菅田将暉の熱演に涙…映画『銀河鉄道の父』は究極の家族愛を描いた傑作
提供:キノフィルムズ
日本人の誰もが知る国民的作家が実はかなりの問題児で、家族の支えがなければ後世に名を残すことはなかったかもしれない……。
映画『銀河鉄道の父』(5月5日公開)は「実は宮沢賢治はダメ息子だった!」という父親の視点から、賢治に無償の愛を注いだ家族の物語をユーモアも交えて描く感動のエンターテインメント作品。賢治の父・政次郎を役所広司、賢治を菅田将暉が演じた本作の原作は門井慶喜による同名ベストセラー小説で、第158回直木賞受賞作でもあるだけに面白さは保証済みですが、映画もまた笑って泣ける傑作なのです。
この家族なくして“宮沢賢治”は存在しなかった!?
病のため37歳の若さで亡くなり、生前はほぼ無名だった宮沢賢治。本作は明治29年(1896年)、質屋を営む裕福な宮沢政次郎とその妻・イチの長男として、賢治が誕生したところから始まります。
政次郎は賢治を跡取りとして大事に育てますが、家業を「弱い者いじめ」と拒んだ賢治は、農業や人造宝石に夢中になり、さらには宗教にハマって東京へ家出。そんな政次郎が賢治に振り回されっ放しの中、賢治の一番の理解者だった妹のトシが病に倒れます。賢治はトシを励ますため一心不乱に物語を書き続け、読み聞かせますが、トシは旅立ってしまいます。
賢治は「トシがいなければ何も書けない」と泣き叫びますが、政次郎は「私が宮沢賢治の一番の読者になる!」と再び筆を執らせるのです……。
本作前半の賢治は憎めないダメ息子でしかなく、父・政次郎と衝突を繰り返します。当人たちは大マジメですが、そのかみ合わなさがおかしくて仕方ありません。生前、賢治が自費出版した詩集「春と修羅」と、童話集「注文の多い料理店」は全く売れなかったといいます。
しかし、その才能を信じ続けた家族などが賢治の作品を世に送り続けたことで、次第に評価を得ました。本作は偉人伝ではないし、あくまで家族の物語で、この家族なくして国民的作家としての宮沢賢治は存在しえなかったことが、笑いと涙の中でつづられていくのです。
親バカ父親VSダメ息子の爆笑バトル
主な宮沢家の面々を紹介すると、岩手県花巻で質屋を営む宮沢政次郎(役所広司)は、商才に長けた地元の名士。しかし、賢治(菅田将暉)が「ダメ息子」なら、政次郎はまさに「親バカ」。
跡取り息子として期待する賢治が幼い頃に赤痢(せきり)で入院した際には、自らかっぽう着を着込んで付きっ切りで看病し、自身も腸カタルで入院してしまいます。後に賢治の本が書店で売れ残っているのを見れば、すべて買ってきてしまうような父親です。
そんな政次郎に「看病など男子のやることではない」「おめぇは、父でありすぎる」と怒るのが、政次郎の父・喜助(田中泯)。一代で質屋を築いた厳格な人物です。
賢治に物語を書くように勧めた一番の理解者が、妹のトシ(森七菜)。頭脳明晰で女学校の教師となりますが、病に倒れてしまいます。やりたい放題で長男としては頼りないはずの兄・賢治を慕うのは弟の清六(豊田裕大)も同じで、父の商才を継いだ彼は、兄の代わりに家業を守ります。
そして政次郎の妻で賢治の母がイチ(坂井真紀)。政次郎を陰で支え、賢治の本当の想いも理解し、口数は少ないが家族の要といえるでしょう。
そんな家族が賢治に向ける愛は、もはやどこにでもある普通の家族愛というよりは究極の家族愛。そのぶっとんだ究極ぶりをクイズにしてみました! あなたの家族がもし究極愛の持ち主だったら全問正解する……かも!?
ダメ息子・菅田将暉VS親バカ・役所広司『銀河鉄道の父』究極の家族愛クイズ↓
日本映画界屈指の名優である政次郎役の役所広司と賢治役の菅田将暉は、互いに熱望していた初共演が実現。さらに、菅田と連ドラ「3年A組 ー今から皆さんは、人質ですー」で共演した森七菜、役所と『峠 最後のサムライ』、菅田と『アルキメデスの大戦』で共演した田中泯のほか、坂井真紀、豊田裕大ら実力派キャストが家族を演じています。
菅田将暉が減量で挑んだ体当たりシーンとは?
明治29年(1896年)から昭和9年(1934年)までの宮沢家を描く本作。ユーモアあふれる親バカぶりや賢治の破天荒さと共に、感動的な家族愛や生と死にまつわる物語もつづられていきます。
中学校を卒業した賢治に、政次郎が家業に励むよう告げると、賢治は「嫌です!」と即答。ここから始まる言い争いは、役所と菅田の掛け合い芝居の上手さと相まって爆笑必至。その後、賢治はしぶしぶ質屋の店番をするも、優しすぎて商才のなさを露呈します。
そこで父に怒られておびえる賢治の姿は、あどけない少年そのもの。菅田はハツラツとした少年期から、病に侵された晩年37歳までを熱演。賢治が亡くなるシーンは、菅田が体重を落とした後、撮影されました。
特に感動的なのが「物語は自分の子供だ」と打ち明ける賢治に、政次郎が「それなら、お父さんの孫だ。大好きで当たり前だ」と語るシーン。紆余曲折を経た賢治がようやく道を見つけるとともに、衝突しながらも愛し合ってきた不器用な親子が、真正面から通じ合います。
他にも、あまり自己主張をしない母のイチが死の淵にある賢治を気遣う際に見せる母としての毅然とした姿や、兄を励ます妹と弟の兄妹愛、家族との別れなど、普遍的な家族の物語として誰もが心を揺さぶられるエピソードが満載。見終わった後に自身の家族の顔を思い浮かべてしまうような作品です。(文・天本伸一郎)
映画『銀河鉄道の父』は5月5日より全国公開
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