夏休み映画特集2022~劇場邦画編~
暑~い夏は映画館で快適に映画を楽しみましょう! 今年の邦画は文豪の名作からコミック原作の続編、こだわりのオリジナル作品までよりどりみどり。アクションに興奮したり、悲しい運命に涙したり、青春に胸を熱くしたり、いろんな感動を味わってみては?(文・早川あゆみ)
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島崎藤村の不朽の名作を60年ぶりに映画化
『破戒』公開中
監督:前田和男
キャスト:間宮祥太朗、石井杏奈、矢本悠馬
119分
島崎藤村の不朽の名作を、1948年の木下恵介監督、1962年の市川崑監督に続いて、60年ぶりに映画化。主演はドラマ「ナンバMG5」のヤンキー姿の記憶も新しい間宮祥太朗で、監督は『発熱天使』の前田和男。被差別部落出身だという出自を隠して生きる瀬川丑松の葛藤を通して、差別や社会のありかたが描かれる。小学校教員として奉職する瀬川は子どもたちから慕われていたが、出自を噂され、さらに傾倒する思想家が暴漢に襲われたことで、すべてを明らかにする決意をする。透明感と緊張感を漂わせた間宮の演技と、視線の交わりなどで丁寧につづられた下宿先の女性との恋の切なさが、悲哀と理不尽さを浮き立たせている。原作は100年以上前の作品だが、さまざまな差別が存在したままの現代にも重なるテーマだと考えさせられる。
天下の大将軍になる夢をかなえるべく隣国・魏との戦いに臨む
『キングダム2 遥かなる大地へ』公開中
監督:佐藤信介
キャスト:山崎賢人、吉沢亮、橋本環奈
134分
2019年に邦画実写の興行収入1位を記録した佐藤信介監督作の続編。中国春秋戦国時代、大将軍になる夢を抱いた戦災孤児の信と、のちに秦の始皇帝となる若き王・エイ政を中心とした大ヒットコミックが原作で、今回は隣国「魏」との戦いに歩兵として参加する信の奮闘を描く。信役の山崎賢人(「崎」は「たつさき」が正式表記)、エイ政役の吉沢亮ら主要キャストは続投、新たに絶大な人気を誇る剣士・羌カイ役の清野菜名のほか、豊川悦司、玉木宏、佐藤浩市らベテラン勢が参戦。原作者・原泰久の脚本作成への参加、壮大なスケールの中国ロケなど前作の特徴は踏襲し、さらなるアクションの緻密さと派手さが加味されている。Mr.Childrenの主題歌「生きろ」に象徴されるように、必死に生き抜こうとする人間たちの姿と迫力に圧倒される。
記憶を失う少女と記憶に縛られる少年の切なく愛おしいラブストーリー
『今夜、世界からこの恋が消えても』7月25日公開
監督:三木孝浩
キャスト:道枝駿佑、福本莉子、古川琴音
120分
一条岬の人気小説を、『君の膵臓をたべたい』監督の月川翔が脚本、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の三木孝浩が監督、『糸』の亀田誠治が音楽と、ラブストーリーの名手が顔をそろえて映画化。クラスのいじめを止めるために嘘の告白をした透を、「絶対に本気にならない」という条件で受け入れた真織。そんな偽物の恋が本物になりかけたころ、透は真織から、一晩寝るとすべての記憶がなくなる「前向性健忘」という難病にかかっていることを告げられる。だが透にも秘密があった。なにわ男子の道枝駿佑が透役で映画初主演。真織役はドラマ「消えた初恋」でも道枝と共演した福本莉子で、息の合ったところを見せる。何気ない1日がいかに尊いものかを考えさせられる、切なく悲しい記憶の物語だ。
苦しみを抱える少年が孤独を抱える人々と出会い成長する姿を描く
『ぜんぶ、ボクのせい』8月11日公開
監督:松本優作
キャスト:白鳥晴都、川島鈴遥、松本まりか
121分
