谷口賢志、変身は最高の瞬間 スーパー戦隊・仮面ライダー・ウルトラマン出演で感じた特撮の可能性
特撮ドラマ「救急戦隊ゴーゴーファイブ」のゴーブルー/巽ナガレ役でデビューした俳優・谷口賢志(45)。「仮面ライダーアマゾンズ」では鷹山仁/仮面ライダーアマゾンアルファ、「仮面ライダーセイバー」ではバハト/仮面ライダーファルシオンを演じ、1月21日に最終回を迎えた「ウルトラマンデッカー」でデッカー・アスミ/ウルトラマンデッカー役を務め、日本の三大特撮を制覇した。史上二人目となる偉業を達成した谷口が、過去4回の変身を振り返りながら、特撮が役者人生に与えた影響を語った。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
特撮には世界に誇る発信力と吸引力がある
Q:スーパー戦隊、仮面ライダー、ウルトラマン全てに変身した現在の心境は?
谷口賢志(以下、谷口):45歳まで役者を続けてきた中で、三大特撮ヒーローに変身できるとは思っていなかったので、とにかく全てが驚きです。半分ぐらい不安もありました。できることは全てやってきたつもりでしたし、自分がこれ以上ヒーローを演じることができるのかという思いもありました。今回ウルトラマンに変身したことで、世界中のみなさんが“三大特撮制覇”を喜んでくださって、「ウルトラマンデッカー」を見て盛り上がっている環境を目の当たりにして、ホッとしたと同時に、達成できてよかったという実感が湧いてきました。
Q:Twitterでは特撮出演者はもちろん、ゲームデザイナーの小島秀夫監督をはじめ、多方面から祝福の声が届いていました。
谷口:小島監督は、僕が出演した「仮面ライダーアマゾンズ」を観てくださって、三大特撮を制覇した「ウルトラマンデッカー」第14話放送後に「偶然ですが、さっきデッカー観ました」と呟いてくださいました。スーパー戦隊、仮面ライダー、ウルトラマンをはじめとする日本の特撮には、世界に誇る発信力と吸引力があると思うんですよね。伝統ある特撮で、自分がやりたい役、全力で挑んだお芝居、それをみなさんに楽しんでいただけたということを4回も経験できて、自分は幸せ者なんだなと改めて思いました。
Q:特撮ヒーロー初変身は、デビュー作「救急戦隊ゴーゴーファイブ」(1999~2000)のゴーブルーでした。谷口さんの原点となった初変身、今でも覚えていることはありますか?
谷口:「ゴーゴーファイブ」は24年前の作品になりますが、今でも覚えているのは撮影初日です。撮影前に変身(作中では「着装」)とは何たるかを教わる日がありまして、アクション監督の竹田(道弘)さんに「お前たちはこれから、日本のみならず、様々な国の子供たちのヒーローになるんだ。それに変身するためのポーズを今からやるんだ」という覚悟などを叩き込まれて、1時間ぐらいポーズの練習をしていました。その時点で、自分は「めっちゃ辛い、辞めたい……」と思っていた記憶があります(笑)。
谷口賢志、変身の歴史
Q:2度目の特撮作品となった「仮面ライダーアマゾンズ」(2016)では、鷹山仁として仮面ライダーアマゾンアルファに変身しました。谷口さんの代表作の一つとなった「アマゾンズ」での変身で感じたことは?
谷口:スーパー戦隊出演からかなり時間が経っていたので、「仮面ライダーアマゾンズ」で衝撃を与えたい、お世話になった方に恩返しをしたいという気持ちが強かったです。「ゴーゴーファイブ」脚本家の小林靖子さんが「アマゾンズ」を手がけてくださって、当時僕の芝居がとんでもなく下手だったことから、冗談で「二度と仕事したくない(笑)」って言っていたことあったので、世界はもちろん、小林さんに対しても見たことのない「仮面ライダー」を届けたいと意気込んでいました。
小林さんも参加した本読みの時に、誰にも聞こえないような小さな声で「アマゾン」と言ってみたんです。プロデューサーからは「ちょっと暗すぎない?」という声もありましたが、石田(秀範)監督は「それでいきましょう」とOKを出しました。初変身の撮影に入ると、アマゾンズドライバーをキャッチするところから始まり、監督から「それで卵割れ! 行くぞ!」と指示がありました。車から降りてベルトを巻いて「アマゾン」と発したのですが、テンションが上がって力んでしまって、カットがかかってしまい……。監督から「テメェ、それじゃ美味しくないんだよ!」とお叱りを受けました(笑)。カメラマンにも「画がキレイすぎる。木の枝が被ってもいいから、ぼやかせてくれ」と指示が入って、あの初変身シーンが完成しました。それくらい、気合いが入った変身でした。
Q:『劇場短編 仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』(2020)では不死身の剣士バハトを演じて、仮面ライダーファルシオンに変身しました。2度目の仮面ライダー変身はいかがでしたか?
