ウーマン村本、無意識に人を怒らせて嫌われる人間性?
映画たて・よこ・ななめ見!
ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画大好きな村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回のテーマは、芥川賞作家・今村夏子が2010年に発表したデビュー小説を映画化した『こちらあみ子』。広島で暮らす、少し変わった小学5年生の主人公・あみ子の姿に、子供の頃の自分を重ねた村本は「オレすぎて、つらい!」と幼少期の思い出話を語り出した。(取材・文:森田真帆)
今回の映画は『こちらあみ子』です。
『星の子』などの原作者・今村が太宰治賞と三島由紀夫賞を受賞した小説を映画化したヒューマンドラマ。広島に暮らす小学5年生の少女の言動が、家族や周囲の人たちを変えていく。監督は『日日是好日』などの助監督などを務め、本作が監督デビューとなる森井勇佑。主人公のあみ子をオーディションで選ばれた大沢一菜が演じ、井浦新や尾野真千子などが脇を固める。
“こちらむら子”な心境
村本大輔(以下、村本):あみ子、子供の頃のオレすぎてつらかったわ。もう自分のことをむら子だと思って観ていたよ。あみ子がさ、おかんとか、友達とか、人の嫌がることをするやん。でもあみ子はそれが人の嫌がることだと全然思ってないやん。オレも、これまで山里(涼太)や、吉村(崇)や、綾部(祐二)とか、みんなオレのことを知らんうちに嫌がっていた。
中川パラダイス(以下、中川):たしかに、村本は、そういうのあるなぁ。
村本:せやろ。ラジオであいつらが楽屋で言ってることを話しただけなのに、「お前はなんで言っていいことと悪いことがわからんねん!」ってみんな怒んねん。でもオレはオモろいと思って話すやん。それが悪いことと思って話してないねん。「え? 言ったらあかんかった?」って言うと、みんなもう怒ってる。オレは、小学校の頃からそうやねん。だからあみ子の行動を見ていると自分をダブらせてしまってつらかったわ。
中川:だからか! 僕がおとん(井浦新)にめっちゃ共感しちゃったんはそういうことなんかも知れへん。いつも村本の一番近くにいて、いろんな人を怒らせてるの見てる自分と、めっちゃキーッてなってる奥さん(尾野真千子)との間に立ってるおとんの気持ちに共感できたわ。
村本:お前も人のこと言えへんやろ。昔、オードリーさんのラジオで、映画パーソナリティーのおっさんから既婚者合コン呼ばれたことを話して、そのおっさんからめっちゃ怒られてたやん。
中川:僕は無意識じゃなくて、ちゃんとわかってて話してるもん。あみ子や村本とは違うわ。僕は人をおとしめてでも、オードリーさんの番組で名を上げた方がええって思っただけ。彼の首を手土産にしただけやし。結果的に僕が手を下すことなく、文春砲で堕ちていったしな。結果、全部悪いことバレたからええねん。
人が何で怒ってるのかわからない
中川:僕はめっちゃ悪いことってわかって暴露するけど、村本の場合は無意識やろ? 日本は人の嫌がることはやめようねとか、細かいルールがあるけど、海外なら許されるんちゃう?
