世界を魅了する“NINJA”「忍びの家」は何がそんなに面白い?
現代に生きる「忍び」の家族の活躍を描いたNetflixオリジナルシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」が世界で大きな反響を巻き起こしている。2月15日に配信されて以来、「今日のシリーズTOP10」において、日本をはじめ世界16の国と地域で1位を獲得、世界92の国と地域でTOP10入りを果たした。週間グローバルトップ10(2月12日~2月18日、テレビ・非英語部門)でも初登場2位を獲得している。
SNSでも全8話を一気観したという声が引きも切らない。それどころか世界中のSNSで「NINJA」という言葉が飛び交っている。いったい何が視聴者の心をわしづかみにしているのだろうか?(※一部ネタバレを含みます)。(文:大山くまお)
スタイリッシュな忍者アクション
賀来賢人が主演、プロデューサー、原案を務めた本作。真っ先に目を惹くのは、スタイリッシュなアクションだ。第1話の冒頭から、不必要に明るくない映画的なルックの中で、忍者たちのシャープな死闘が繰り広げられる。
スピーディーなアクションのさなか、政治との関わりや大切な誰かが死んでしまったことが示唆されるが、説明は最小限に抑えられたまま、北条家の家紋・三つ鱗と徳川家の家紋・三つ葉葵が激突するオープニング映像を経て、主人公・俵晴(賀来)ら「忍びの家」の日常を描く本編に突入する。実にスマートかつ効果的な導入部分である。メロディアスなテーマソング「OUR HOUSE」も効果的に使われている。
忍者の戦い方はシンプルだ。走り、飛び、斬る。体術を駆使し、相手を制圧して、刀でとどめを刺す。拳銃も妖しい術も現代的なガジェットも使わない。超能力を使う欧米のヒーロー映画とも、痛みを伝えることに重きを置く韓国のノワール作品とも異なる、日本古来の忍者らしいアクションが追求されている。だから、世界の視聴者に響くのだろう。ライトアップされて白く輝く小田原城の天守閣を黒い影の忍者が走り抜けていくビジュアルにも心躍らされた。
なお、アクション監督は賀来の主演作『今日から俺は!!劇場版』や『シン・仮面ライダー』をはじめ、数多くの映画・ドラマのアクションを手がけてきた田渕景也が務めている。
キャラクターが際立った家族ドラマ
タイトルのとおり、一番のテーマは「家族」だ。俵家は代々徳川家に仕えてきた服部半蔵の末裔で、今も忍びの仕事を請け負っている。俵家の次男は、かつての戦いで心に傷を負った“人を殺せない忍者”の晴。長男の岳(高良健吾)は、6年前の戦いで深い傷を負って海中に転落、家族の前から消えてしまった。晴は自分のせいだと責任を感じている。
家族を守ろうとしているがどこか空回り気味の父・壮一(江口洋介)、忍者の仕事がなくて欲求不満気味の母・陽子(木村多江)、岳を強く慕っていた長女・凪(蒔田彩珠)、家族が特殊すぎることに悩む普通の末っ子・陸(番家天嵩)、何を考えているかわからない祖母・タキ(宮本信子)は心がバラバラになっていた。「忍びの家」は、戦いを通じて家族の再生を描く物語である。
それにしても、よくぞここまでキャラの立った家族が揃ったものだと感心してしまう。注目は、どこか人を食ったような母・陽子を演じた木村だろうか。凪を演じた蒔田は撮影前、でんぐり返りさえできなかったらしい。
個性的すぎるキャストたち
俵家以外にも個性的なキャストが顔を揃えた。晴と心を通わせるジャーナリスト(なぜか「ムー」で仕事をしている)に吉岡里帆、俵家を管轄する文化庁忍者管理局(BNM)の役人に田口トモロヲと柄本時生、『ジョン・ウィック』シリーズの「清掃屋」を思わせる清掃担当に嶋田久作、凪が起こした事件を追う刑事にピエール瀧がキャスティングされている。
そして新興宗教・元天会の教祖であり、俵家と敵対する風魔一族の男・辻岡洋介を演じるのが、山田孝之である。優しい声色で若者たちを手なづける怪しげなカリスマと、厳粛な物腰で家来を率いる頭領を、瞬時に演じ分けられる俳優は多くないはずだ。ほかに、怪事件の鍵を握る男を中国映画で活躍する木幡竜、辻岡の片腕・あやめをマドンナのバックダンサーを務めたAyaBambiの仲万美が演じている。
タキの謎の協力者・白石加代子や俵家を狙う刺客・白川和子などの老女シーンスティーラーに目を奪われる一方、平成『ガメラ』シリーズで知られる藤谷文子がどこに出演しているかまったくわからないという隠し味も面白い。忍びか……。
忍者の「悲哀」と「正義」を描く
先ほども触れたように「忍びの家」は賀来が主演とプロデューサーと原案を兼ねている。もともと賀来が作成した20ページほどの企画書をNetflixに持ち込んだところから企画がスタートし、3年半以上の歳月を費やして完成にこぎつけた。
「家族」という世界共通の普遍的なテーマを扱っているが、「忍者」という日本独自のモチーフもテーマに大きく関わっている。忍者は単なるスパイでもなければアクションヒーローでもない。監督のデイヴ・ボイルは忍者の“耐え忍ぶ”ところに注目したという。忍者は肉も食べなければ酒も飲まない。恋愛すら禁止である。いつも耐えて忍びながら、主(あるじ)の「影」として暗躍する忍者の悲哀がクローズアップされている。
もう一つは、忍者たち各々に正義があり、各々が正義にもとづいて行動しているという部分だ。服部家の末裔である俵家は体制のために働いているが、それは腐敗した体制の維持に加担していることを意味する。一方、風魔一族には体制に屈して辛酸を舐めてきた歴史があり、彼らは新たな野望をたぎらせている。ボイル監督がリファレンス先として挙げた市川雷蔵主演の映画『忍びの者』も、権力者に操られる忍者の悲哀と抵抗をリアルなタッチで描いた作品だった。
ローカルで活躍してきた賀来がインディペンデントの映画監督デイヴ・ボイルと手を組み、原作の人気に頼らないオリジナルストーリーで世界に挑戦して、アクションというジャンルで成功を収めたのは、日本の映画・ドラマにとって大きな一歩だと思う。オリジナルであることは、物語とテーマ設定に自由さをもたらす。第8話の驚きの展開や、アクション作品に「憲法改正」というイシューを物語に入れ込むことができたのも、オリジナルストーリーの強みだろう。最終話には続編への含みが十分に持たせてある。シーズン2に大いに期待したいし、きっと世界中の視聴者が期待している。