香取慎吾主演『犬も食わねどチャーリーは笑う』など9月公開映画の評価は?
今月の5つ星
日本の小説のハリウッド実写版から、香取慎吾3年ぶりの主演作、『燃ゆる女の肖像』で脚光を浴びたセリーヌ・シアマ監督の新作、心震わすインド映画、そして人気コミックの映画化作品まで、見逃し厳禁の作品をピックアップ。これが9月の5つ星映画だ!
ブラピがキレキレ!洗練されたアクションにシビれる
『ブレット・トレイン』9月1日公開
作家・伊坂幸太郎の小説をブラッド・ピット主演で実写化したアクションスリラー。日本の超高速列車を舞台に、世界一不運な主人公が偶然乗り合わせた殺し屋たちと死闘を繰り広げる。アクションに定評があるデヴィッド・リーチ監督が演出する、閉鎖的な環境を活かしたバトルは独創的でありながら洗練されており、消火器や販売用の飲み物など「こんな道具で戦うのか!」という驚きに満ちている。アクションとコメディーのバランスも絶妙で、『デッドプール2』など爽快感ある作品を得意とする監督の真骨頂ともいえる。
コミカルで振り切った演技を披露するブラッドは、クセの強い殺し屋たちに引けを取らない存在感を見せつける。アクションシーンでは、還暦近いとは思えないほどキレのあるクールな動きで観客を魅了する。監督と親交が深い真田広之が披露する日本刀アクションはアートともいえる美しさで、刺客を次々と斬り刻むさまは一見の価値アリだ。(編集部・倉本拓弥)
結婚は墓場?香取慎吾のダメ旦那ぶりがリアル
『犬も食わねどチャーリーは笑う』9月23日公開
香取慎吾と岸井ゆきのふんする結婚4年目の夫婦は、一見すると普通の夫婦だが、実は妻が「旦那デスノート」と題するネットの書き込みに夫への不満をぶちまけていたというブラックコメディー。
ダメ旦那のエピソードがリアルで、世の妻たちの共感を誘う一方、結婚の現実を突きつけられているよう。結婚は人生の墓場なのか? 夢も希望もないのか? そんなネガティブな発想を“あくまでコメディー”という姿勢でユーモラスに描くスタイルは、お笑い芸人を目指していた市井昌秀監督ならではのセンスが光る。しかもその旦那役を国民的アイドルとして知られた香取が演じているという衝撃。ダメ旦那なだけでなく、うんちく好きでかなり煩わしい存在でもある。しかし、そんな姿が妙にハマっていて、あまりの違和感のなさに新鮮な驚きを覚える。香取にとって結婚後初となる夫役で、見事に俳優としての“新しい地図”を描き、新たな魅力を開花させている。(編集部・香取亜希)
大切な人の新たな姿を発見する、かけがえのない時間
『秘密の森の、その向こう』9月23日公開
亡くなった祖母の家を整理するため、母と一緒に森の中にある家を訪れた8歳のネリー。思い出の詰まった場所に耐えかねて母が去った日、ネリーは森で自分と同い年の母と出会う。セリーヌ・シアマによる大人のおとぎ話は、見る者を童心に引き戻し、両親も自分と同じ年齢だったことがある、という当たり前のことを思い起こさせる。
ネリーと8歳の母親という“同い年の親子”を演じたのは、実際の姉妹であるジョゼフィーヌ&ガブリエル・サンス。二人が心を通わせていく場面は、即興的に演出されただけあってリアリティーたっぷりで心温まる。そんななか、劇中で二人が“取り調べごっこ”をしている際に、ふと口にする「秘密とは隠すことではなく、それを言う相手がいないこと」という言葉が印象的である。身近な誰かの知らなかった顔を新たに発見することの希望を描く本作は、そんなささやかなヒントを伝える。大切な人について思いをめぐらし、見る目が変わるきっかけとなるはずだ。(編集部・大内啓輔)
学ぶことへの喜びに満ちたインドの快作
『スーパー30 アーナンド先生の教室』9月23日公開
インドの片田舎で、教育、食事、寮を無償で与える私塾「スーパー30」を始めた、アーナンド・クマールの実話を基にした物語。才能はあるが貧困のために学ぶことができない若者30人を選抜し、インド最高峰の理系大学IIT(インド工科大学)に合格させようと奮起するアーナンドの型破りな挑戦が描かれる。
数学の天才的な頭脳を持つアーナンドが「スーパー30」を開設したのは、貧しさから留学の道を断たれた自身の経験があるから。失意のなか、町でパーパル(インドのおせんべいのようなもの)を売る姿はアーナンドのような優秀な人物でさえ学ぶことを諦めなければならないというインド社会の現実に愕然とする。そんなアーナンドの授業は、ただ大学に合格させるためだけの勉強ではなく、学ぶことへの喜びに満ちており、それは同時に生きることへの喜びにつながる。どんな困難が待ち受けていても、決して諦めないアーナンドと生徒たちの姿に心が震える1本だ。(編集部・梅山富美子)
永野芽郁の怒りと涙の熱演が殴られたような余韻を残す
『マイ・ブロークン・マリコ』9月30日公開
柔らかなパブリックイメージで知られる永野芽郁が、ガニマタでタバコを吸い、パワハラ上司に「うるせぇ、クソが」とぼやく……。平庫ワカの同名漫画を基にした本作で演じたのは、親友マリコ(奈緒)の遺骨を手に弔いの旅に出るやさぐれたOLのシイノだ。
幼い頃から実父の暴力におびえ続けたすえに自死したマリコと対照的に、シイノはたくましくどこか達観しているように見える。軸にあるのは自分を置いていったマリコ、そして彼女を救えなかった自分への怒り。シイノが怒りを爆発させるシーンの一つで、マリコの父から「刺し違える覚悟」で遺骨を奪う場面は有無を言わさぬ凄みがある。そんな彼女が伝えるのは、誰かが自分のために怒ってくれることの尊さ。旅の果てには殴られたような痛みと同時にすがすがしさもある。(編集部・石井百合子)