「ゲーム・オブ・スローンズ」の前日譚「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」ってどんなドラマ?
第1話の米HBOと HBO Max の視聴者数が999万人を超え、米有料チャンネル史上最多数の視聴者数を記録と米Varietyが報じた、話題を集めるドラマ「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」とは、いったいどんなドラマなのか。その魅力を紹介する。(文・平沢薫)
あの世界的ヒット作「ゲーム・オブ・スローンズ」の前日譚
基本は、人気ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」(以下「GOT」)の約200年前を描く前日譚。「GOT」といえば、中世ヨーロッパ的な架空の世界を舞台に王座をめぐる人間たちのドラマを描き、米エミー賞史上最多の59賞受賞を成し遂げた大ヒット作。本作は、その「GOT」と同じ世界を舞台に、「GOT」の中心人物の一人、ドラゴンを操る女王デナーリス・ターガリエンの祖先たち、ターガリエン家の人々の間で起きた、王座の争奪戦を描いていく。この内乱は、原作で「この戦いのためにほとんどのドラゴンが死滅した」と書かれている壮絶な戦いへと発展していく。
こうした物語なので、「GOT」の前日譚であることを強調する演出もたっぷり。第1話冒頭のテロップとラストシーンの王のセリフ、そして第4話のラスト近くの王のセリフには、「GOT」に直結する表現があり、「GOT」の感動を思い出して興奮せずにはいられない。
「ゲーム・オブ・スローンズ」直系の欲望と陰謀の人間ドラマ
時代は、ターガリエン家の最盛期。現在、一族が引き継いできた王座に就いているのは、ヴィセーリス(パディ・コンシダイン)。彼は、切望していた息子を生後数日で失い、王位継承者に娘レイニラ(ミリー・オールコック)を指名する。が、その後、娘レイニラの親友アリセント(エミリー・キャリー)と再婚して、息子が誕生。王位継承者について、周囲の意見が2つに分かれていく。その中で、以前から王座を狙う王の弟デイモン(マット・スミス)、王の執政官“王の手”であるアリセントの父オットー(リス・エヴァンス)、前王の娘だが女性である故に王座を継承できなかったレイニス(イヴ・ベスト)とその夫コアリーズ(スティーヴ・トゥーサント)率いるヴェラリオン家らが、それぞれ策略を張り巡らせていく。
この王位争奪戦の中、迫力の戦闘、陰謀と策略、人間心理の複雑さが描かれていくのは「GOT」と共通。少々残虐でグロテスクな演出や、エロティックな表現も「GOT」と同じ。ドラゴンはより数が増え、大活躍する。だが「GOT」とは異なるのは、争奪戦が同じターガリエン家の血縁者たちの間で行われること。そのため争いがより血なまぐさい。また、戦闘だけでなく、誰が誰と手を組むのかといった政治ドラマの要素も強くなりそうだ。
「ゲーム・オブ・スローンズ」との共通アイテムが続々
時代は違うが同じ世界なので「GOT」との共通要素があちこちに。まずオープニングがそっくり。音楽は「GOT」のアレンジ版、映像も似ていて「GOT」は地図だったが、こちらは家系図。
“鉄の玉座”も登場、玉座は王が倒した敵の剣で作られており、「GOT」では剣が刺さっているのは王の椅子だけだったが、この時代の玉座は剣が周囲にも広がっている。
また、同じ家系が登場し、王位継承者への忠誠を誓うシーンに、スターク家やバラシオン家の当主が登場したり、王の娘との結婚希望者にラニスター家の人物がいたりする。王宮の役職も類似していて、王の補佐官が“王の手”、王族の護衛が“王の盾”という呼称も同じ。これらが登場すると「GOT」の出来事を思い出してしまうはず。
そして「GOT」と同じジョージ・R・R・マーティンによる原作小説を踏まえた出来事やセリフもあちこちに。現在の王ヴィセーリスが、背中の傷を治療させながら「王座で少し切っただけだ」と言うと、執政官が医師に「誰にも言うな」と口止めするのは、原作に書かれている、“鉄の玉座”は王にふさわしくない者が座ると傷つけるという伝承を連想させる。また、王妃アリセントがレイニラに、彼女と叔父デイモンとの噂について「ターガリエン家には不埒(ふらち)な風習がある」と言うのは、原作のターガリエン家では近親結婚が慣習とされていたという設定を思い出させる。原作に登場する名剣“ダーク・シスター”が、レイニラのセリフにポロリと出てきたリもする。そうした原作由来の小ネタも楽しい。
クリエイターは「ゲーム・オブ・スローンズ」から継続
本作は、製作陣も「GOT」直系。だから「GOT」の世界観、雰囲気がそのまま保たれている。まず、「GOT」と本作の原作小説「氷と炎の歌」シリーズの作者ジョージ・R・R・マーティンが参加。彼は「GOT」では副製作総指揮と脚本に参加していたが、本作ではクリエイター・コンビの一人で、製作総指揮にも参加。もうひとりのクリエイターは、ドラマ「COLONY/コロニー」のクリエイター、ライアン・J・コンダルだ。
さらに、「GOT」のシーズン6第9話「落とし子の戦い」名監督ミゲル・サポチニクがショーランナーと製作総指揮に参加し、本作の第1話、第6話、第7話の監督も手掛けた。サポチニクはシーズン1で本作から離脱するが、代わりに、シーズン2からは「GOT」シーズン7第6話「壁の向こう」の名監督アラン・テイラーが製作総指揮に参加し、第1話を監督する。
英国の実力派俳優が競演、吹き替え版の声優も充実
「GOT」同様、人間心理の奥深さを描く群像ドラマなので、俳優陣も、日本語吹き替え版の声優陣も実力派の人気者が集結。主要登場人物には「GOT」同様、英国俳優たちが配され、ヴィセーリス王役は『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』などエドガー・ライト監督作の常連でもあるパディ・コンシダイン。吹き替え声優は『Mr.&Mrs.スミス』のブラッド・ピットなど2枚目役が多いベテランの堀内賢雄。
王の執政官オットー役は『キングスマン:ファースト・エージェント』のラスプーチン役とは打って変わってシリアス演技のリス・エヴァンス。吹き替え声優は『ジュラシック・ワールド』シリーズでジェフ・ゴールドブラムの声を担当した大塚芳忠。王座を狙う王の弟デイモン役は「ドクター・フー」「ザ・クラウン」の人気個性派俳優マット・スミス。吹き替え声優は『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のアダム・ドライヴァーや、『君の名前で僕を呼んで』のアーミー・ハマーなどを担当している津田健次郎が務める。
女優陣では、王の娘レイニラの少女時代をテレビ「レコニング ~深淵をのぞく者~」のミリー・オールコック、成年時代を『帰らない日曜日』のエマ・ダーシーが務める。吹き替え声優は、本年5月放送の日本テレビ系「金曜ロードショー」のデジタルリマスター版『ローマの休日』でオードリー・ヘプバーンの声に抜擢されて話題を集めた、早見沙織。彼女の親友で、王が再婚するアリセント役は、少女時代を『アナスタシア・イン・アメリカ』のエミリー・キャリー、成人時代を『レディ・プレイヤー1』のオリヴィア・クック。吹き替え声優は『SING/シング』シリーズのブタのロジータ役で歌声も披露した坂本真綾が担当する。
シーズン1第1話の大好評を受けて、米HBOはすでにシーズン2の制作を発表済み。原作者ジョージ・R・R・マーティンは、膨大な年月におよぶこの世界の年代記を書いているので、さらにスピンオフ・シリーズを作ることも可能。「GOT」の世界がどこまで広がるのかも楽しみだ。