シネマトゥデイが選ぶ映画ベスト20(2022年版)
2022年1月1日からの1年間に劇場、そしてストリーミングサービスで日本初公開された全ての映画から、シネマトゥデイ編集部がベスト20作品を決定! ストーリー、キャスト、演技、映像、社会性、エンターテインメント性、観客動員数、話題性などあらゆるポイントを踏まえて議論し、今年を代表する20作品を選び出しました。
第1位『トップガン マーヴェリック』
『トップガン マーヴェリック』抜きでは2022年の映画は語れない! それほどまでに世界中を夢中にさせた本作は、トム・クルーズを世界的スターにした『トップガン』(1986)の続編。史上最高のパイロット、マーヴェリック(トム)が、新世代のパイロットと共に極秘ミッションに命を懸ける設定は36年ぶりの続編だからこそ説得力がある。トムが一貫して劇場公開にこだわったのも納得のハードなドッグファイトシーンや胸熱なストーリーは、多くのリピーターを生み出すことに成功。コロナ禍で劇場から遠のいていた観客を呼び戻した功績は大きい。
第2位『コーダ あいのうた』
フランス映画『エール!』をリメイクした本作は、耳の聞こえない家族の通訳係だった少女が、あるとき歌の才能に気づき、音大進学を夢見て成長する姿をドラマチックに描く。飾らない演技と美しい歌声を披露した主人公役のエミリア・ジョーンズは要注目株だ。そして、マーリー・マトリン、トロイ・コッツァーなどろう者役にろう者の俳優を起用したことは映画界に刺激を与え、さらに、動画配信系の作品として初のアカデミー賞作品賞を獲得したことで、配信系映画の動向にも影響をもたらす重要な一本にもなった。
第3位『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
今年最初の話題をさらった作品といえば、やはりこれ。トム・ホランド版『スパイダーマン』シリーズ第3弾にして最終章だろう。“マルチバース”の設定を最大限に生かし、トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム演じる歴代3人のスパイダーマンが過去作のヴィランたちを相手に共闘する姿はまさに胸アツ。「体から糸を出すの?」「きみは“アメイジング”だ」など、互いをイジり合うスパイダーマン同士のやりとりも最高だ。20年の間で2度もリブートされ、モヤモヤを抱えていたファンをも大満足させた。
第4位『RRR』
大ヒットインド映画『バーフバリ』のS・S・ラージャマウリ監督が、イギリス植民地時代のインドを舞台に、命懸けの使命を負った、2人の男の熱い友情と戦いを描くアクション巨編。ラストまでハイテンションが持続するクライマックスの連続はまさにエンターテインメントの極致。観る者全てを虜にするその熱量で日本でも多くのファンを獲得し、現在もアメリカの映画賞を騒がせるなど、他に類を見ないインド映画ならではのパワーを世界に知らしめた一本として選出された。
第5位『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
全世界興行収入歴代1位を獲得したジェームズ・キャメロン監督作『アバター』(2009)の13年ぶりとなる続編。惑星パンドラの森林から海の世界へと舞台を移し、ナヴィ族の一員となった主人公が新たな戦いに身を投じていく。世界中を虜にした3D映像は新次元に到達。滑らかな映像美が際立つ水中シーンは特に心地よく、前作以上の没入感で観客をパンドラへと誘う。『タイタニック』を連想させるセルフオマージュも盛り込まれており、キャメロン監督の真骨頂。映像革命の一端を担う作品として映画史の中でも重要な作品の一つである。
第6位『FLEE フリー』
祖国を追われたアフガニスタン難民の壮絶な記憶をたどるドキュメンタリー。家族と居場所を奪われ、身分を偽って生きることを余儀なくされた主人公アミンの逃走の日々を通して、故郷を捨てざるを得なかった人々の抱える傷を克明に描き出す。告白者のプライバシーに配慮したアニメーション表現は、主人公の物語にリアリティーをもたらす。紛争、難民、人種差別、LGBTQ+など現代を象徴するテーマを内包し、ウクライナで起きている紛争を重ねる描写もあり、まさに今観るべき作品として選出された。
第7位『ウエスト・サイド・ストーリー』
