『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』『最後まで行く』など5月公開映画の評価は?
今月の5つ星
マーベル映画最新作からケイト・ブランシェット主演の話題作、名作韓国映画の日本版リメイク、SFコメディーの良作に「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」の実写映画化作品まで、見逃し厳禁の作品をピックアップ。これが5月の5つ星映画だ!
ガーディアンズらしい花道!全員が輝く涙の最終章
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』5月3日公開
マーベル屈指のアウトローたちで結成されたヒーローチームの戦いを描いたシリーズ最終章。はみ出し者を描かせれば右に出る者はいないジェームズ・ガン監督が、最も共感を抱くロケットの物語を深掘りしながら、過去2作以上に過酷でエモーショナルな彼らの戦いを活写する。
紆余曲折を経ての最終章とあって、ガン監督のガーディアンズ愛が爆発。各メンバーの個性が輝き、全員に主役級の見せ場が用意されており、思わず目頭が熱くなる瞬間が約2時間30分の間に何度も訪れる。特に、メンバー全員揃ってのアクションシーンは『アベンジャーズ/エンドゲーム』のような感動が味わえる。もちろん、アダム・ウォーロックら新キャラクターの存在感も抜群だ。こだわり抜いた選曲と色彩豊かなビジュアルも、シリーズ最高潮のレベルに到達。ガン監督らしい独特なユーモアを交えながら、最後は大号泣するガーディアンズの花道は、マーベルファンの心に永遠に刻まれるはずだ。(編集部・倉本拓弥)
新たな怪物の誕生か
『TAR/ター』5月12日公開
ケイト・ブランシェットが、4度目のゴールデン・グローブ賞に輝いた本作は、天才指揮者リディア・ターが重圧や自尊心から闇に飲まれていく物語。リディアと周囲の人々との関係に少しずつ不協和音が広がっていく緊張と緩和の連続を、トッド・フィールド監督が音を効果的に使って描いた。
権威、名誉、地位、音楽、愛、全てを手にしたはずが、その実像は虚しいもの。失ったものに気付かず、映画史に残る狂気ぶりを見せるリディアだが、誰よりも音楽に情熱を捧げているという純粋さも持ち合わせる。そんな何層にも感情が入り乱れるキャラクターを完璧に演じたケイトは、本作のためにドイツ語とアメリカ英語をマスター。全ての演奏シーンを自身で演じ切るなど、役柄さながらのプロ意識に脱帽するばかりだ。また、本作の本質を突いているのは、リディアと学生による芸術への捉え方や考え方の会話シーン。「(作者に問題があったとして)作品に罪はあるのか?」というやり取りはリディア自身とも重なり、考えさせられる。(編集部・梅山富美子)
追い詰められる岡田准一VS追い詰める綾野剛
『最後まで行く』5月19日公開
車で人をはね、遺体ごと隠ぺいしようとする刑事に岡田准一、「お前は人を殺した。知っているぞ」と彼を追い詰める監察官に綾野剛がふんしたサスペンス。『新聞記者』『余命10年』で注目の藤井道人監督がメガホンを取った。
オリジナルはフランス、中国などでもリメイクされた2014年の同名韓国映画だが、ただそれをなぞるだけに終わらず、一捻り効かせた展開やアレンジが面白い。オリジナル版の最後まで息つく暇もないスピード感はそのまま、岡田の「木更津キャッツアイ」などでもおなじみだったコメディーセンス、綾野の怪しげなヒールぶりも相まって、意義のあるリメイク作品に仕上がった。さらに、アクションに定評のある岡田だけに、原作とはまた異なる綾野とのユニークなバトルシーンも見もの。オリジナルを観ずに新鮮に驚くも良し、原作や各国のリメイク版と見比べて楽しむも良し。(編集部・中山雄一朗)
躍動する中村倫也とアクセル全開の飯塚健!
『宇宙人のあいつ』5月19日公開
『虹色デイズ』『ステップ』などの飯塚健が監督と脚本を務めたSFコメディー。中村倫也が人間の生態を調査するために土星からやってきた宇宙人にふんし、彼の地球での兄妹を伊藤沙莉、日村勇紀、柄本時生が演じた。奇想天外な人気コメディードラマ「荒川アンダー ザ ブリッジ」を彷彿させる飯塚監督らしさにあふれた作品だ。
中村倫也のコメディーセンスが飯塚監督の作風と見事にシンクロし、おかしな宇宙人としてスクリーンで躍動する姿は必見。中村、伊藤、日村、柄本は4人が並んでいるだけで笑えるほどの抜群の安定感を醸し、兄妹がそろったシーンは目の前で展開される即興劇のような瑞々しさを放っている。飯塚監督がアクセル全開で笑いを追究して書き下ろしたオリジナル脚本は、気楽な笑いで観客を包みながら日常を劇的に描き、最後にはしっかりと涙を誘う。何も考えずに気兼ねなく観ることができて気持ちが軽くなる、良作コメディーだ。(編集部・海江田宗)
露伴のルーツをたどる恐ろしくも美しいミステリー
『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』5月26日公開
荒木飛呂彦の漫画「ジョジョの奇妙な冒険」とスピンオフ「岸辺露伴は動かない」に登場する漫画家・岸辺露伴。その読み切り作品「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」を実写ドラマシリーズのスタッフ&キャストが映画化した本作では、特殊な能力を持つ露伴(高橋一生)が青年期にある女性から教えられた「この世で最も黒い絵」の謎を追ってルーヴル美術館へと赴く。
まずドラマから続投した渡辺一貴監督が映した曇天のパリが、魅力的だ。前半では長尾謙杜演じる若かりし露伴の年上の女性に恋したほろ苦い記憶、後半では露伴が女性から教えられた「黒い絵」の謎に迫る展開となり、ある意味で露伴のルーツをたどる物語とも言える。極力CGを排した恐怖描写、露伴と相棒・泉京香(飯豊まりえ)との掛け合いなど、ドラマシリーズのセオリーを踏襲しながら映画的なスペクタクルも。脚本・小林靖子の原作からのアレンジも変わらず見事で、映画を見終えると「黒い絵」から複数の意味を見て取れるはずだ。(編集部・石井百合子)