韓国で「梨泰院クラス」超えの視聴率!「医師チャ・ジョンスク」は何が面白い?
Netflixの韓国ドラマ「医師チャ・ジョンスク」が人気を集めている。Netflixグローバルトップ10のテレビ・非英語部門では、第1週(4月24日~30日)は8位だったが、徐々に順位を上げて第3週(5月8日~14日)は2位に浮上した。日本でもテレビ部門で常に上位にランクインしている。
韓国内の人気も沸騰しており、JTBCで5月21日に放送された第12話の視聴率が自己最高の18.4%を記録。同局の「梨泰院クラス」の視聴率16.5%を抜き、同局の歴代ドラマ視聴率4位となった(ニールセンコリア調べ)。
明るくバイタリティ溢れる主人公
「医師チャ・ジョンスク」は、オム・ジョンファ演じる中年女性チャ・ジョンスクが主人公のコメディードラマ。明るくライトなタッチで描かれており、思わず声をあげて笑ってしまうような場面も少なくない。
なんといっても魅力的なのが、主人公のキャラクターだ。チャ・ジョンスクは優秀な医学生だったが、キャリアを諦めて同級生だった医師と結婚、専業主婦として2人の子どもを育てあげた46歳の女性。大病したのをきっかけに、“いい医師”になろうと決意したジョンスクは、家族の反対を押し切って猛勉強を開始。見事試験に合格し、レジデント(研修医)として大学病院に勤務しはじめる。すごいバイタリティーだ。
とはいえ、46歳のレジデントは病院側に歓迎されず、20年のブランクも大きい。試験の成績は優秀でも、体力も瞬発力も若者に劣るため、ミスばかりで怒られっぱなし。おまけに大腸肛門外科長を務める夫は、妻が職場にいるのを不快に思っていて、なにかと邪魔ばかりしてくる。
それでも明るく穏やかで人がいいジョンスクは、何事にも一生懸命。いつもにこやかで、おせっかい焼きで、患者一人ひとりに誠心誠意尽くそうとする。スーパーウーマンじゃないけど、どんな仕事も体当たりでぶつかってやり抜いていく(その分、家では寝落ちばかり)。時には落ち込み、時には涙し、時には全身で喜びを表現する。家族が好きで、仕事が好き。そんなジョンスクを見ていると、こちらも元気になる。
魅力的な脇役たち
ジョンスクのまわりにいる人たちも曲者揃いだ。まずはジョンスクの夫、ソ・イノ(キム・ビョンチョル)。優秀な外科医で、資産もたっぷりあるのだが、妻には思いやりがなく、いつも母親の言いなり。おまけに同じ病院で働くチェ・スンヒ(ミョン・セビン)と長きにわたって不倫関係にある。妻を病院から追い出そうと画策するのは、スンヒとの関係が露見するのを防ぐため。清々しいほどのクズ夫っぷり。
ところが、イノにはなぜか目が離せなくなる不思議な魅力がある。不倫を隠そうと右往左往し、妻が病院を辞めることになってガッツポーズしたかと思えば、それが覆ると身悶えして悔しがる。妻に言い負かされると、ふとんを被って大声で叫ぶ。子どもか。クズ夫なのに、どこか憎めない。
一方、ジョンスクと偶然出会い、彼女を応援し続けるアメリカ帰りのイケメン医師、ロイ・キム(ミン・ウヒョク)は絵に描いたような“白馬の王子様”。とにかくスマート、とにかく素敵。こんな男性に応援されたい! こんな男性に応援されたら仕事も頑張れる! という視聴者も多いのではないだろうか。
ジョンスクと対立する夫の不倫相手・スンヒも単なる憎まれ役ではない。もともとは夫・イノの初恋相手であり、医療財閥の娘でありながら韓国では後ろ指をさされるシングルマザーの道を選んだ過去があった。イノに苛立ちをぶつけるのも、最愛の娘に温かい家庭を味わわせてやりたいから。ジョンスクが“太陽”ならスンヒは“月”。彼女たちがどんな結末を迎えるのか、気になって仕方がない。
ほかにも、母親がレジデントの同僚になって戸惑う息子のジョンミン(ソン・ジホ)、厳しいレジデントの先輩でおまけに息子の恋人というソラ(チョ・アラム)、息子を溺愛して嫁をこき使う姑のクァク・エシム(パク・ジュングム)、父親に反対されながら美術大学を志望する娘のイラン(イ・ソヨン)など、多彩な登場人物がジョンスクを悩ませたり、励ましたりする。
「悔いのない人生を送る」がテーマ
「医師チャ・ジョンスク」はコメディードラマだが、韓国社会を色濃く反映している。韓国では儒教の影響もあって、男尊女卑が当たり前とされていた。また、母親が家庭で子どもの世話をするべきだと強く考えられており、高学歴で専門職を持つ女性ほど専業主婦になって再就職しない傾向があるという(参考文献「平成23年11月 内閣府男女共同参画局『諸外国における専門職への女性の参画に関する調査-スウェーデン、韓国、スペイン、アメリカ合衆国-報告書』」より「韓国における取組と日本への示唆」お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科文化科学系准教授 森山新)。医師として将来を期待されながら、専業主婦となったジョンスクはまさにそうだ。
昔ながらの家父長制度も繰り返し描かれる。妻と娘にDVを行う父親、未婚の娘の出産を許さない父親などが登場した。娘の進路を一方的に決めるイノも古いタイプの父親だ。
そんな息苦しい社会の中で、ジョンスクは悲劇の主人公の道を選ばなかった。大病で死を意識したことをきっかけに、大好きだった「学ぶこと」と「いい医師になる」という夢を思い出し、自分の道を邁進する姿を見ると、ロイ・キムならずとも応援したくなるし、見ているこちらも勇気を与えられる。
「私も心停止した経験があるんです。どうか悔いのない人生を送ってくださいね」
ジョンスクが命を助けたVIP病棟のオ会長(ソン・ヨンチャン)にこう告げる場面がある。その後、ミスをして落ち込むジョンスクにオ会長は「年齢を気にして弱気にならず、頑張っていい医者になれ」と励ます。「悔いのない人生を送る」「年齢を気にして弱気にならず、頑張る」。この二つが「医師チャ・ジョンスク」の大きなテーマではないだろうか。
なにごとも遅すぎることはない。悔いのない人生を送るために、やりたいことをやる。家庭か仕事かを選ぶのではなく、両方取ることだってできる。医療ドラマでもあり、ラブロマンスもあるけど、「医師チャ・ジョンスク」の本質はこのような人生讃歌なのだ。(大山くまお)