谷口:変身ポーズを考えていただけることになり、僕から「無銘剣虚無(ファルシオンの変身アイテム)を自分に突き刺して変身したら駄目ですか?」と提案してみたのですが、「自分に剣を刺して変身するのはちょっと……」と監督やプロデューサーから言われました(笑)。その後、アクション監督から「自分の手で刃を握って、その後に炎が飛び出るのはどうですか?」と提案がありまして、ファルシオンの変身ポーズが決定しました。
また、スタッフさんが変身前に無音になるシーンを作ってくださったんです。無音の後に炎が出る演出が「なんてかっこいい愛のある編集なんだ」と感動しました。テレビシリーズに出演する時は、無音が続くと放送事故になってしまうので、スタッフさんの編集と同じ効果を生み出すために、指で「シー」というポーズを入れて変身しました。視聴者からは「バハトの変身がカッコいい」とありがたい評価をいただいたので、あの変身ポーズでよかったです。
Q:「ウルトラマンデッカー」ではデッカー・アスミとして予告なしで本編に登場し、主人公アスミ カナタの目の前でウルトラマンに変身しました。ウルトラマンへの変身はいかがでしたか?
谷口:事前にカナタと同じ変身動作を動画でいただいて、自宅でしっかり練習してから撮影現場に行きました。テスト撮影で、カナタと同じ変身を披露したら、監督から「デッカー・アスミは大丈夫です。未来でたくさん戦っている男が、同じ動きをするのは少し違う気がして……。ウルトラDフラッシャーをかざしたら、そのまま変身でいきます。練習していただいたのに、すみません」とお話があり、カナタとは違う変身になりました。
特撮に出会わなければ「役者を辞めていた」
Q:デビューから24年、特撮が谷口さんの人生にもたらしたものは?
谷口:「ゴーゴーファイブ」当時は、特撮が若手俳優の登竜門ではなく、戦隊作品に出演したから売れる時代ではありませんでした。「ゴーゴーファイブ」が終了して、マネージャーといろいろ挨拶回りをしても、子供番組に出た人間は他のドラマには出られないという扱いを受ける立場でした。ですが、僕たちが受けた声援や、泣いてくれた子供たち、夢を抱いてくれたことに対する責任があると思い、もっとお芝居が上手くなりたいと覚悟を持つことができました。4回変身したことで、特撮を愛してくださる人がたくさんいることを身にしみて感じましたし、常に甘えることなくやっていきたいという気持ちも強いです。三大特撮で変身しているからこそ、特撮はずっと続いてほしいですし、日本人みんなが大切にしてほしいと願っています。
Q:もしも特撮に出演していなかったら、役者人生は今変わっていたと思いますか?
谷口:恐らく、役者を辞めていると思います。「ゴーゴーファイブ」に出演するまでバーテンダーのアルバイトをしていて、オーディションと同時期にラスベガスへ社員旅行に行く予定だったんです。みんなでお揃いのタトゥーを入れるという話もしていたのですが、オーディションの結果がわからないとラスベガスに行けなくて、「どうにかならないのか……」と考えているうちに審査が進み、ゴーブルーに決まったと連絡を受けました。もし「ゴーゴーファイブ」の出演が決まっていなかったら、ラスベガスでタトゥーを入れていた可能性がありますね(笑)。20年以上役者として活動していますが、その半分は勉強の日々でしたし、まだ10年ぐらいしか続けていない感覚です。「ゴーゴーファイブ」に出会わなければ、全てが変わっていたと思います。
変身している時間をずっと味わっていたい
Q:三大特撮を制覇した谷口さんにとって、“変身”とはどんな意味がありますか?
谷口:各作品に思い入れがあるので一概には言えませんが、変身は最高の瞬間です。自分が望むことと人が望んでいることが、完璧な状態でマッチする時間。人生でそんなことは滅多になくて、それを実現できる贅沢な時間なんです。ずっと変身していたいし、あの時間をずっと味わっていたいと思うほど幸せですね。役者が表現したくても届かない時だってありますし、演技が下手と言われることや、自分がやりたくない表現だってあるかもしれません。完璧になることは難しいなかで、その瞬間を役者や視聴者にも生み出すことができる特撮はやっぱりすごいですし、みんなの夢を背負っている作品です。
Q:もしも5度目の変身があるとしたら?
谷口:さすがに、5回目はギャグになってしまわないですかね?(笑)。「アマゾンズ」でもスピンオフとかの選択肢もあったと思うのですが、(東映の)白倉(伸一郎)プロデューサーは「鷹山仁は、ここで終わらせるのがカッコいい」というスタンスで、僕もそういう考え方が好きです。「ウルトラマンデッカー」でも、デッカー・アスミをもう一度登場させることは可能だったと思いますが、「2話で伝説を作ってください」の方がすごくカッコいい。演じることは出会いだと思っていて、作品やスタッフさん、見てくださるファンと出会うために僕たちは活動しているので、今後もたくさんの作品に出会いたいですし、その中で、また何かに変身できる作品があるのならば、喜んで挑戦します。
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谷口賢志と特撮は切っても切れない関係。さまざまな人の願いを胸に変身する責任の重さは、スーパー戦隊、仮面ライダー、ウルトラマンとして戦った彼が一番理解している。20年以上地球を救ってきた谷口が、再びヒーローとして子供たちの前に戻ってくる日を楽しみに待ちたい。
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