現代社会の狭間で愛と希望を渇望する少年の葛藤と、孤独を抱える男女3人の絆を描く衝撃作。自主映画『Noise ノイズ』で世界を席巻した松本優作が脚本と監督を務めたオリジナル作品。児童養護施設を抜け出して母に会いに海辺の町に向かった優太だったが、そこに彼の居場所はなかった。軽トラで寝泊まりするホームレスの坂本に拾われ、女子高生の詩織とも知り合い、寂しさを分かち合うように穏やかな日々を送るが、ある日突然それは断ち切られてしまう。優太役の白鳥晴都は初主演ながら存在感を示し、川島鈴遥は詩織の鬱屈を切なく見せ、ひょうひょうとした中に深い哀しみを滲ませるオダギリジョーが坂本として若手2人をしっかりと受け止めている。やるせなさに満ちたラストには、痛いほど心をゆさぶられる。
ダメ男&不良品ロボットというポンコツコンビの冒険
『TANG タング』8月11日公開
監督:三木孝浩
キャスト:二宮和也、満島ひかり、市川実日子
115分
日本でも人気を博した英小説「ロボット・イン・ザ・ガーデン」を、ドラマ「恋はつづくよどこまでも」の金子ありさ脚本で、『思い、思われ、ふり、ふられ』の三木孝浩監督が映画化。妻にも見捨てられたダメ男の健は、庭に迷い込んできた記憶喪失の旧式ロボット・タングを最新式に取り換えてもらおうと旅に出るが、実はタングには世界を変える秘密が隠されていた! 健役は名優・二宮和也、妻役は満島ひかり、旅の途中で出会う人々は小手伸也、奈緒、京本大我(SixTONES)、武田鉄矢ら個性派たち。健とタングの軽妙なテンポ感とスピーディーな展開、さらに『STAND BY ME ドラえもん』の白組が手がけたどこかレトロなVFXに引き込まれる。ポンコツな1人と1台が再生していく感動冒険ファンタジー。
令和の時代に逆行する理不尽極まる高校野球部を描く青春コメディー
『野球部に花束を』8月11日公開
監督:飯塚健
キャスト:醍醐虎汰朗、黒羽麻璃央、駒木根隆介
99分
クロマツテツロウの人気コミックを『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』の飯塚健が監督・脚本で映画化。理不尽で時代錯誤だけど胸が熱くなる高校野球部の涙と汗の青春コメディー。中学野球に別れを告げ、高校デビューを目指した黒田鉄平だったが、うっかり野球部の優しい勧誘にのってしまったことで夢はついえた。坊主頭に絶対的序列、不条理なまでに過酷な練習に翻弄される日々が続くが……。黒田役は『天気の子』の主演声優・醍醐虎汰朗。ほか球児役はミュージカル「刀剣乱舞」の黒羽麻璃央やVシネマの帝王・小沢仁志らで、コンプライアンス全無視の野球部監督を高嶋政宏が演じる。途方もない絵面に驚愕しつつも、笑顔になれる前向きさに励まされる。
80年代の少年のひと夏を描いた郷愁感じる青春映画
『サバカン SABAKAN』8月19日公開
監督:金沢知樹
キャスト:番家一路、原田琥之佑、尾野真千子
96分
1980年代の長崎を舞台に、少年2人のひと夏の冒険を描く友情と家族愛の詰まった青春映画。元お笑い芸人にして構成作家、脚本、演出など多彩に活躍する金沢知樹の長編初監督作で、自らの幼少期の思い出をベースにしたオリジナルストーリー。貧しさからクラスでバカにされていた竹本(原田琥之佑)に誘われ、近くの島にイルカを見に行くことになった久田(番家一路)。ヤンキーに絡まれ、海で溺れかけたりしながらも2人は意気投合、残りの夏休みを共に過ごすが、やがて悲しい事件が起きてしまう。映画初出演の番家と原田の瑞々しさを、尾野真千子、竹原ピストルら大人のキャストが的確に支え、さらに成人後の久田役の草なぎ剛のたたずまいとナレーションが全編を優しく包みこんでいる。子ども時代を噛みしめたくなる奥行きのある愛の物語だ。
キュートな少女が専門学校に通いながら殺し屋としてアルバイト!?
