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性のタブーに切り込んだ奈緒主演作が衝撃だった…

先生の白い嘘

 話題作への出演が続く奈緒が主演を務める映画『先生の白い嘘』が、とんでもない衝撃作だった。男女の“性差”を“格差”として振りかざす男性に対して、真正面から立ち向かっていく高校教師の美鈴(奈緒)を主人公に、性のタブーに鋭く切り込んだ本作。本性をさらけ出す登場人物たちが繰り広げる怒涛の展開に圧倒されながら、誰もがハッとするような無意識に閉じ込めていた想いまでを引きずり出され、生きる力を振り絞りたくなるような心を激しく揺さぶる映画として完成している。観た後にはきっと、それまでの自分には戻れない。そんな本作の衝撃度を紹介する。(文・成田おり枝)

男女の性差に切り込んだテーマが衝撃

先生の白い嘘

 美鈴が割り箸を割り、「人間を二つに分けたとして、必ずどちらかが取り分が多い、と私は感じている」とつぶやく場面から幕を開ける本作。人間を男と女に分けても、美鈴はいつも取り分が少ない方にいると不平等を感じている。教師として教壇に立つ彼女は、空っぽな表情をしており、冒頭から「一体、彼女に何があったのか?」と映画にくぎ付けになる。

 次第に明らかとなる彼女の心情は、なんとも複雑だ。美鈴は、親友である美奈子(三吉彩花)の婚約者・早藤(風間俊介)から強制的な関係を求められているにも関わらず、彼との行為を通して、自身の中に性への欲望や快楽が芽生えていることに気付いている。力で押さえつけて“強者”となる男性への憎しみと共に、自分の性に対しても矛盾を抱え、声にならない叫びが渦巻いているのだ。そんなある日、美鈴は担任する男子生徒・新妻(猪狩蒼弥)の不倫疑惑事件をきっかけに、新妻と対峙。年上の女性に迫られた自分を“弱者”だと感じている新妻を前に、美鈴は本音を爆発させる。

 「男のくせに」と厳しい言葉をかける美鈴に対して、新妻も「男に生まれたくて、生まれてきたんじゃない」と応えるなど、それぞれが本当の気持ちをむき出しにして意見を戦わせていく。ただならぬ言葉の応酬から男女の性差や、彼らの苦しみが浮き彫りとなり、開始30分で「この映画はすごいぞ」と胸のざわめきが止まらなくなる。

奈緒&猪狩蒼弥、迫真の演技が衝撃

先生の白い嘘

 奈緒と HiHi Jets のメンバーである猪狩が巻き起こす素晴らしい化学反応を目撃できる本作は、二人にとって間違いなく新境地に挑んだ作品であり、誇るべき代表作となるだろう。

 奈緒は、美鈴の心の旅路を見事に体現した。痛みや怒りにもだえながらも、傷付かないようにとあらゆることから目を背けて生きている美鈴は、観客の心を掻き乱す。そんな美鈴が、力強く立ち上がり、男性、そして自分とも戦っていく姿はまぶしさにあふれている。衝撃的な性描写や暴力描写を交え、蓋をしていた性のタブーを明らかにしていく内容など、美鈴役を引き受けるには相当な覚悟が必要だったはずだ。しかしもともと鳥飼茜による原作のファンだった奈緒は、「この作品と共に苦しみ、この作品と共に闘うことを心に誓い出演をお受けした」と並々ならぬ決意で本作に飛び込んだという。作品の力を信じた奈緒の情熱は、しっかりとスクリーンに刻み込まれた。

先生の白い嘘

 一方の猪狩は、性についてトラウマを持つ新妻の戸惑いを、等身大の輝きと共に表現。美鈴に抱いていく一途な想いは、彼のまっすぐな瞳からもにじみ出るようだ。そのひたむきさで美鈴の背中を押していくという大役を、鮮やかに演じ切っている。本作で映画初単独出演を果たした猪狩だが、彼の俳優としての覚醒を目の当たりにするという意味でも、本作は見逃せない。そしてどこか懐かしい匂いのする美鈴の家で穏やかな時間を過ごし、美鈴と新妻が少しずつ距離を近付けていく様子は、『恋わずらいのエリー』や『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』など恋愛映画の名手でもある三木康一郎監督によって、美しい人間の関わり合いが見えるシーンとなっている。

三吉彩花&風間俊介、体当たりの怪演が衝撃

先生の白い嘘

 美奈子を演じた三吉、早藤を演じた風間の体当たりの演技も、本作の衝撃度をグンと引き上げている。

 美奈子は、男性に依存し、無邪気に結婚を夢見ているような女性だ。男性がどうすれば喜ぶかを知っている、したたかな女性でもある。三吉は、あらゆる場面で美奈子の本音がチラリと見えるような、深みのある演技を見せている。映画を観終わった時には、きっとその凄みを感じるはず。クライマックスに向けて表出する美奈子の姿には、度肝を抜かれること必至だ。

先生の白い嘘

 またすべての観客から憎まれるような存在である早藤を演じたのが、風間だ。早藤は一見、人当たりがよいエリートサラリーマンだが、裏では女を見下して暴力を振るう猟奇的な男。さわやかなイメージがありながらも、役者としては内面に闇を抱えた役柄を演じることにも定評のある風間だが、早藤として放つ狂気は空前絶後。ねっとりとした視線、声色も忘れ難い迫力の怪演で、人間に巣くう醜さを見せつける。一筋縄ではいかない役柄にふんした役者陣の熱演により、一瞬たりとも目の離せない映画となっている。

刺さるセリフの数々が衝撃

先生の白い嘘

 ドキッとするような刺さるセリフも多い。美鈴は、男とはこういうもの、女とはこういうものと思い込むことで、あらゆることが通り過ぎるのを待っている。それがハッキリと表れるセリフが、美鈴による「私の敵は私なの」という一言だ。「男と女は平等じゃないんですか?」とストレートに投げ掛ける新妻とうそのないやり取りを繰り広げる中、美鈴は、戦えずにいるのは自分の弱さでもあると認めていく。「私の敵は私」という言葉の重みは、誰もが思い当たることかもしれない。思い込みや見て見ぬ振りをやめ、自分として生きていくことの尊さを教えてくれるようなセリフだ。

 そして性にまつわる話題は打ち明けづらいこともあり、どうしてもタブーになりがちだ。性によって傷ついた女性、男性、どちらの視点も描く本作は、今一度立ち止まって、性暴力や性被害についてじっくりと考える機会になるだろう。どちらかが「怖い」と思えばそれは暴力となり、どちらの性も“強者”“弱者”になり得るものだ。極めて難しいテーマに取り組んだ本作は、男女平等が進むだけでなく、性暴力への意識が高まっている今こそ観るべき1本。

 表面を取り繕うのではなく、観客も「自分はどう思う?」と無意識に見過ごしていた問題に向き合いながら、腹の奥底に隠れていた感情を引きずり出されるはず。加えて「先生を傷付けた性を自分も持っている」と葛藤する新妻、「あなたの言葉が力を与えた」と彼に伝える美鈴を見ることで、人は相手を大切に思い合い、優しさを持ち寄って関係を築いていけるものだと、一筋の希望が見えてくる。

映画『先生の白い嘘』は7月5日より全国公開
公式サイトはこちら

【特集】「性の格差」という社会の不条理と向き合う…目を背けてはいけない一作『先生の白い嘘』>>(シネマカフェ)

映画『先生の白い嘘』予告編

(C) 2024「先生の白い嘘」製作委員会 (C) 鳥飼茜/講談社

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