『仮面ライダー555 20th』衝撃展開の裏側 白倉伸一郎&井上敏樹&田崎竜太 “ドンブラ成分”への懸念、最も悩んだ冒頭シーン
平成仮面ライダーシリーズ第4作「仮面ライダー555(ファイズ)」(2003~2004)の20周年を記念して、完全新作となるVシネクスト『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』が製作された。テレビシリーズ最終回から20年後の世界を描くにあたり、キャストのみならず当時のスタッフも再集結。プロデューサーの白倉伸一郎、脚本を執筆した井上敏樹、メガホンを取った田崎竜太監督(崎はたつさきが正式)が、20周年作品での挑戦や衝撃展開、テレビシリーズ当時の裏話を語り合った。(取材・文・構成:編集部・倉本拓弥)
※本記事はネタバレを含みます。『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』鑑賞後にお読みいただくことをおすすめします。
草加を復活させるなら「ロボットor幽霊orクローン」
Q:『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』企画誕生の経緯を教えてください。
白倉伸一郎(以降、白倉):もともと半田健人さん(乾巧役)や芳賀優里亜さん(園田真理役)をはじめとするレギュラーキャストが集まって、「20周年が来るから、何かやりたいね」という話をしていたらしいんです。そんな噂話を柴崎貴行監督(崎はたつさきが正式)を経由して聞きまして、「やりたいと本人たちが言っているんだったら、何か仕掛ければ絶対やるよね! 逃げられないよね!」と(笑)。たまたま「555」メンバーである井上大先生と田崎監督とは、「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」という僕もよくわからない番組でご一緒させていただいたので、「ドンブラ」のついでに「何かやりませんか?」と話をしました。そしたら、大先生が嫌がって……。
井上敏樹(以降、井上):「ドンブラ」が終わってもいろいろあるんだよ(笑)!
Q:井上さんは『パラダイス・リゲインド』の話を聞いて脚本執筆を快諾したのでしょうか?
井上:(白倉は)質問じゃなくて、自動的に「Vシネクストやるから、(脚本の)締切はこの日で!」だったね。脚本は特に苦労はしてないけど、解剖室でのファーストシーンだけは少し悩んだかな。劇場作品にふさわしい、しかも「555」であるってことがわかる衝撃的なシーンだから。他は、割とスラスラ執筆が進んだ記憶があるね。
白倉:草加雅人(村上幸平)や北崎望(藤田玲)といった死んだはずのキャラクターが、なぜ出るのかということも含めて、全部のパズルを上手く解いていることに、すごく感心しました。
井上:そういうの得意なの! みんな知らないかもしれないけど、俺、意外と知的な人間だから。
Q:新作を製作するかは別として、草加や北崎など死亡したキャラクターをどう扱うかは、以前から頭の中で考えていたのでしょうか?
井上:そうだね。別に何ら問題はなかったね。巧だってテレビシリーズでは死んでないし、死んだような感じだったから。草加なんて、アイツを復活させるならロボットか、幽霊か、クローンしかないんだよ!
「ドンブラ」成分はスピンオフに固めた
Q:(田崎監督へ)井上さんの脚本を受け取った時はどんな思いでしたか?
田崎竜太(以降、田崎):「ドンブラザーズ」を引きずらないようにしないというところはありました。でも、井上さんの書いた「555」の本を読むとスーッと作品の世界観に入れたので、あまり苦労せずに撮影できました。
Q:みなさんは『パラダイス・リゲインド』の直前まで「ドンブラザーズ」を製作していましたが、“ドンブラ成分”が入ってしまうことは懸念していましたか?
井上:本編はないけど、「仮面ライダー555殺人事件」(東映特撮ファンクラブで配信中のスピンオフ)にはドンブラ成分が入っているね。
田崎:それが一緒に付いてるところが、また白倉さんのプロデュース上手さですよね。ドンブラ成分をスピンオフに固めて、本編では純粋な「555」をお届けできました。
白倉:「仮面ライダー555殺人事件」がすごく面白いんです。お二人のおかげですよ!
Q:20年前の「555」らしさを踏襲しながらも、新たな試みも必要です。そのさじ加減はどのように定めていきましたか?
