【完全ネタバレ】『マッドマックス:フュリオサ』徹底解説 もっと楽しくなるトリビア&小ネタ、過去作とのつながり
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で鮮烈なデビューを果たした戦士フュリオサの生き様を描いたジョージ・ミラー監督最新作『マッドマックス:フュリオサ』。15年にわたるフュリオサの復讐の旅を描いた本作には、前作や『マッドマックス』シリーズとのつながりが様々な形で描かれている。そんな本作をより楽しめるトリビアをまとめて紹介する。(文:神武団四郎)
※本記事はネタバレを含みます。映画『マッドマックス:フュリオサ』鑑賞後にお読みいただくことをおすすめします。
フュリオサのキャラクターを象徴するあの生き物
短く刈り込んだ髪型で強烈な印象を与えたフュリオサ。しかし今作でアニャ・テイラー=ジョイが演じた彼女は、終盤近くまで長い髪のままだった。『怒りのデス・ロード』は脚本を読んだシャーリーズ・セロンが髪を刈りたいと自ら提案した経緯があり、完成した映画はデザイン画に描かれたキャラクターとは異なっている。今作のフュリオサのルックスはオリジナルのコンセプトに戻ったといえる。
フュリオサの故郷・緑の地で、幼い彼女が桃を獲ろうとした時にミツバチがその周囲を元気に飛び回っていた。ラストの脱走シーンの直前、フュリオサがシタデルに植えた桃の木を訪れた時も同様だった。古代ギリシアでミツバチは、野山を駆け回る狩猟の女神アルテミスを象徴する存在とされた。またメス中心の社会を築き、針で相手を刺したら自分も命を落とすという悲劇的な特徴を持っている。『マッドマックス2』では犬が、『マッドマックス/サンダードーム』では猿がマックスの写し鏡のように登場したが、本作ではミツバチが象徴として使われた。
フュリオサの宿敵・ディメンタス(クリス・ヘムズワース)もペットの犬を連れていたが、うち一匹の右前足が義足だった。この「3本脚の犬」のアイデアは、『マッドマックス2』のプリプロ中に左足が不自由なマックスに合わせて犬も3本脚にしようと考えたのが最初。当時は実際に脚のない犬を探す以外に手はなかったが、CGの力を借りることで実現したキャラクターなのだ。
少女からイモータン・ジョーに仕える部隊の大隊長へと成長していくフュリオサ。彼女には過去シリーズのさまざまなキャラクターの姿が重なって見える。愛する母を殺され復讐に燃える姿は第1作のマックスと重なるし、ウォー・タンクに潜み警護隊長ジャックをアシストする様は『マッドマックス2』のフェラル・キッドを思わせる。『怒りのデス・ロード』との連携はもちろん、イモータンに放った名セリフ「私のことを覚えてる?」をディメンタスにも問いかけていた。何よりも復讐という闇に心を支配されていたフュリオサが、試練を乗り越え英雄として花嫁たちを連れ出す姿はマックスそのものだ。
ついに『マッドマックス』で描かれたふたつの大自然
『マッドマックス2』以降、はじめて描かれた自然あふれる緑の地。その15年後、『怒りのデス・ロード』の時代には放射能に侵され不気味な沼地と化すだけに、癒しと同時にもの悲しさを感じてしまう。そんな本作のプロローグ直後、スクリーンに映し出されるのは成層圏の外から見た地球。そこには不毛の地と化したオーストラリア風の大陸と、その周囲を囲む海が見てとれる。かつて『マッドマックス2』で海辺の楽園にむけ旅立つ人々の姿が描かれたが、『マッドマックス』で青々と広がる海を目の当たりにできるとはサプライズだった。今後シリーズで海が絡んでくるのか知るよしもないが、緑の地のように汚染されていないことを祈るばかりだ。
『マッドマックス』と聞いてまず思い浮かぶのは、どこまでも続く乾いた大地とそれを貫く一本道だろう。『怒りのデス・ロード』のロケ地は南アフリカのナミビアの砂漠地帯だったが、今作はマックスの故郷オーストラリアで撮影された。主要シーンのロケ地に選ばれたのは、オーストラリア大陸南東のブロークンヒル。いまから40年以上前『マッドマックス2』が撮影された、シリーズの聖地というべき場所である。不毛の荒野が広がっているのはナミビアも同じだが、雲の形など空を見るとその情景は『怒りのデス・ロード』より『マッドマックス2』に近いことがよくわかる。
ヘムズワース夫婦揃ってフュリオサの宿敵に
