたるカメラドールのスペシャル・メンション(特別表彰)を受けた話題作だ。
全編を通して早川監督の計り知れない手腕が発揮されており、フィクションと現実の境界をあえて壊すかのような演出には驚きがあり、淡々と描かれる生活からは何気ない日々の大切さが浮かび上がる。根本には弱者にスポットを当てた奥深いストーリー、主演の倍賞千恵子をはじめとするキャストのブレない演技があり、時折広がる絵画のような美しい映像にも目を奪われる。少子高齢化問題の解決の糸口とされる制度に関わる人々の姿から、生きることを見つめ直すことができる力作だ。(編集部・小松芙未)
韓国映画であっても、描くものは変わらない
『ベイビー・ブローカー』6月24日公開
『万引き家族』などの是枝裕和監督が韓国でメガホンを取ったヒューマンドラマ。赤ちゃんポストに預けられた赤ん坊をこっそり連れ去り、買い手を見つける“ベイビー・ブローカー”のサンヒョン(ソン・ガンホ)とドンス(カン・ドンウォン)、そして赤ちゃんポストにわが子を預けた若い母親ソヨン(イ・ジウン)が、成り行きから養父母探しの旅を共にする。サンヒョンを人間味たっぷりに演じた『パラサイト 半地下の家族』のソン・ガンホは先日、カンヌ国際映画祭の男優賞に輝いた。
監督にとってはフランスで撮った『真実』に続く新作となるが、フランスであっても韓国であっても描こうとするテーマは一貫している。旅を通してサンヒョンたちが疑似家族になっていくさまは『万引き家族』を彷彿させ、血縁をめぐるテーマは『そして父になる』ともつながる。そこには監督の温かなまなざしが注がれる反面、われわれの価値観をあらためて問いただす。(編集部・中山雄一朗)
豪華キャストの振り切りぶりがすごい!
『ザ・ロストシティ』6月24日公開
謎の実業家に南の島に連れ去られた恋愛小説家のロレッタが、彼女を助けに来た小説の表紙モデル・アランと冒険を繰り広げるコメディー。サンドラ・ブロックとチャニング・テイタムという豪華キャストがこれでもかと振り切った演技で笑いを誘う。サンドラのコメディエンヌっぷりは健在で、ド派手な全身スパンコール衣装&ヒール姿のロレッタを好演。チャニングはアランを上っ面だけでない人間味あふれる人物として見事に表現している。ロレッタを連れ去る実業家役のダニエル・ラドクリフも、己の欲望のままに突き進むキャラクターを生き生きと演じており、人を駒として扱う悪役がハマっている。
クセがありすぎる3人に加え、ブラッド・ピットまで登場するというあまりに贅沢なキャスティングで、彼に対して放たれる「イケメン過ぎじゃない?」というロレッタのセリフには、共感しつつも思わず吹き出しそうになる。(編集部・梅山富美子)