白倉:プロデューサー目線で問題だったのは、20年前に「555」を観てくださった方々に届けるのか、それとも、最近「555」を観たという人たちに向けて作るのか。「お客様はどの層なのか?」を見定めることでした。どちらとも取りたいですし、それをどう大先生にうまく伝えたらいいのか悩みました。ただ、大先生がファーストシーンに一番気を遣ってくださったように、「555」を知っている人でも、そうでない人でも、「これが『555』だ!」という世界観を構築することを考えてくださった。台本を見ると、それまで考えていたことが全部杞憂だったかなという気がしました。
井上:結局、20年後の「555」を書けばいいことなんだよね。劇場作品だから、ある程度お祭り的な要素もあってもいいし。昔からのファンもいれば、新しく観る人もいるし、両方の層のハートに訴えるような悲しみやアクションだったり、あらゆる要素をぶち込んだね。あとは、プラスアルファのサプライズとして巧と真理の関係性。足りない要素はほぼないと思う。
田崎:「555」は、ファンのみなさまの中に異なる「555」の世界観があると思っています。みなさんそれぞれに乾巧像、園田真理像、草加雅人像がある。20年経ってそれが広がり、かなり違うものになっています。20周年企画では、僕らが「公式だから」といってイメージをまとめてしまうところがあります。みなさんが持っているバリエーションの中の何かを壊す可能性があるので、それが少し怖かった。ただ、そこは「もうやるしかない」と振り切って、大多数のみなさんに「555」の世界観を受け入れてもらえる作品にしようと、当時のメンバーやフレッシュなキャストと共に撮影しました。
変身時に恥じらう胡桃玲菜「これ役者さんできるかな?」
Q:今作で初登場する仮面ライダーミューズ、変身する胡桃玲菜(福田ルミカ)のキャラクター誕生秘話を教えてください。
白倉:仮面ライダーのデザイナーは20年前と変わっているのですが、スマートブレイン(※劇中に登場する巨大企業)が変身ベルトを開発したことには違いありません。いかにしてスマートブレイン製であることをもう一度再現できるのか、デザイナー自身がすごく悩みながらデザインしてくださいました。
女性の仮面ライダーについては、単純に殺したくないという理由はもちろん、悲劇的な最期を迎えるにあたって、痛々しくなってしまう不安もありました。しかし、その辺は大先生が玲菜と巧の関係性でドラマを作ってくださり、ミューズも北崎に受け継がれる形になったので、すべての問題を全部クリアした形で、結果的にいいキャラクターになったと思います。
Q:玲菜はミューズに変身する時、恥じらう仕草が印象的でした。
井上:最初どんなキャラクターにしようかと考えた時に、「変身時にめちゃめちゃ恥ずかしがったら面白いじゃん!」と思ってね。でも、「これ役者さんできるかな?」って。キャラとしては面白いから、脚本に書いたんだよね。あれ一発だけでもキャラが立ってるから。
白倉:初参加の俳優さんは、変身にすごく悩むんです。カッコよく決めたい気持ちもありつつ、変身すらしたことがないので、どうしたらいいんだろうって。今回は、さらなるハードルがありましたからね(笑)。
田崎:(福田さんの変身シーンは)意外と苦労しなかったです。やはり彼女が台本から受け取ったものが大きかったんだと思います。
Q:真理がオルフェノクとして覚醒したことも、今作での大きな変化でした。
白倉:ある時、松浦(大悟)プロデューサーが「555」のテーマって何ですか? と大先生に聞いたら、「差別」と答えたそうなんです。人間とオルフェノクという対比の構造で世界観が作られていて、真理は人間、巧はオルフェノクという関係は崩せないんです。その関係を崩すには、巧も真理も、もう一度同じ土俵に立って、お互いを見つめ直すところから再出発しないと、本当の二人の関係性は築けないんです。理屈は後付けできますが、その辺はおそらく大先生の頭の中にあったんだと思います。
井上:真理は差別しない立場にいるけど、やっぱり自分は(オルフェノクに)なりたくないとどこかで思っていた。そういうところは正直だよね。
『パラリゲ』で二度も草加スマイル「もはや必殺技」
Q:テレビシリーズ放送当時、草加雅人がここまで愛される2号ライダーになるとは思っていましたか?