多くの移民たちが暮らし、対立が激化する1950年代のニューヨークを舞台にした不朽の名作ミュージカルを、巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が映画化。この映画化が念願だったと語るスピルバーグ監督による、アンセル・エルゴートとレイチェル・ゼグラーの身長差を生かしたロマンチックな歌唱シーンや、緊張感が走るナイフでの決闘シーンなど細部にまでこだわった演出により、時間を感じさせない作品に仕上がっている。移民や人種間の対立が大きな問題となっている現代だからこそ、意味のあるリメイクとなった。
第8位『エルヴィス』
『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマン監督らしいきらびやかな演出で、エルヴィス・プレスリーの波乱万丈な生きざまをノンストップに映し出した伝記映画。エルヴィス役に抜てきされたのは、新星オースティン・バトラー。役づくりに2年を費やし、本来の自分の声がわからなくなったというほど、エルヴィスに成り切った彼の演技が最大の見どころだ。しかも、エルヴィス初期の楽曲は、オースティン本人が歌っているというから驚き。アカデミー賞ノミネートも期待がかかるニュースターを誕生させた作品として評価したい。
第9位『ボイリング・ポイント/沸騰』
ロンドンの高級レストランの一夜を描いた内幕もの。アカデミー賞の前哨戦でもある英国アカデミー賞では、英国作品賞をはじめ4部門にノミネートされた。一年で最も忙しいであろうクリスマス前夜に予期せぬトラブルが続発し、何やら訳ありのシェフを軸に厨房とフロアの一触即発の模様にハラハラし通し。「全編90分ワンショット」の撮影がドキュメンタリーと見まがうような臨場感を生み出した技術面の功績は大きい。人種差別やSNSなど、さりげなく社会問題も織り交ぜた緻密な脚本も後押しした。
第10位『PLAN 75』
75歳以上が自らの生死を選択できる「プラン75」。高齢化問題の解決策として同制度が施行された日本を舞台にしたヒューマンドラマだ。現代社会の問題に真っ向から切り込んだテーマを軸に、フィクションと現実の境界を超えるようなリアリティー、弱者に目を向けたストーリー、主演の倍賞千恵子をはじめとするキャストの迫真の演技など、芸術性も兼ね備えた総合的な質の高さが突出している。脚本も手掛けた早川千絵監督の長編映画デビュー作であり、第75回カンヌ国際映画祭ではカメラドール特別表彰を受けるなど、世界的な評価も獲得した。
第11位『ミセス・ハリス、パリへ行く』
ディオールのドレスを手に入れようとパリへと向かう、もうすぐ60歳の家政婦が主人公の同名小説を映画化。名女優レスリー・マンヴィルがお人よしで愛らしいミセス・ハリスを好演し、アンソニー・ファビアン監督がドレスと恋に落ちる瞬間の彼女の胸のときめきまで魔法のように美しいビジュアルでスクリーンに刻み込んだ。夢を持つことの素晴らしさを伝える大人のおとぎ話としても一級品だが、それだけでなく、年齢、階級、職業などから“透明人間のように扱われてきた女性”の存在と、彼女が持つ力を可視化した社会的意義も大きい。
第12位『THE FIRST SLAM DUNK』
世代を超え多くの人の心を掴んで離さないバスケ漫画の金字塔「SLAM DUNK」を、原作者・井上雄彦自身が監督・脚本を務め、アニメーション映画化した本作。原作者・井上が手掛けたからこその臨場感あふれるバスケシーンの描写は圧巻で、試合を観戦している観客の1人となったような高揚感を味わうことができる。原作やテレビアニメ、バスケを知らなくても広い層の人が楽しめるストーリーとなっており、試合進行を軸に、登場人物の背景をうまく入れ込んだ物語は涙を誘う。新たな表現のスポ根映画として映画史にその名を刻むのは間違いないだろう。
第13位『THE BATMAN-ザ・バットマン』
80年以上の歴史を誇るDCヒーロー・バットマンを、『猿の惑星』シリーズのマット・リーヴス監督が映像化。過去作とは一線を画したフィルムノワール調で、若きブルース・ウェインの葛藤と試練を活写した。特筆すべきは、ポール・ダノ演じる悪役リドラーの存在感。実在するシリアルキラーをモデルにしており、初登場シーンからただならぬ狂気を放つ。謎解きを主軸とするストーリーも斬新で、バットマン映画の新たな可能性を提示した。同作から派生したスピンオフドラマなど、リーヴス監督によるDCユニバース構想も大いに期待できる。
第14位『線は、僕を描く』
