【ネタバレあり】「寄生獣 -ザ・グレイ-」岩明均お墨付きの新実写版が誕生するまで ヨン・サンホ監督インタビュー
岩明均の大ヒット漫画「寄生獣」をベースに、原作とは異なる物語を描くNetflixシリーズ「寄生獣 -ザ・グレイ-」(全6話)。韓国を舞台に、悲痛な幼少期を過ごした主人公チョン・スインと、彼女に寄生するパラサイト「ハイジ」の奇妙な共存関係が始まる。同作の監督・共同脚本を手がけたヨン・サンホ監督(『新感染 ファイナル・エクスプレス』)がリモートインタビューに応じ、原作漫画の魅力や新たな「寄生獣」誕生の裏側、原作ファンも驚く衝撃ラストについて語った。(取材・文・構成:編集部・倉本拓弥)
※ご注意:本記事は「寄生獣 -ザ・グレイ-」の重大なネタバレを含みます。第6話の鑑賞後にお読みいただくことをおすすめします。
「寄生獣」は必ず読むべきと言われていた
Q:「寄生獣」は監督にとって「漫画の教科書のような存在」とコメントされていました。初めて原作漫画を読んだ時、最も惹かれた点はどこでしたか?
「寄生獣」は、私の周りで漫画を描いている人たちの間でとても有名な作品でした。 その友人たちから、「寄生獣」は必ず読むべきと言われていたので、そういった経緯で初めて作品に触れました。原作漫画は“ボディースナッチャーズ”(人間の身体が異性物体に乗っ取られる)というジャンルであると言えます。そのジャンルの特性をよく生かしながら、 アクションもあり、メッセージ性もある。この三拍子がぴったり合う、そんな名作だと思いました。
Q:監督は近年、映画よりドラマシリーズに多く関わられている印象です。ドラマシリーズならではの魅力は、どこにあるのでしょうか?
ドラマシリーズは、作品の世界観を構築するのにとてもいい媒体だと思うんです。 とりわけ、Netflixという媒体は、グローバルな波及力のある、全世界の視聴者たちが同時に視聴できるという意味で、私がこれまで目指してきた方向性にとてもよく合っていると思っています。最近は、Netflixのシリーズを中心に作業をすることが増えています。
Q:原作にリスペクトを捧げながら、オリジナリティーを加えてドラマ化されています。特徴的なのは、原作漫画では、寄生生物・ミギーが主人公・泉新一の右手に寄生しているのに対して、「寄生獣 -ザ・グレイ-」ではハイジがスインの顔の右側に寄生していることです。この設定は、どのようにして思いついたのでしょうか?
原作の「寄生獣」における巨大なメッセージというのは、人間と他の生物の共存だと考えています。「寄生獣 -ザ・グレイ-」のテーマとしても、共存というところにフォーカスしました。スインとハイジが1つの体の中で共生する、そして、異なる性格の2人がいかに1つの体の中で共存していくことができるのか、そして互いに理解することができるのかという物語だと考えました。
ですから、スインとハイジがどのように共存していけるのか、というところから設定がスタートしています。新一とミギーの場合、ミギーが新一の右手に寄生していることで、2人は直接会話をすることができるようになっています。しかし、「寄生獣 -ザ・グレイ-」においては、 異なる性格の両者が直接会話できないことによって、お互いを理解していく過程というのが、より劇的な効果を持って描けるのではないかと思いました。
まず先に浮かんだのが、ジキルとハイドのような2重人格ということにしたらどうだろうか、ということです。原作の方では、新一とミギーの関係において、新一の心臓を治す過程で、ミギーは一定期間眠らなければならないという設定になっています。「寄生獣 -ザ・グレイ-」でもその設定を採用して、スインとハイジの関係においては、ハイジがスインの意識を支配できるのは、1日のうちに15分だけだという設定にしました。そうすることによって、2人の意思疎通はより難しくなりますし、 お互いを理解する過程も難しくなってくる。より効果が高まるだろうということで、顔の右側に寄生する方向になっていきました。
原作と対照的なダークなスリラー作品に
Q:原作漫画は、コミカルなやり取りが多く描かれています。対して「寄生獣 -ザ・グレイ-」は、かなりシリアスなトーンで物語が進んでいきます。この脚色の狙いや意図を教えてください。
原作は、 ボディースナッチャーズというジャンル、さらに「少年漫画」という形態を持っていると思います。今回「寄生獣 -ザ・グレイ-」を作る時に、原作のジャンル、メッセージを引き継ぎながらも、本作ならではのジャンルは何かということを考えたんです。その時、自分の中で中心に据えたのが、シリアスな雰囲気のスリラーでした。基本の枠組みとして、捜査劇にしたいという考えがありました。原作漫画では、少年漫画というある種の枠組みがあったように、「寄生獣 -ザ・グレイ-」ではダークなスリラーや捜査劇の形を借りて作ればどうだろうかという考えがあったので、原作に比べると重いスリラー作品になっていると思います。
Q:メインキャストには、過去に監督と仕事したことがある顔ぶれが多いですが、キャスティングで重要視していることは?
