「サンドマン」を観るべき5つの理由
ニール・ゲイマンの名作コミックをドラマ化した「サンドマン」がNetflixで配信中。ポスターとあらすじだけでは、よくあるダークファンタジーと間違えてしまいそうな本作は、実はかなりユニークな大人向き作品。今、「サンドマン」を観るべき理由が5つある。(文・平沢薫)
理由1:普通のダークファンタジーとは一味違う!?
主人公の名は“ドリーム(夢)”。彼には“デス(死)”という姉がいて、両性具有の弟/妹“ディザイア(欲望)”と、その双生児の妹“ディスペア(絶望)”がいる。原作コミックには、ディスティニー(運命)、ディストラクション(破壊)、デリリウム(錯乱)も登場する。彼らは“エンドレス(終わりなき者)”と呼ばれ、人間と同じような姿をして、人間の世界を歩き回り、人間と接触することもある……というのが、このドラマの基本設定。人間と密接に結びついた“抽象概念”を擬人化し、彼らと人間が接触して生まれるドラマを通して、人間にとって“夢”とは何か、“死”とは何か、という深淵なテーマを考察していく。本作はそんな大人向けの物語なのだ。
舞台は、エンドレスたちの王国と、人間たちの世界。なので、従来のファンタジー世界のアイテムである大鴉(おおがらす)、三人の魔女、ガーゴイルなどが登場する一方で、日常生活の中にある24時間営業のダイナーや、マニアが集まるコンベンション会場が舞台になったりもする。また、エンドレスたちは存在し続けているので、時代背景は、太古の昔から現在までと幅広い。ドリームが14世紀にある男と出会い、100年に1度再会し続けるというエピソードもある。そうしたユニークな設定のもと、“連作”の形でさまざまな物語が語られていく。
理由2:人気作家ニール・ゲイマンの伝説的コミックが原作
原作「サンドマン」は1989年~1996年に刊行され、1991年にシリーズ内の短編「真夏の夜の夢」が、コミック史上初の世界幻想文学大賞最優秀短編賞を受賞し、コミックファン以外の注目も浴びた名作。しかも、完結から約26年を経た今も、人気は衰えていない。昨年はオーディオドラマ版がリリースされ、ジェームズ・マカヴォイやタロン・エガートンら人気俳優たちが参加。本年にも別の作家によるスピンオフ「The Sandman Universe: Nightmare Country」が刊行された、今も人気の作品なのだ。
そして、原作者ニール・ゲイマンは、英国出身の人気作家。ファンタジー小説ファンには、「アメリカン・ゴッズ」や「コララインとボタンの魔女」のネビュラ賞・ヒューゴー賞受賞、「アナンシの血脈」の英国幻想文学大賞受賞でおなじみ。映像ファンにも『パーティで女の子に話しかけるには』(2017)、『コララインとボタンの魔女 3D』(2009)などの原作でおなじみ。ゲイマンは1996年に放映したドラマ「ネバーウェア」から自作の映像化に積極的で、最近では製作総指揮と脚本に参加した、天地創造以来の旧友の天使と悪魔が終末を阻止しようとするドラマ「グッド・オーメンズ」(2019~)が人気を集め、シーズン2も配信決定。その彼がクリエイターとして参加、第1話の脚本にも参加して世に送り出すのが、この「サンドマン」なのだ。
理由3:30年の歳月を経て、実現した“待望の映像化”
そんな人気原作だから、映像化企画はずっと前からあった。最初にゲイマンに企画が打診されたのは1991年。その後、『シュレック』(2001)、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのテッド・エリオットとテリー・ロッシオ、ゲイマンと『ベオウルフ/呪われし勇者』(2007)の脚本で組んだロジャー・エイヴァリー、『ジョナ・ヘックス』(2010)の原案担当ウィリアム・ファーマー、ドラマシリーズ「SUPERNATURAL スーパーナチュラル」のクリエイター、エリック・クリプキらがそれぞれ映画化を企画したが、どれも実現しなかった。
そして、2013年に話題を集めたのが、『スノーデン』(2016)、『ザ・ウォーク』(2015)のジョセフ・ゴードン=レヴィットが主演・製作総指揮を務めるというニュース。しかし、2016年にゴードン=レヴィットは製作のワーナー・ブラザースからニュー・ライン・シネマに移ったことなどから製作の意見が合わずに降板してしまう。そんなこんなの末に、やっと実現したのが、今回の「サンドマン」なのだ。
理由4:映像化作品ならではのお楽しみがある
今回のシーズン1は、全10部からなる原作コミックの第1部「プレリュード&ノクターン」、第2部「ドールハウス」の映像化。細部がアレンジされたり、登場人物の性別が変更されたりしているが、基本的なストーリーはほぼ同じ。しかも、時には文学的かつ芸術的すぎたりもする原作を読むよりも、ドラマを観る方が、ストーリーがすんなり頭に入ってくる。また、『マクベス』(2015)のデヴィッド・シューリス、『キングスマン:ファースト・エージェント』(2020)のチャールズ・ダンスら、ベテラン英国男優の味わい深い演技もドラマならではの醍醐味だ。
ドラマのクリエイターは3人。まず、原作者ゲイマン。ワーナーの『バットマン』シリーズの原案などに関わり、DCコミックが原作のドラマ「コンスタンティン」やアイザック・アシモフの原作によるドラマ「ファウンデーション」の脚本などに参加した、デヴィッド・S・ゴイヤー。そして、大学時代から「サンドマン」のファンだったという映画『ワンダーウーマン』(2017)の脚本家で、ドラマ「グレイズ・アナトミー」シリーズの脚本家でもあるアラン・ハインバーグ。この3人のテレビシリーズの経験が、「サンドマン」に理想的な形で結実したのではないだろうか。
その一方で、原作ファンにうれしいポイントも続々。原作の名ゼリフがそのまま使われていたり、原作同様、ウィリアム・シェイクスピアやクリストファー・マーロウが登場したり、英国の作家G・K・チェスタトンそっくりのキャラがいたり、コリント人(ボイド・ホルブルック)やシリアルキラーのコンベンションの参加者ファンランド(ダニー・キアラン)などコミックの画そのままの風貌の人物が登場したりするのも楽しい。また、各エピソードのエンドクレジットの映像を、コミックの表紙を描いたアーティスト、デイヴ・マッキーンが担当し、原作コミックの雰囲気を味わわせてくれる。
また、原作はDCコミック傘下の大人向けレーベル、ヴァーティゴの作品なので、DCコミックのファン向けの小ネタもあちこちに。登場人物が1974年のコミックの古いサンドマンのスーツで登場したり、大鴉のマシューの前世がコミック「スワンプ・シング」の登場人物マシュー・ケーブルだったり、原作同様、コミック「コンスタンティン」の主人公の女性版や同作の登場人物マッド・ハティが登場したりする。
理由5:そして、今後の新シーズンに備えるために
本作のクリエイターの一人、デヴィッド・S・ゴイヤーが、イギリスの情報サイト Den of Geek のインタビューで、早くもシーズン2について発言。まだ制作されるかどうかは決定していないが、すでにシーズン2の脚本の開発を進めていて、シーズン1よりスムーズに進行していると語っている。原作コミックは全10部あり、スピンオフ作品もあるので、GOサインさえ出れば、新シーズンはいくつでも制作可能。新シーズンに備えるためにも、今のうちにシーズン1を観ておきたい。