横浜流星と小泉徳宏監督がタッグを組み、同名小説を映像化した王道の青春映画。何かに情熱を注いで一生懸命になる姿は、こんなにも清々しく、人の心を打つものなのかと、青春の輝きの尊さを再認識することができる。特に無気力だった主人公の眼差しに、光が宿る瞬間の映像は、観客が一瞬にして主人公の思いに共鳴してしまうかのような見事な表現だ。題材となった水墨画の奥深さは、目から鱗の新発見。白と黒だけの世界に見えて、そこには描き手の持つ色、人生そのものが反映される。まさに、「線は、僕を描く」というタイトルが絶妙な作品だ。
第15位『あのこと』
今年、ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの小説を映画化。中絶が法的に禁じられていた1960年代のフランスを舞台に、妊娠をした女子大学生アンナの12週間にわたる苦難を描く。カメラはドキュメンタリーのように主人公に寄り添い、彼女が孤独の中でもがく様子を臨場感たっぷりに映し出していく。劇的な演出は排除され、目を背けたくなる描写が正面から捉えられる。これまでに例がないと言っていいほどの“痛み”の表現を臨場感と緊迫感たっぷりに追体験する革新的一作となっている。
第16位『流浪の月』
凪良ゆうの小説を『悪人』などの鬼才・李相日監督が映画化。かつて誘拐事件の被害者と加害者として世間に名を知られた少女と少年が、15年後に思わぬ再会をして周囲に波紋を呼んでいく。『怒り』に続いて李組に挑んだ広瀬すずをはじめ、松坂桃李、横浜流星らメインキャストがパブリックイメージを一新する体当たりの熱演を披露。独自のコミュニケーションでそれを引き出した李監督の演出、『パラサイト 半地下の家族』などの名カメラマン、ホン・ギョンピョの映像美など、小説の映画化の成功例として高い評価を受けた。
第17位『すずめの戸締まり』
災いをもたらす扉を閉めるため、日本各地を旅する少女・すずめの成長を描いたアニメーション。新海誠監督の集大成とも言われる本作は、ファンタジックな映像とRADWIMPSによる音楽が美しく、興行収入100億円を突破する大ヒットを記録した。子供が楽しめるエンターテインメント性のある作品でありながら、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻など、災い続きの現代社会とのリンクを感じさせ、集落の過疎化や、大震災のその後など社会的な問題と今一度向き合うことができる作品でもある。
第18位『宮松と山下』
佐藤雅彦、関友太郎、平瀬謙太朗から成る監督集団「5月」が手掛ける一風変わった物語。過去の記憶がないエキストラ俳優の宮松が、ある日訪ねてきた男によって“もう一人”の自分がいることを知らされたことから始まる。宮松の日常かと思えば映画の撮影風景だったという冒頭から、仕掛けに満ちた展開が続いていく。説明的なセリフは極力排除され、観客は画面をしっかり見つめることを自然と促される。果たして、自分が自分であるとはどういうことなのか? 深い余韻を残す新しい映画体験となるはずだ。
第19位『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
『パンズ・ラビリンス』『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督が、長年温めてきた童話「ピノキオ」の映画化企画。ムッソリーニの下、ファシズムが台頭する1930年代のイタリアが舞台なだけにデル・トロ監督らしいダークな世界観は残しつつも、手作りの温もりと繊細さにあふれたストップモーション・アニメーション・ミュージカルとして家族で鑑賞できる感動作に仕上がった。戦争の危機が現実のものとなった現代にこそ、反戦や命の重さを伝える本作のメッセージは強く響き、まさに時代が求めた「ピノキオ」といえる。
第20位『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』
注目の映像作家・竹林亮がメガホンを取った作品。とある広告代理店のオフィスを舞台に、謎のタイムループに巻き込まれた社員たちが奮闘する。毎日同じようなことを繰り返す会社員とタイムループを組み合わせる発想が秀逸で、上司が部下の言うことをなかなか信じないなど、随所に登場する会社あるあるに共感すること必至だ。数々の作品が作られてきたタイムループというジャンルだが、アイデアとオリジナリティーにあふれた脚本、スタッフ・キャストの情熱がそろっていれば、新鮮で心地よい感動を観客に届けられると証明した作品だ。