一緒に仕事をしたことがある俳優たちですと、その俳優の持つ長所や強みがより明確に見えることがあると思います。台本を書く時、キャラクターを作っていく時には、ある特定の人物、自分がよく知っている人物に置き換えて書くことがあります。そのため、これまで一緒にお仕事したことのある俳優とまたご一緒することが多いです。
スイン役のチョン・ソニさんとは、今回初めてご一緒したのですが、スインとハイジという役柄を誰が演じたらいいだろうかと考えた時に、もともと私がこれまで知っている俳優ではなく、見知らぬ俳優とこの人物を作りたいという気持ちがありました。以前、チョン・ソニさんが出演されているインディーズ映画をとても楽しく拝見していたんです。 何本か観た時に、ぜひ機会があればご一緒したいと思い、とても気になる俳優でした。
VFXは山崎貴監督版『寄生獣』を参考
Q:「寄生獣」は過去に、山崎貴監督が実写映画化しています。ドラマを制作するにあたって、山崎監督が手がけた『寄生獣』から何かヒントを得ましたか?
日本における実写版2部作は、2作とも大変優れた素晴らしい作品です。山崎監督が作られた実写版は、山崎監督ご本人がVFXをされていた方なので、CGを具現化するところ、CGを無限化している部分が本当に見事に表現されています。「寄生獣 -ザ・グレイ-」のCGチームは、実写版のBlu-rayの中に収録されたメイキング映像をよく見ながら、参考にしていたほどです。漫画を実写化する上でのノウハウが、たくさん詰まっていると思います。
さらに面白いのは、去年東宝スタジオを訪問した際、ちょうど『ゴジラ-1.0』のポストプロダクション作業をしている山崎監督にお会いしたんです。山崎監督に、「寄生獣 -ザ・グレイ-」を準備しているという話をした時に、同じくCGIが多用されているという意味で、それは大変な作業でもあるので、「僕たち、撮影した後に話をしたら、話すことが山ほどあるだろうね」という話をしたことを覚えています。
Q:監督は過去にも、漫画の映像化を手掛けたことがありますが、原作がある作品の場合に気を付けていること、原作の「ここは必ず反映しよう」と思っていることはありますか?
まず初めに、私が「寄生獣 -ザ・グレイ-」を作りたいという話になった時に、 講談社の「寄生獣」担当者の方々にお会いして、私の構想、アイデアの大まかな内容を説明しました。それを聞いた岩明先生は、意外なことに、このアイデアをとても気に入ってくださったんです。その後、「ヨン・サンホ監督は 『寄生獣』のファンだから自由に撮ってほしいと言っていた」という話を聞き、とても感動しました。
また「寄生獣 -ザ・グレイ-」を作る上で、原作漫画の持つ魅力またはメッセージをいかに中心に持ってくることができるのかということを、長い間考えていました。原作漫画では、ストーリーの核となるテーマは何なのか、またどのようなことを伝えようとしているストーリーなのか、それが何なのかを長く考えながら構築していきました。もう1つは、私はなぜこの漫画が好きなのか、この漫画に惹かれているのかということを長く、深く考えながら構想を練っていきました。
衝撃のラストシーン、泉新一登場の裏側
Q:「共生」がテーマにあると仰っていますが、もう1つのテーマとして、監督が一貫して作品に込めている「家族」が挙げられると思います。身近な存在である家族が寄生されてしまったり、実の家族から冷たく扱われていたスインがハイジと奇妙な家族のような絆を結んでいるという点も特徴的です。
ストーリーを構築する時に、まず最初に考えたのは、 お互いが全く異なる、スインとハイジがお互いを理解していく物語でした。また、もう1つストーリーラインを作る上で考えたのは、人間が共存のために作り上げているもの、 まさに何かが集まって1つの形を成す組織だと思うんですね。家族もその形態の1つだと言えるかもしれません。
そういう意味では、 「寄生獣 -ザ・グレイ-」の中にはさまざまな組織が登場します。 家族であったり、またはソル・ガンウ(ク・ギョファン)が属していた暴力団、警察、宗教集団、後半では記念館も登場します。ですが、この人間が作り上げた集団や組織というのは、本作では前向きには描かれていないと言えます。スインの家族や、警察内部もそうです。果たして、人間は1人で生きていくべきなのか。1人で生きていくものなのか、という問いかけがされます。そうではないとすれば、人間が共存する上でどんな形態が あるべきなのか。共存する上で、人間は連帯していくことができるのか。それらを伝えたいという思いでストーリーラインを作り上げていきました。
Q:(ネタバレ)第6話のラストシーンでは、原作「寄生獣」の主人公である泉新一(菅田将暉)が登場しました。新一役に菅田さんを起用した理由、また新一が「寄生獣 -ザ・グレイ-」の世界観においてどのような立ち位置になるのか、言える範囲で教えてください。
このドラマが、新一が登場するエンディングで終わることは、私にとってとても重要だと考えていました。 「寄生獣 -ザ・グレイ-」という作品が、原作のストーリーと同じ世界観を共有する、その延長線上にある拡張したストーリーであるということを、あのシーンを見ることによって、直感的に感じ取れると思います。
新一はとても有名な主人公ですので、この役を誰にお願いしたらいいだろうか? ということを考えた時に、 菅田さんが出演した映画『あゝ、荒野』を拝見しまして、菅田さんの少年のような顔と真剣な眼差しを持つその姿、二つの顔が同時に見えたんです。 そこで、新一にとても似通っていると思いました。
おそらく、最後のシーンは「寄生獣 -ザ・グレイ-」のその後を予告しているものと言えるかもしれません。本作は、寄生生物が飛来してから8年後という設定になっていて、そういった意味で、新一も成人として描かれており、また寄生生物を取材するルポライターになっています。菅田さんとは「もし続きがあったら、こういうふうに話を広げたいね」という話をしています。
Netflixシリーズ「寄生獣 -ザ・グレイ-」独占配信中
(C) 岩明均/講談社