アカデミー賞作品賞の大本命は『エブエブ』！対抗馬は？
第95回アカデミー賞
3月12日（現地時間）にハリウッドのドルビー・シアターで授賞式が開催される、第95回アカデミー賞の一番の目玉である作品賞にノミネートされたのは、10作品。アカデミー賞の投票開始前の2月下旬に発表されるPGA（全米プロデューサー組合）賞の作品賞とSAG（全米映画俳優組合）賞のキャスト賞の影響力は強く、これらの賞を受賞した作品がオスカー作品賞を受賞する可能性が高いが（昨年は両賞並びにアカデミー賞作品賞も『コーダ あいのうた』が受賞）、全ノミネート作品の紹介とともに、ここまでの賞レースを基に現時点での受賞予想をしてみたい。（文・小林真里）
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
本命は、本年度アカデミー賞最多の10部門11ノミネートとなったダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート（通称ダニエルズ）監督作品。中国系移民の中年女性が突如、マルチバースの破壊をもくろむ強大な敵を倒すべく戦う羽目に陥る、という形而上学的なSFアクションコメディーだ。アジア系俳優を前面に出しつつ、複数の異世界を縦横無尽に飛び回りながらスリリングなアクションを畳み掛ける、自由度の高いポップでカッティングエッジな作風が本作の最大の魅力。先鋭的な作品を輩出する人気インディペンデントスタジオ、A24の最大のヒット作となった。前哨戦では放送映画批評家協会賞で作品賞を受賞。ゴールデン・グローブ賞でも2部門で受賞している。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』（日本公開3月3日）
監督：ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
出演：ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー
上映時間：139分
配給会社：ギャガ
(C) 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
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『フェイブルマンズ』
対抗は、スティーヴン・スピルバーグ監督のこの半自伝的な青春ドラマだろう。スピルバーグの思春期を反映させた、映画への愛情と映画製作への情熱がたっぷり込められたハリウッド映画讃歌のようなドラマチックな作品だ。映画が持つマジックを丹念に表現した、ハリウッドで大きな影響力を持つスピルバーグのこのパーソナルな作品が、アカデミー会員たちの心を揺さぶることを想像するのは難しくない。作品賞を受賞すれば、スピルバーグ監督作としては『シンドラーのリスト』（1993）以来ということになる。ゴールデン・グローブ賞で作品賞（ドラマ部門）を受賞。アカデミー賞では7部門にノミネートされている。
『フェイブルマンズ』（日本公開3月3日）
監督：スティーヴン・スピルバーグ
出演：ガブリエル・ラベル、ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ
上映時間：151分
配給会社：東宝東和
(C) Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
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『イニシェリン島の精霊』
もう1本の対抗が、マーティン・マクドナー監督による1923年アイルランド内戦終盤の架空の島を舞台にしたトラジックコメディー（悲喜劇）。マクドナーの長編デビュー作『ヒットマンズ・レクイエム』（2008）でも共演したコリン・ファレルとブレンダン・グリーソンの迫真の演技合戦が見もの。世界から隔絶されたような孤島を舞台に、生涯の友に突然別れを告げられ困惑する男の姿をペーソスたっぷりに描いた、ダークで緊迫感あふれる、まるでアイルランド内戦のメタファーのような作品だが、劇作家としてキャリアをスタートしブラックコメディーを得意とするマクドナーの卓越した演出力が冴えわたる。ゴールデン・グローブ賞では作品賞（コメディー／ミュージカル部門）を受賞。アカデミー賞では8部門9ノミネート。
『イニシェリン島の精霊』（日本公開中）
監督：マーティン・マクドナー
出演：コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン
上映時間：109分
配給会社：ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
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『西部戦線異状なし』
Netflix作品も堂々の9部門ノミネート。1929年に刊行された同名ベストセラー小説3度目の映画化となる壮大な戦争映画だ。第一次世界大戦終盤、フランスとの激しい戦いを繰り広げる西部戦線に送られた若きドイツ軍兵士の過酷な運命を描く。酸鼻を極める戦場の地獄絵図を徹頭徹尾リアリスティックに描写したブルータルな戦闘シーンがとにかく壮絶で圧巻。ドイツ代表として国際長編映画賞にもノミネートされている。『パラサイト 半地下の家族』（2019）以来の作品賞・国際長編映画賞ダブル受賞なるか？ 英国アカデミー賞でも作品賞含む最多14部門にノミネート。
『西部戦線異状なし』（日本公開済み）
監督：エドワード・ベルガー
出演：フェリックス・カマラー、アルブレヒト・シュッフ、アーロン・ヒルマー
上映時間：148分
配給会社：Netflix
Netflix映画『西部戦線異状なし』独占配信中
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『アバター：ウェイ・オブ・ウォーター』
シリーズもののブロックバスターも2本ノミネートされている。1本目が、歴史的なヒットを記録したジェームズ・キャメロン監督『アバター』の13年ぶりの続編。神秘の星パンドラを舞台に、ジェイク・サリーと家族の新たな種族との出会いと人類との熾烈（しれつ）な戦いを描く。リアルで奥行きのある海中のシーンが特に鮮烈だが、最新のモーションキャプチャーシステムを開発するなど革新的な技術を導入したビジュアルがセンセーショナル。世界興行収入21億ドル（約2,730億円・1ドル130円計算）超えのメガヒット作だ。
『アバター：ウェイ・オブ・ウォーター』（日本公開済み）
監督：ジェームズ・キャメロン
出演：サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバー
