勝手に葬式しちゃう男が起こす奇跡に涙!
提供:SPE
人の葬式を勝手に出しちゃう男、ってそれどういうこと!? 映画『アイ・アム まきもと』の主人公は、市役所でおみおくり係として働く牧本壮。空気が読めず、思い込みの激しさから、図らずもたびたび人に迷惑をかけてしまう彼が、亡くなったある男の人生をたどるうちにさまざまな人と出会い、無味乾燥だった自らの人生も変化していきます。孤独死を扱うのになんだか笑えて、“まきもと”の起こす奇跡によって、最後には胸がいっぱいになる。そんな感動のヒューマンドラマなのです。
こんなキャラクター、見たことない!
主人公の牧本というキャラクターは、ぶっちぎりに変わり者です。職業は、市役所のおみおくり係として身寄りがなく独りで亡くなった人を無縁墓地に埋葬すること。でも彼の場合、頼まれてもいないのに自費で葬儀を執り行い、「遺族が引き取りにくるかもしれないから」と納骨せず、デスクの周りは遺骨だらけ。遺体の保管期限を過ぎて担当刑事に怒鳴られても、自分のやり方を決して曲げようとはしません。
四角四面に超生真面目、自宅の洋服ハンガーにかかっているのは同じ型のグレーのスーツと白のYシャツだけ。家族や友だちの影はなく、仕事が終わると、一人暮らしの質素な部屋に帰ります。ポケットのいっぱいついたベストを愛用し、タバコの煙が超苦手。そして、恐ろしく察しが悪い男でもあります。そのあまりの鈍さと人との感覚のズレが笑いを呼ぶことに。
そんなユニークな男を、阿部サダヲが演じます。とにかく不思議な俳優さんです。「いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~」での人としてのエネルギー全開な新聞記者、『死刑にいたる病』での、ある一線を越えてしまった人間が持つ純粋なヤバさと怖さ——。幅広い役柄をごくナチュラルに演じるのが阿部サダヲという人です。
監督は、『舞妓 Haaaan!!!』『なくもんか』『謝罪の王様』でも阿部を主役に起用した水田伸生。ベネチア国際映画祭で4賞受賞した『おみおくりの作法』を原作に、阿部サダヲだからこそより際立つ空気をまとう、どこか憎めない、ポップで愛らしいキャラを生み出しました。
猪突猛進のブレない男・牧本に巻き込まれる人々
牧本は頑固で、自ら定めたルールを遂行します。新しくやってきた上司から、そんな彼の度を越えて丁寧な仕事ぶりにクレームが。「おみおくり係は廃止すべき」と言い渡され、最後の仕事として取り組むのが、宇崎竜童演じる蕪木孝一郎の案件。蕪木は「無口なくせにやたらとモテる男」でした。
そんな蕪木の元恋人、みはるを演じるのが宮沢りえです。漁港で居酒屋を営む、田舎町には不似合な、どこか訳アリっぽい美人。たくましさを感じさせる佇まいで、やたらに艶っぽい。
蕪木にかつて北海道の炭鉱で命を救われたという槍田に國村隼。演技はさすがのリアルさ、しかも格好いい! そして、かつての同僚、平光に松尾スズキ。阿部との真顔のやりとりは、あっぱれ! の領域です。
蕪木の娘、津森塔子を演じるのは満島ひかり。生来の演技の切れ味の鋭さに、進化と深化が加わったよう。父親に複雑な思いを抱きつつ、真摯に仕事を全うしようとする牧本と交流を重ねます。
牧本としょっちゅうバトルを繰り広げる神代刑事に松下洸平。感覚がズレた牧本にいつも怒っているようだけど、どこかで愛情を感じさせる雰囲気に惹かれます。牧本の迷惑に巻き込まれる人々もまた、個性的なメンツが揃いました。
なぜかほっこりするストーリー
牧本と出会った人たちは、最初は怪訝な顔で対応することになります。しかも、なんでそんな一銭の得にもならないようなことのためにわざわざ? と思うのも無理はありません。ところがやがて、その志は間違いなくピュアであることがわかります。一点の曇りもなく、ただ見知らぬ人のために、その人をしかるべきやり方でおみおくりするために、行動していることが。だからこそ、それぞれに事情を抱えた人たちが次第に彼に心を開いていくのです。
「人は亡くなると、その思いもすべて、なくなってしまうんでしょうか」——。そんな牧本の真っすぐな思いが、彼に触れた人たちの心を動かします。それだけに、孤独と死について語っているともいえるこの映画はやたらとほっこりし、クライマックスで気持ちのいい涙が流れることになるのです。
心にしみる奇跡のラスト
牧本は、蕪木のために猛然と進みます。元恋人、昔の同僚、友人、そして娘。蕪木を知る人を訪ね、彼がどんな人物で、どんな人生を送ったかを尋ねて歩きます。
その仕事ぶりは、そもそも世の中の流れとはまったく相反しています。自己責任という言葉が横行し、あらゆる合理化が尊ばれる昨今。それに真っ向から「NO!」を突きつけるよう。でも牧本は決して「合理化なんてNOだ」と言いたいわけではないのです。自ら定めたルールの下、無垢な心で行動するだけ。それはよ~く見ると、いやよ~く見なくても、その根底には掛け値なしの優しさがあるように見えます。風変わりな牧本に笑わされて若干見えにくくなってはいますが、それは深く静かに観る者の心に響くのです。
常識とか世の中の流れに知らず知らず乗っかって、大切なことを見落としていたのは自分じゃないか? そんな思いに気付く頃、映画終盤で奇跡が起きます。目には見えないだけで、あるかもしれないと思える奇跡が。
その光景に胸がいっぱいになりながら、牧本みたいに信念を貫いて生きる人生って、なんてステキだろう! そんなふうに思えるのです。(文・山崎麻見)
映画『アイ・アム まきもと』は9月30日より全国公開
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