『レオン』美少女からマイティ・ソーへ ナタリー・ポートマン41歳、華麗なる役者人生
子役出身のスターはその後のキャリアで苦労を強いられ、「子役は大成しない」という常識が演劇界には存在している。しかし、そんな“子役の末路”を辿らず、順調にキャリアを築いてきたスターもいる。その一人が、ナタリー・ポートマン(41)だ。子役として有名になりながら、注目を浴びる生活に慢心することなく、自らを磨き上げ、役者としても人間としても大きな成長を遂げてきた彼女は、まさに才色兼備の俳優と言える。ここでは、映画デビュー作『レオン』から最新作『ソー:ラブ&サンダー』(公開中)まで、ナタリーの華麗なる役者人生を振り返る。(文・構成:zash)
両親に反対されながらも挑戦した『レオン』
ナタリー・ポートマン(本名:ナタリー・ヘルシュラグ)は、1981年6月9日イスラエル・エルサレムにて、イスラエル人の産婦人科医である父親とユダヤ系アメリカ人の元アーティストである母親の元に生を受けた。父方からはポーランド、ルーマニア系、母方からはロシア、オーストリア系の血を引いている。
3歳の頃にアメリカへ移住し、翌年からはダンスのレッスンを受け始めるなど、幼い頃からショービジネスの世界に興味を抱いていた。その美しく洗練された容姿は、幼き日より際立っていたようで、最初はモデルとしてスカウトされるが、当時から演劇に対しての興味が人一倍強かったナタリーは、このオファーを一蹴。1994年にオフ・ブロードウェイで上演された舞台「Ruthless!(原題)」で役者デビューを飾った。そして同年、フランスの巨匠リュック・ベッソン監督が手掛ける映画『レオン』のオーディションで、2,000人以上の候補者の中からヒロイン・マチルダ役に抜擢され、当時13歳で映画デビューを果たしたのだ。
『レオン』でナタリーが演じたマチルダというキャラクターは、12歳にして煙草を咥えている非常に大人びた印象を与える美少女であった。さらには父親からは暴行を受け、その後、家族は惨殺され、最愛の弟さえも失ってしまった悲しみから復讐心を抱くようになるという壮絶なキャラクター性を発揮する。そのため、彼女の両親は出演に反対だったという。
しかしながら、ナタリーは当時すでに役者として生きるという確固たる意志があったため、その反対を押し切ってマチルダ役に挑むことを決意。この選択が、結果的に彼女の役者人生に大きな輝きを与えることになる。劇中のナタリーの存在感を、かつてマーティン・スコセッシ監督作『タクシードライバー』(1976)で12歳の娼婦にふんしたジョディ・フォスターと重ねる意見も多く、将来の大女優として期待を一身に集めることになったのだ。
その後もナタリーはアル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ共演のクライム・アクション『ヒート』(1995)、マット・ディロンをはじめとした実力派が共演したコメディードラマ『ビューティフル・ガールズ』(1996)、ティム・バートン監督のカルト的人気作『マーズ・アタック!』(1996)など、一筋縄ではいかない映画に出演し、同じような作品に出演し続ける子役スターの既定路線とは異なるキャリアを歩む。さらに『マーズ・アタック!』出演後には学業に専念するため、俳優活動を一旦セーブ。1999年には名門ハーバード大学に入学し、心理学を専攻するほどの才女ぶりを見せた。
『スター・ウォーズ』の成功によってもたらされた光と闇
大学進学と同時に、ナタリーは俳優業を再開。ジョージ・ルーカス監督がメガホンを取ったSF映画の金字塔『スター・ウォーズ』三部作への出演を勝ち取ったのだ。
1999年の『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』より登場する惑星ナブーの女王パドメ・アミダラを演じたナタリーは、気品ある佇まいとしっかりとした演技で役者としての地位を不動のものにした。映画は世界的な大ヒットを記録し、続く『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002)、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(2005)と3作品にわたって、パドメの成長と変化を見事に演じ切った。
ところが、この『スター・ウォーズ』への出演はナタリーの役者としてのキャリアに大きな障害も同時にもたらした。あまりにもパドメのイメージが固まりすぎたためか、当時は出演オファーが途切れてしまったというのだ。さらに大学の中でも同級生たちの視線はパドメとしてのナタリーにばかり向けられ、息苦しい生活を強いられてしまう。
そんなナタリーの人生を大きく変えたのが、2004年のマイク・ニコルズ監督作『クローサー』だった。劇中でピンク髪のストリッパーふんしたナタリーは、ゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞し、アカデミー助演女優賞にもノミネートされた。どんな役でも難なくこなせることを証明したナタリーは、ここからさらなる飛躍を遂げていくことになる。
2005年の『V フォー・ヴェンデッタ』では実際に髪を剃り落とす徹底した役づくりで挑み、2006年の『宮廷画家ゴヤは見た』ではキャラクターの変化を容姿で表現する体当たりの演技を見せた。極めつけはダーレン・アロノフスキー監督の『ブラック・スワン』(2010)。次第に精神が蝕まれていくバレリーナを演じたナタリーは、一日16時間ものトレーニングを行い、約9キロ減量という脅威の役づくりを敢行。この役づくりが功を奏し、圧巻のパフォーマンスを披露した彼女は、第83回アカデミー賞で主演女優賞を初受賞。名実ともにハリウッドのトップスターとなった。
『マイティ・ソー』で得た新たなハマり役
そしてナタリーは、『スター・ウォーズ』以来久しぶりとなるSF大作映画の世界へと戻ってきた。“シェイクスピア俳優”としても名を馳せるケネス・ブラナー監督がメガホンを取ったマーベル映画『マイティ・ソー』(2011)への出演だ。
出演を決めたきっかけとしてケネスの名前を挙げたナタリーは、敬愛する彼の元で、新たなハマり役を手にする。彼女が演じる天文物理学者ジェーン・フォスターは、のちにソーの恋人となるだけでなく、自ら危険へと果敢に飛び込み、世界を救おうとする、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)屈指の勇敢なキャラクターだ。続編『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2014)でもジェーン役として存在感を発揮した。
そして、シリーズ4作目にあたる最新作『ソー:ラブ&サンダー』(2022)では、ジェーンを再演するばかりか、ソーの武器ムジョルニアを手にした新ヒーロー、マイティ・ソーを名乗る。ソーの元恋人である彼女が、何故マイティ・ソーとなったのか……その真実は明かされていないが、ソーを圧倒するようなカリスマ性と力強さを兼ね備えているのは間違いない。
『レオン』の美少女として脚光を浴びたナタリーは、俳優業と学業を両立しながらも、道を外れることなく順調にキャリアを築き上げてきた。一人の女性としても“マイティ”な彼女のさらなる活躍に期待したい。