『バイオレンスアクション』8月19日公開
監督:瑠東東一郎
キャスト:橋本環奈、杉野遥亮、鈴鹿央士
112分
同名の人気コミックを原作に、『おっさんずラブ』シリーズなどの瑠東東一郎監督が橋本環奈主演で描くアクションエンターテインメント。橋本演じるケイは、専門学校に通いながらバイトに明け暮れるピンク髪のゆるふわ女子だが、実はそのバイトは殺し屋。ある日、ヤクザの組織から依頼されたターゲットはほのかに思いを寄せていたテラノだった! テラノ役の杉野遥亮をはじめ、鈴鹿央士、馬場ふみか、森崎ウィン、城田優、岡村隆史らが強烈キャラクターを破天荒に演じまくる。橋本が「いままででいちばん動いた」というほどハイレベルなアクションの連続で、日本初の最先端の撮影技術「ボリュメトリックキャプチャ」を駆使したシーンも。ワクワクドキドキはもちろん、意外な胸キュンも味わえる!?
声を失った犬が傷ついた人々に生きる勇気を与えてくれる
『ハウ』8月19日公開
監督:犬童一心
キャスト:田中圭、池田エライザ、ベック
118分
『キセキ -あの日のソビト-』の脚本家・斉藤ひろしの原作と脚本を、『のぼうの城』などの犬童一心監督が映画化した犬と人の絆を描いた感動作。結婚が破談になった民夫の空虚さを埋めてくれたのは、ワンと鳴けない保護犬ハウとの出会い。2人は温かい日々を送っていたが、アクシデントでハウが遠い地に運ばれてしまった。民夫に会うために長い道のりを走り出したハウと人々との交流を描くロードムービーであり、民夫が周囲の支えで立ち直っていく再生の物語でもある。不器用で朴訥(ぼくとつ)な民夫役は田中圭。ハウを演じたタレント犬ベックの演技が見事で、自身も愛犬家・愛猫家である石田ゆり子の愛あふれるナレーションとともに感動を盛り上げる。優しくも切ない展開とモフりたくなるハウの姿に、心の底から癒される。
鬼刑事がまさかの警察音楽隊に人事異動!?
『異動辞令は音楽隊!』8月26日公開
監督:内田英治
キャスト:阿部寛、清野菜名、磯村勇斗
119分
高い評価を得た『ミッドナイトスワン』の内田英治監督が原案・脚本を手がけ、主演の阿部寛とタッグを組んだヒューマンドラマ。時代遅れの強引な捜査を続ける鬼刑事・成瀬は周囲から孤立、異動された先はまさかの警察音楽隊だった。覇気のない隊員たちの様子と、捜査から完全に除外されたことで落胆する成瀬だが……。阿部はドラムに初挑戦。清野菜名、高杉真宙ら音楽隊員役の役者たちも吹き替えなしの演奏のために楽器の猛練習を重ねただけあって、演奏と犯人逮捕がシンクロする後半の展開は見ごたえたっぷり。音楽を通して再生していく人々が鮮やかに描かれている。主題歌はOfficial 髭男 dismの「Choral A」で、かつて島根県警察音楽隊でサックスを吹いていたというメンバーの楢崎誠(「崎」は「たつさき」が正式表記)が書き下ろした。
メガバンクでしのぎを削るアキラとあきらの運命は?
『アキラとあきら』8月26日公開
監督:三木孝浩
キャスト:竹内涼真、横浜流星、高橋海人
128分
国民的ヒットドラマ「半沢直樹」など多くのベストセラーを持つ池井戸潤の原作を、竹内涼真と横浜流星のダブル主演で三木孝浩監督が映画化した骨太な人間ドラマ。貧しい幼少期を経て人を救いたいという願いを抱いた銀行員・山崎瑛<アキラ>は、大企業の御曹司でドライな同期の階堂彬<あきら>と真っ向から対立する。だが、骨肉の争いから経営危機に陥った自社グループを救おうと社長になった階堂と和解、ともに絶体絶命の状況に立ち向かう! 池井戸作品特有の激しい男たちの熱い戦いは、児嶋一哉やユースケ・サンタマリアら敵役の熱演もあって迫力十分。火花を散らしながらも共闘していく竹内=アキラと横浜=あきらの熱量の高さと驚きの逆転劇に、心が奮い立つ。