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「テイルズ・オブ・ザ・ウォーキング・デッド」第4話:切なすぎる結末…最も悲痛な生存者の物語

今週のウォーキング・デッド

 海外ドラマ「ウォーキング・デッド」の1話完結のアンソロジーシリーズ「テイルズ・オブ・ザ・ウォーキング・デッド」。第4話「エイミーとエヴェレット博士」では、このシリーズ中で最も悲痛な物語が描かれる。(文・平沢薫)

※ご注意:本記事はネタバレを含みます。「テイルズ・オブ・ザ・ウォーキング・デッド」第4話をまだ観ていない方はご注意ください。

ウォーカー出現から時間が経っても、世界は平和になっていない

 今回は、ネイチャー・ドキュメンタリー番組のように始まるオープニングもユニーク。まず注目したいのは、時代設定がウォーカーの出現からかなり年月が経っていること。この地域では、人々が人里離れた場所に、深さ12メートル幅20メートルの溝で囲んだ死の区域(デッド・セクター)を作り、その中にウォーカーを追い込んで、人間はその外で暮らしている。人々にこれだけの作業ができるほど余裕があり、登場人物たちも食糧や燃料に困っている様子はなく、記録映像を録画したり、ドローンを飛ばす電力もある。この状況から推測すると、全シリーズでもっとも未来の時代を描いているのではないだろうか。

 しかし、世界は安心して暮らせる場所にはなっていない。エイミーが「溝の外だって簡単に死んじゃう」と言い、彼女が仲間たちと一緒に落ち着いて暮らせる場所を、人間社会の中ではなく、ウォーカーがうごめく“死の区域”の中に作ろうとするような世界なのだ。この未来像はなかなか暗い。

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切ない…対照的な2人の生きざま

 そんな世界で出会うのが、“死の区域”の中でウォーカーを研究しながらずっと一人で暮らしているエヴェレット博士と、自分のグループからはぐれて彼と遭遇したエイミー。2人の物語は、このシリーズ全体の大テーマである「ウォーカーが動き回る世界で、人間は何のために生きるのか」に直結している。ウォーカー出現直後は、人間たちは生きるために水と食糧を確保し、ウォーカーを撃退することしか考えないが、それがひと段落したら、こんな世界で自分は何のために生きているのかと考えてしまうことになる。

 そこで、エヴェレット博士は、自分は研究のために生きていると考える。実際は、彼を救ってくれた元同僚がウォーカー化した「標本21」に固執しているので、彼の研究には客観性が欠けており、エイミーに指摘されるほどだが、本人は気づいていない。一方、エイミーは「私には仲間がすべてなの」と言い、仲間と共に暮らすことが自分の生きる理由だと考えている。

 そして、エイミーは最後までその信念を貫くが、エヴェレット博士の信念は、エイミーと一緒に行動するうちに揺らいでいく。だから、エイミーがどうなったのかを見に行かずにはいられず、ウォーカーと化したエイミーを発見した時には、標本に付ける番号札を付けるのをためらってしまう。番号札を付ければ、せっかく出会えた人間がただの標本になる。しかし、番号札を付けなければ、彼がこれまで信じてきた信念を否定することになる。果たして彼はどうするのか、という余韻を残して、今回のエピソードは終わる。信念を貫いたためにウォーカーと化すエミリーも切ないが、これまで自分を生かしてきた信念を放棄したら、これからどうやって生きればいいのか分からず、それを捨てることも出来ないエヴェレット博士も切ない。

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シリーズ初参加の監督・脚本家・俳優

 この印象的なエピソードの監督と脚本は、2人とも「ウォーキング・デッド」ユニバース初参加。監督は、サウジアラビア出身の女性監督で、『少女は自転車にのって』(2012)のハイファ・アル=マンスール。近年は、エル・ファニング主演で『フランケンシュタイン」の作者メアリー・シェリーを描いた『メアリーの総て』(2017)や、セントラルパークで撃たれた学生を巡る社会派TVシリーズ「シティ・オン・ファイア」(2023)、エドガー・ラミレス主演のコメディシリーズ「フロリダマン」(2023)などを手がけた。

 脚本は、ナイジェリア系アメリカ人のアフマド・ガーバ。彼はエル・ファニング主演のミニシリーズ「プレインビルの少女」(2022)や、テレビシリーズ「ドクター・デス 死を呼ぶ医者」シーズン1(2021)などの脚本を手掛けている。博士がウォーカーを異物として捉えず、人類の進化の一種であり、食物連鎖の頂点に立つ新たな種族ホモ・モルタスだと考えるという発想がユニークだ。

 また、博士は詩が好きだという設定で、彼の脳裏に19世紀のアメリカの詩人エミリー・ディキンソンの詩が浮かぶシーンも印象的。ディキンソンは家に引きこもって暮らし、生涯独身だった詩人で、自然についての詩が多く、一人で暮らしてウォーカーを自然の一部と考えるエヴェレット博士が愛する詩人に相応しい。ディキンソンは詩にタイトルをつけなかったのでタイトルはないが、ラスト近く、博士が「自然は我々が見るもの」で始まる詩を思い浮かべるシーンは、この詩で描かれるものと、彼の目の前で繰り広げられる光景の対比が強烈だ。

 また、主演の2人も共にシリーズ初参加。エヴェレット博士役は、長寿番組「ER 緊急救命室」シーズン1~8(1994~2001)の温厚なグリーン先生役でお馴染みのアンソニー・エドワーズ。昨今は、ジャレッド・レトアン・ハサウェイ共演のミニシリーズ「WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~」(2022)や、ジュリア・ガーナー主演のミニシリーズ「令嬢アンナの真実」(2022)などに出演している。

 エイミー役は、中国生まれでミネソタ&上海育ちのポピー・リウ。人気シリーズ「ベター・コール・ソウル」シーズン5~6(2020)、コメディシリーズ「アフターパーティ」シーズン2(2023)などで活躍している。

 今回はこの2人が、価値観も年齢も性別も対照的な人物像を演じ、印象に残るエピソードを生み出している。さて次回は、どんな時代と場所、どんな人々の物語が待っているのか。次の予期せぬ出会いが楽しみだ。

「テイルズ・オブ・ザ・ウォーキング・デッド」はU-NEXTで独占配信中

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