井上:草加は、本編で死んだ後にみんなから賛辞が来たんだよね。生きてる時は、しょっちゅう「死ね!」って言われてたから。
白倉:こう言っちゃアレですけど、殺しておいてよかったですね(笑)。もし死んでなかったら、いまだに“最低最悪”って言われていたかもしれないですから。
田崎:私もう何回草加のこと殺しているか(笑)!
白倉:当時、村上(幸平)さんは草加を演じることが嫌で、「正義のヒーローを演じたいのに、なんでこんな役だ」と不平たらたらでした。それを、田村直己監督が「いいね~いいね~! 悪いね~!」となだめすかして、おだて続けていたら、だんだんと調子に乗りはじめて、今に伝わる草加像が引き出されました。“草加スマイル”を最初に作ったのも田村監督です。
井上:草加スマイルは癖になっちゃってるからね(笑)。
白倉:『パラリゲ』で2回も草加スマイルが見られるのはもはや必殺技ですよね。悔しいけど、これが素敵なんです。
Q:井上さんは当時、村上さんに「草加は誰に殺されたい?」と聞いたことがあったそうですね。
井上:聞いたのは事実だけど、「強いやつと相打ち」とかつまらないことしか言わなかったんだよね。俺の中ではその時「カイザはカイザに殺される」ってもう決まってたの。ただ、あいつの気持ちを考えて、そこで自分自身に殺されたいというようであれば、まだ見込みはあったね(笑)。
20年間、みんなあの世界でよく頑張った
Q:『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』のリピーターに向けて、2回目以降の楽しみ方を教えてください。
白倉:私たち関係者は、台本を読んでいてお話も知っているし、撮影現場も見ているので、完成する前のものを全て知っているはずなんです。でも、完成した作品を観たら、何度観ても涙が止まらない。やはり、作品に魂が宿っているということですよね。
井上:俺も2回ぐらい涙ぐんだ。20年ぶりっていうのは大きいね。20年間もあの宿命を背負って、物語を生き続けたキャラクターがいるわけ。それがまたエモいんだよね。そういう思いで観るから、グッとくるんだと思うよ。20年間、みんなあの世界でよく頑張ったよ。
田崎:新しいキャストやスタッフが、僕らとはまた違う思いで現場に入ってくださったので、その辺は意識して観ていただくと、旧「555」とはまた違ったものを感じると思います。それを、2回目以降の楽しみとして、取っておいてもいいかもしれません。「555」の新しい歴史がまた一つ生まれたので、ここから『パラダイス・リゲインド』を観たお客さんが、自分の中で新しい「555」の世界観を、巧や真理が生きているという感覚で、それぞれ思っていただければ嬉しいです。
Q:最後に、「555」ファンに向けてメッセージをお願いします。
白倉:当時アラフォーだった私たちも、今はアラカンでございます。また10年後、30周年とおっしゃってくださるのはありがたいことですが、このメンバーはアラ70代に……。(30周年作品を)具現化できるかどうかわかりません。それは、ぜひ次の世代に委ねていければと思います、だからこそ、今作で「555」の魅力を感じていただけたのであれば、さらに次の若い世代に伝えていく、その役目をみなさんに担っていただければと思いますので、切にどうぞよろしくお願い致します。
井上:「555」ファンのみなさま、ずっと「555」を愛してくださりありがとうございます。「555」の魅力って、ここまで付き合いが長くなると、ちょっとわからないんだけど、キャラクターやストーリーはもちろん、やっぱりどこかに“差別”がテーマとしてあるから、そういった意味では、個人を超えながら他者を守っていくところなのかな。俺にさえわからない「555」の魅力を、これからも発見し続けていってください。
田崎:「555」ファンのみなさん、20年間待っていただき、ありがとうございます。テレビシリーズ最終回から20年後の世界を描いたわけですが、僕は現場に入って20年ぶりという感覚が全くなく、1年前に撮っていたような気がしていました。みなさんもそんな感覚になっていただけると嬉しいです。みなさんの情熱が、20周年を支えてくれたと思います。この場を借りて御礼を申し上げるとともに、もしさらに次世代の「555」が生まれる場合には、ぜひまたよろしくお願いします。
Vシネクスト『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』は新宿バルト9ほかにて期間限定上映中/Blu-ray&DVDは5月29日(水)発売
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