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ボンドファン必見!『007』シリーズの音楽制作の裏側に迫る『サウンド・オブ・007』

厳選オンライン映画

賛否含めて論じる注目の7作品 連載第3回(全7回)

 日本未公開作や配信オリジナル映画、これまでに観る機会が少なかった貴重な作品など、オンラインで鑑賞できる映画の幅が広がっている。この記事では数多くのオンライン映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。各ライターが賛否含めて論じる注目の7選として、毎日1作品のレビューをお送りする。

※ご注意 なおこのコンテンツは『サウンド・オブ・007』について、ネタバレが含まれる内容となります。ご注意ください。

サウンド・オブ・007
『サウンド・オブ・007』より(C)Amazon Studios

『サウンド・オブ・007 』Amazon Prime Video
上映時間:88分
監督:マット・ホワイトクロス
出演:ダニエル・クレイグラミ・マレックほか

 映画『007』シリーズの冒頭で、銃口の中を横切ろうとするジェームズ・ボンドがこちらを撃って赤い血が流れる「ガンバレル・シークエンス」と呼ばれるお約束映像と、そのバックに流れるテーマ曲は1962年の第1作『007/ドクター・ノオ』(公開当時の邦題は『007は殺しの番号』)から登場するおなじみのもの。この「ジェームズ・ボンドのテーマ」が、モンティ・ノーマンの書いた楽曲をジョン・バリーが高鳴るジャズ&ポップス&ロックを融合させたスタイルに編曲して誕生したことは、ファンなら誰もが知るところだ。

 今年7月に94歳で亡くなったモンティ・ノーマンは、ラトビア出身の両親のもとにロンドンのイーストエンド地区で生まれ、1950年代はビッグバンドの歌手として活躍し、その後ミュージカルの作曲家に転身。『007/ドクター・ノオ』のための作曲を依頼されたものの、映画音楽の制作には不慣れで、特にテーマ曲のアイデアが浮かばずに頭を悩ませていたという。

 そんな彼が時間的な制約のなかでふと思いついたのは、以前「A House for Mr Biswas」というミュージカルのために書いた曲。トリニダード(現トリニダード・トバゴ)のインド系移民社会を舞台とする小説が原作の同ミュージカルで、主人公が「僕は不運なくしゃみと共に逆子で生まれた……」と自らの出生を嘆く場面の歌「Bad Sign,Good Sign」が、なぜか英国諜報部員007のキャラクターに合うと考え、シタールの代わりにギターで演奏してみたのだとか。つまりあの耳に残る旋律はもともとインド風のメロディーだったのだ!

 そんな驚くべき逸話で幕開けする『サウンド・オブ・007』は、2022年に誕生から60周年を迎えた『007』シリーズの歴史を、サウンドトラックや主題歌を通して振り返る魅惑の音楽ドキュメンタリー映画。歴代のサントラ作曲家や主題歌を担当したミュージシャンたちを筆頭に、ダニエル・クレイグ、ラミ・マレックら出演者や監督、プロデューサーたちのインタビュー、レコーディング映像などを交えてシリーズの音楽制作の裏側に迫る。メガホンを取ったのは2014年にBBCアメリカで放送された、スパイ小説作家イアン・フレミングの軍隊時代を描いたテレビミニシリーズ「ジェームズ・ボンドを夢見た男」と同じマット・ホワイトクロスで、ポップな1960年代映画風のカラフルかつスタイリッシュな映像が散りばめられた、とても楽しい作品に仕上がっている。

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007
(C)Amazon Studios

 全編に見どころ聴きどころが盛りだくさんだが、核になるのはやはり、製作陣が「力強さが足りない」と難色を示したノーマンのインド風旋律に大胆なアレンジを加え、あの躍動感とスリリングで危険な香りあふれるオーケストラサウンドとして改編させた音楽監督ジョン・バリーの存在感。彼は合計で11本の『007』作品の作曲を手掛けたシリーズ最大の立役者であるが、特に面白いのはバリーが初めて主題歌の作曲も担当した第3作『007/ゴールドフィンガー』(1964)にまつわるエピソードだ。

 英国の実力派ジャズ・シンガーだったシャーリー・バッシーがパンチのきいた歌唱で観客に強烈な印象を与え、世界的に大ヒットさせたシリーズ最高峰の主題歌(の旋律)をこの世で(バリー以外)初めて耳にしたであろう人物が、あの英国を代表する俳優のマイケル・ケインだったという事実。当時ルームメイトのテレンス・スタンプと女性の出入りが多いことでもめて部屋から追い出されたケインが、親友だったバリーの家に転がり込んでいた時に……と詳しいことはぜひ本編で! なお、シャーリー・バッシーはオープニング・タイトルでボーカル入り主題歌が流れるスタイルを確立して、この後も2作品を担当することになるのだが、第7作『007/ダイヤモンドは永遠に』(1971)に関するちょっと“色っぽい”エピソードも明かされるのでお楽しみに。

 もちろん作品ごとに人気アーティストを起用し、毎回主題歌が誰になるのかで話題を呼ぶのも『007』シリーズが確立した偉業のひとつ。第8作『007/死ぬのは奴らだ』(1973)のポール・マッカートニーウィングスから第10作『007/私を愛したスパイ』(1977)のカーリー・サイモン、米ビルボードのシングルチャート「ホット100」で見事No.1に輝いた第14作『007/美しき獲物たち』(1985)のデュラン・デュランや、近年の第22作『007/慰めの報酬』(2008)のジャック・ホワイトアリシア・キーズ、第23作『007 スカイフォール』(2012)のアデル、第24作『007 スペクター』(2015)のサム・スミスまで、それぞれ節目を飾ったきら星のようなミュージシャンたちにまつわるエピソードを披露。とりわけエイミー・ワインハウスレディオヘッドら、依頼しながらも実現しなかった話に触れるくだりは必見である。

 そして熱心な往年のマニアだけでなく、ダニエル・クレイグ版からの若いファンが心をつかまれる内容も満載。クレイグのボンド卒業作となったシリーズ最新第25作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020)の音楽が、巨匠ハンス・ジマーの手腕と、アカデミー主題歌賞を受賞(シリーズ3度目)したビリー・アイリッシュ&兄フィニアス・オコネルとの見事なコラボによってどのようにかたち作られていったかを観ると、この60年の歴史を持つ『007』シリーズの音楽がいかに過去への敬意の上に成り立ち、そこに“新しさ”を加えて進化を続けてきたかがわかるだろう。あの衝撃のラスト・シーンの音楽に込められた思い……きっと涙がとまらないはず!(文・東端哲也、編集協力・今祥枝)

『サウンド・オブ・007 』はAmazon Prime Videoで独占配信中

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