上映時間：192分
配給会社：ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
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『トップガン マーヴェリック』
もう1本のブロックバスターは、トム・クルーズ主演『トップガン』の36年ぶりとなる続編。アメリカのエリート・パイロット・チーム「トップガン」に戻ってきたレジェンド、マーヴェリックが新世代のパイロットたちの教官として過去の自分と対峙しながら、新たな危険なミッションに挑むスペクタクルなアクション満載の作品だ。戦闘機内に6台のIMAXカメラを搭載し撮影したリアルでスリリングな飛行シーンには度肝を抜かれる。日本を含め世界各国で大ヒットを記録、2022年度公開作品の中で世界興行収入は第2位。アカデミー賞では6部門にノミネート。
『トップガン マーヴェリック』（日本公開済み）
監督：ジョセフ・コシンスキー
出演：トム・クルーズ、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー
上映時間：131分
配給会社：東和ピクチャーズ
4K UHD, Blu-ray & DVD 発売・販売元：NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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『エルヴィス』
華やかな実話ベースの作品では、キング・オブ・ロックンロール、エルヴィス・プレスリーの伝記映画もノミネート。世界的な音楽界のアイコン、プレスリーが1950年代にスターダムにのし上がる姿を、プレスリーと彼を発掘したマネージャーの複雑な関係も交え描いたバズ・ラーマン監督作。この作品で一気にブレイクした主演オースティン・バトラーのプレスリーが憑依したかのようなダイナミックな熱演が最大の見どころだが、ゴールデン・グローブ賞では主演男優賞（ドラマ部門）を受賞。アカデミー賞では8部門にノミネートされている。
『エルヴィス』（日本公開済み）
監督：バズ・ラーマン
出演：オースティン・バトラー、トム・ハンクス、ヘレン・トムソン
上映時間：159分
配給会社：ワーナー・ブラザース映画
『エルヴィス』デジタル配信中
4K ULTRA HD、ブルーレイ&DVD発売中・レンタル中
発売元：ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元：NBC ユニバーサル・エンターテイメント
（C）2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
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『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
ノミネート作品の中で唯一の女性監督作が、サラ・ポーリーの最新作。ある宗教コミュニティーに住む女性たちが男たちから受けているおぞましい暴力と現実に向き合い、問題解決に向け団結する、というボリビアで実際に起こった事件にインスパイアされた小説をベースにしたドラマ作品だ。フランシス・マクドーマンド、ルーニー・マーラ、ジェシー・バックリーら強力なキャストのアンサンブルに注目。製作総指揮にはブラッド・ピットの名前も。インディペンデント・スピリット賞ではロバート・アルトマン賞（アンサンブル賞）を受賞。女優としても知られるサラ・ポーリーの長編監督4作目だが、監督デビュー作『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』（2006）に続き今回のアカデミー賞でも脚色賞にノミネートされている。
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』（日本公開6月2日）
監督：サラ・ポーリー
出演：ルーニー・マーラ、クレア・フォイ、ジェシー・バックリー
配給：パルコ、ユニバーサル映画
(C) 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.
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『TAR／ター』
もう1本、女性が主人公の作品がノミネート。クラシック音楽の世界を舞台に、架空の有名女性作曲家兼指揮者リディア・ターの栄光と転落を描いたサイコロジカルドラマだ。オスカー3度目の受賞の期待がかかる主演ケイト・ブランシェットの鬼気迫る熱演が印象深いが、ニーナ・ホスやノエミ・メルランらヨーロッパの実力派女優のアンサンブルも魅力的。全米映画批評家協会賞で作品賞を受賞。トッド・フィールド監督にとって『リトル・チルドレン』以来実に16年ぶりとなる最新作だが、長編デビュー作『イン・ザ・ベッドルーム』（2001）はアカデミー賞で作品賞含む5部門にノミネートされた。
『TAR／ター』（日本公開5月12日）
監督：トッド・フィールド
出演：ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス
配給会社：ギャガ
(C) 2022 FOCUS FEATURES LLC.
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『逆転のトライアングル』
スウェーデン、ドイツ、フランス、イギリス合作で、スウェーデンの鬼才リューベン・オストルンドの最新作もノミネート。若くゴージャスなスーパーモデルのカップルが豪華客船の旅に招待されるが、船が難破し彼らと一部の生存者は無人島にたどり着きサバイバル生活が始まる、という現代社会の超富裕層への批判を込めたユニークな構成の風刺ブラックコメディーだ。昨年、カンヌ国際映画祭最高賞のパルムドールを受賞し話題を呼んだのも記憶に新しい。オストルンドは監督賞と脚本賞にもノミネートされている。
『逆転のトライアングル』（日本公開2月23日）
監督：リューベン・オストルンド
出演：ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ウディ・ハレルソン
配給会社：ギャガ
Fredrik Wenzel (C) Plattform Produktion
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第95回アカデミー賞授賞式は、3月13日（月）午前7時30分よりWOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて生中継