『ワイルド・スピード』ハン&デッカード因縁の歴史 最新作で奇跡のタッグへ
2021年公開の『ワイルド・スピード』シリーズ9作目『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』では、死んだはずの人気キャラクター・ハン(サン・カン)が戻ってきた。彼が登場したのは映画が後半に差しかかる頃で、あまり活躍の場はなかったが、予告編を見るかぎり、最新作『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』(5月19日公開)ではもっと出番がありそうな様子。しかも、どうやら因縁の相手デッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)と力を合わせるようなのだ。ハンとデッカード、二人の関係の歴史を振り返ってみよう。(文/猿渡由紀)
因縁の始まりは“東京”から
『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』はシリーズ通算10作目。このシリーズの中で、ハンは“2回”死んでいる。死んだのは1回だが、4作目『ワイルド・スピード MAX』で時系列がリセットされるため、同じシーンがまた出てくるのだ。
1回目は、彼がシリーズに初登場する3作目『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』。東京での違法レース中、ハンの運転する車は別の車と激しくぶつかり横転する。その直後、彼はまだ生きていたのだが、友人ショーン(ルーカス・ブラック)が助け出す前に車は爆発してしまった。
次の『MAX』の冒頭で、ハンはドム(ヴィン・ディーゼル)に、東京に行こうと思っていることを匂わせ、時間が『~TOKYO DRIFT』より前に戻ったことが示される。
5作目『ワイルド・スピード MEGA MAX』では、ドムとブライアン(ポール・ウォーカー)が信頼できる人たちを集める中で、ハンも呼ばれてチームに加わる。そして仲間のジゼル(ガル・ガドット)と恋に落ちるのだが、彼女は6作目『ワイルド・スピード EURO MISSION』で死んでしまう。悲しみに浸るハンは、その映画の最後で、生前のジゼルと話していた通り、東京に移住すると決める。
ここで時間が『TOKYO DRIFT』に戻り、エンドクレジットではハンの車が衝突するシーンが再登場。だが、今度はハンにぶつけた車からステイサムが降りてくる。あれは事故ではなく、ハンは彼によって殺されたのだった。彼は携帯を取り出し、「お前は俺を知らない。もうすぐ知る時が来る」とドムに警告。彼が6作目の悪役オーウェン・ショウ(ルーク・エヴァンス)の兄デッカード・ショウであることは、7作目『ワイルド・スピード SKY MISSION』で判明する。彼は弟を倒したドムらに恨みを持っているのだ。
宿敵が仲間に…募るファンの不満
『SKY MISSION』ではハンの葬式シーンもあり、彼は完全にシリーズから消えてしまった。それからもシリーズは相変わらずビッグになりつつ、快調に進んでいくのだが、やがてファンの間から「#JusticeForHan」運動が巻き起こることになる。シリーズにおけるデッカードの重要度が増していくにつれ、ハンというキャラクターへの敬意がなさすぎるのではないかと、ファンが不満を感じ始めたのだ。
ハンを殺したデッカードは、8作目『ワイルド・スピード ICE BREAK』でドムらと手を組むことになったばかりか、彼とホブス(ドウェイン・ジョンソン)を主人公にしたスピンオフ映画『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』まで作られている。逆にハンはというと、6作目でジゼルを失った直後、死んだかと思われたドムが炎の中から見事生還するシーンのせいで、その悲しみにちゃんと焦点が当てられることすらなかった。
ハンの生みの親であるジャスティン・リン監督(※ハンが最初に登場するのは、リン監督のデビュー作である低予算インディーズ映画『Better Luck Tomorrow』)は、そんなファンの反応が出る前の6作目を最後に一度シリーズを去っている。そんな彼は、9作目『ジェットブレイク』に監督として復帰するに当たり、ハンを連れ戻すと決めた。ただし、それは予告編が出るまで大きな秘密だった。予告編解禁イベントでファンが興奮する様子を見て「鳥肌が立った」と、カンは大歓迎された喜びを語っている。
その手があったか!ハン奇跡の復活
ハンが死んでいなかったことをどう説明するのか。それに関して、リンはなかなか賢いアイデアを思いついている。
9作目でハンが仲間たちに語るところによれば、東京に引っ越した彼に、ミスター・ノーバディ(カート・ラッセル)が近づいてきた。過去にジゼルと仕事をし、彼女を大きく買っていたミスター・ノーバディは、彼女が信頼するハンに、自分と組まないかと持ちかける。そして彼は、ハンがミッションを果たしやすいよう、死んだように見せかけることにしたのだ。ミスター・ノーバディは、デッカードより一枚上手だったのである。
敵に狙われる少女エル(アンナ・サワイ)を守る立場になったハンは、実は生きているということを誰にも明かせなかった。しかし、彼はやっと仲間のもとに戻ることになり、チームの一員として活躍する。そしてエンドクレジットシーンで、ハンは、自分を殺したと思い込んでいるデッカードのもとを訪ねた。
監督が投影したハンへの愛
あのラストはかなり衝撃だったが、ここから二人はどうなっていくのだろうか。また、9作目で出番が限られていたハンは、次にどれだけ見せ場があるのか。10作目の一番の焦点はジェイソン・モモア演じる新たな敵ダンテになりそうなものの、ここも非常に気になるところだ。
ハンを連れ戻すと決めた時、リン監督は「ファンの愛と情熱のおかげで、ハンは2度目の人生を生きることになった」「ハンに正義を与えたい」と語っていた。だから、ただハンがメンバーの一人として車を走らせているだけというようなことにはしないと思われる。予告編にも彼のアクションシーンが見られるし、何より、デッカードと手を組んだように見えるのが興味深い。どんな理由や事情があって、ハンは、自分を殺そうとした男を許そうとするのか。そこにはきっとドラマがあるはずだ。
カンは、リン監督が持つハンへの愛について「ハンは、僕にとってよりジャスティンにとってもっと大きな意味を持っていたりする。彼が生んだキャラクターなんだから。彼ならハンのことをちゃんと扱ってくれると僕は知っている」と語っている。リン監督は10作目の撮影開始直後に降板したものの、ストーリーはそれまでにできていたし、今もプロデューサーとして携わっている。最終章となる11作目に向けて盛り上がっていく中で、ハンは2度目の人生をどう生きていくのか。そのなりゆきを見守りたい。