村本:まぁ、でもそれは海外行っても一緒で、あみ子もオレも社会性ないと思う。今日、オレはあえてあみ子の友達として代弁しますけどね、オレみたいに空気読めない人ってほんまにおるんよ。オレの友達で平松さんっていうガンの友達がいて、名古屋でライブやるたびにきてくれて、毎回すごい優しくて、お客さんにお菓子を配ったりしてファンからも愛されてる人がいるのよ。こないだ名古屋で久しぶりにライブした時に、ドッキリで「平松さん、ありがとう! 忘れない」っていうタイトルにしのよ。(お客さんがしんみりしたところで)オープニングで平松さんが、「どうも」ってきた瞬間に、お客さんが「生きてて良かった」って泣き出して、花を持ってきてる人とかもいてさ。「冗談でーす」って言ったら、ファンのみんながドン引きしてて怒ってる人とかもいて。オレとしては生きてるからええやんって思ってるし、オモろいやろうなってやったんやけど……。
中川:そら怒られるわ。でも村本としては、死んでないからえーやんっていう考え方なんやろ? それって、あみ子の「お墓」のエピソードにちょっと似てるよな。本人は良かれと思ってやっててさ、喜ぶと思ってやってることが、相手をめちゃくちゃに傷つけてしまうっていう。
村本:そうそう。だからやっぱり相手の気持ちとかがまったくわからんヤツは、一定数いるんやなって思った。最近はADHDとかいろいろ言うけどさ、それに名称をつけなくてええやんって思ってる。おるもん、オレとか、あみ子みたいな人は。
中川:たしかに、そうやな。でも、村本も最近はそこまで広く空気読めない感じなくなってきた気がするで。だからもしかしたら、あみ子もちょっとずつ変わっていくんちゃう? 大人になったらわかってくると思うわ。
周りの人間の在り方を考えさせられる
村本:昔さ、家族でお母さんとおばあちゃんが仲悪くなったのが自分の発言のせいだったっていうのを思い出してん。お母さんがめっちゃおばあちゃんのこと悪く言ってたから、「おばあちゃんのこと、お母さんがクソババアって言ってたで」って言ったら、おばあちゃんが部屋から出て行って、オレはお母さんに顔面殴られた。トイレのティッシュの箱の中で飼ってたカメムシに「おかんに殴られた」って話したもんさ。オレ、それから高校までおばあちゃんと一緒に住んでた。
中川:いやもう、あみ子やん、それ。言うたらあかんことばっかり言う! でも僕はあの坊主の少年が一番ええなって思った。あみ子はたぶんあんなふうに、「臭いで」とか「お前変やで」とか言わんとわからんやん。なんでみんな怒ってるかわからんから、あんなふうに話せるヤツが近くにいることは大切やなって思った。
村本:でもさ、あの少年はあみ子が気持ち悪いって言ったけど、結局どこが変とは言えんかったやん。だってな、あみ子なんも変じゃないし、気持ち悪くないのよ。社会性が大事にされている場所で、あみ子みたいに自由な人間を見ると不安になんねん。そこが「気持ち悪い」っていうところなんやと思うわ。
中川:なるほどな。ちょっと浮いてる存在って、そういうことやもんな。
村本:オレは芸人なんてみんな社会不適合者だと思ってたのに、意外にみんなできるんやなって思うことがある。こないだもさ、ダウンタウンの漫才83点ってTwitterで書いてもうてん。もうでも取り返しつかんねん、もう書いてしまってるし。もしあみ子がTwitterやったらやばいと思うで! あかんことばっかり書いてみんなに総攻撃されそう。
中川:なんか、どの世界がほんまの世界なのかなって思った。おとんから見えてる世界も、おかんから見えてる世界も、あみ子から見えてる世界も、それぞれ違うのが面白くてさ。思い込みで世界を見てるんやな。あみ子という人間の世界観が見えて良かったわ。
村本:そうやな。オレはさ、あみ子とかかかわった人たちはラッキーやと思うねん。ああいうふうに変わった人は必ずおるけど、日本って国はそう言う人を隠したり、分けたりするやん。学校でもクラスを分けたりしてさ。障害者の子たちは別の学校に行くとかさ。それで何が多様性やねんって思うねん。この映画、いろんな人が観て何かを感じてほしいわ。
※記事内容には個人の意見が含まれています。
『こちらあみ子』7月8日公開
映画『こちらあみ子』公式サイト
(C) 2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ
ウーマンラッシュアワー・プロフィール
2008年に結成された、村本大輔と中川パラダイスによるお笑いコンビ。2011年「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞受賞、2012年「THE MANZAI 2012」決勝進出、2013年NHK上方漫才コンテスト優勝など数々の賞に輝き、4月に東京進出。「THE MANZAI 2013」で見事優勝し、3代目王者に輝いた。
村本大輔
1980年生まれ。福井県出身。自分でも「ネットに書き込まれるうわさはほとんどが事実です!」と認めている、自称・ゲス野郎芸人。だがその一方で、ジブリ作品やピクサーなどの心温まるアニメが大好きで、映画『あなたへ』で号泣するほどのピュアな一面も持ち合わせる大の映画好き。水産高校に通っていたため(中退)、お魚系や海洋ネタにも意外に詳しい。
中川パラダイス
1981年生まれ。大阪府出身。これまで10回もコンビ解散している村本と唯一トラブルもなくコンビを続けている広い心の持ち主。2012年に入籍し、現在1児の子育てを満喫中のイクメンパパでもある。映画に関しては、「王道なものしか観ない」というフツーレベル。