『怒りのデス・ロード』までの日々を描いた本作には、おなじみのキャラクターや俳優たちも復帰した。人食い男爵のジョン・ハワード、オーガニック・メカニックのアンガス・サンプソンはそのまま続投。残念ながら俳優の死去により、イモータン・ジョーはラッキー・ヒューム、武器将軍はリー・ペリーに変更された。『怒りのデス・ロード』で“輸血袋”マックスを乗せたニュークスカーにニュークスと乗り込んだスリット役のジョシュ・ヘルマンは、今作ではジョーの息子リクタス・エレクタスを演じている。ウォー・ボーイからジョーの息子へ、まさに大出世である。
『ワイルド・スピード』シリーズでドウェイン・ジョンソンふんするホブスの部下エレナを演じて注目され、『ソー:ラブ&サンダー』ではオオカミ女を演じたエルサ・パタキ。私生活ではクリス・ヘムズワースの妻である彼女は、本作で一人二役に挑んだ。映画の冒頭、フュリオサが誘拐されたと知って彼女の母メリー・ジャバサと馬に乗って駆け付ける鉄馬の女たちのひとり、そしてディメンタスの部下の残忍な女戦士Mr.ノートンだ。前者は素顔で、後者は口元が醜くゆがんだ特殊メイク姿でアクションの見せ場を作っていた。ヘムズワースは夫婦でフュリオサを苦しめたのだ。
公開前から話題を呼んでいたのは、シリーズの主人公マックスのゲスト出演。インターセプターと共に崖の上に佇むマックスを演じたのは、スタント・コーディネーターのジェイコブ・トムリだ。彼は『怒りのデス・ロード』でトム・ハーディのスタントダブルを務めた人物。つまり、本作のマックスは本物だった!
映画が捧げられたのはシリーズを支えたレジェンドたち
本作は『怒りのデス・ロード』公開後に世を去った5人の『マッドマックス』関係者に捧げられた。エンドロールでは、追悼の意を表して、彼らの名前が記載されている。
表記順に紹介すると、まずはスタント・コーディネーターのグラント・ペイジ。第1作のスタントを指揮した功労者で、『サンダードーム』『怒りのデス・ロード』にもスタントで参加したシリーズに欠かせない存在だった(2024年没)。ご存じヒュー・キース・バーンは第1作の悪玉トーカッターを迫力満点で演じ、『怒りのデス・ロード』ではイモータン・ジョーを演じたシリーズ最重要キャスト。彼の死は、日本の映画サイトでも広く報じられた(2020年没)。
続くリチャード・カーターは、『怒りのデス・ロード』で武器将軍を演じたベテラン。他にもミラー作品には『ハッピーフィート』シリーズに声優として参加しており、ミラーは早い時期から武器将軍役に彼を決めていた(2019年没)。クウィンティン・ケニハンは『怒りのデス・ロード』でベビーカーに乗ったジョーの長男コーパス・コロッサスを演じた俳優兼プロデューサー。骨形成不全症という障害を持つ彼は、3回のオーディションを経てコーパス役を勝ち取っており、一俳優として自分を選んだミラーを高く評価していた(2018年没)。最後のドーン・クリングバーグは、『フュリオサ』に出演。腕を失った瀕死のフュリオサに、楽にしてあげると迫る“死体管理者”の老婆役だ。本作が60年以上のキャリアを誇る彼女の遺作となった(2024年没)。
フュリオサの宿敵たちの隠された顔
今作はディメンタスが悪玉として圧倒的な存在感を放っているが、彼の参謀オクトボスにも注目したい。角の生えた悪魔のようなヘルメットをかぶった彼は、忠誠を誓った多くの部下を持つ実は人望のある男。後にディメンタスのもとを離れてモーティファイヤー族を組織し、ウォー・タンクを襲撃する。そんな彼らの後の姿が『怒りのデス・ロード』でフュリオサのウォー・タンクを襲ったイワオニ族。モトクロスバイクで宙を舞い爆弾攻撃を仕掛けてきた彼らのルーツが、今作で描かれている。
シタデルに現れ武力行使をちらつかせ脅しをかけるディメンタスに、余裕で対応するイモータン。自信満々の態度で思い出すのが、ミラー原案に基づくコミック「マッドマックス 怒りのデス・ロード: COMICS & INSPIRED ARTISTS」収録の「NUX AND IMMORTAN JOE」である。この短編はイモータン・ジョー誕生の物語。地下に豊かな水源をもつシタデルの存在を知ったジョー・ムーア大佐が、武装兵との激闘を制し新たな支配者になるまでが描かれる。わずかな部下とシタデルを陥落させたイモータンにとって、ディメンタスなど恐れるに足りない存在ということだ。映画で描かれたディメンタスのシタデル襲来は、このコミックを発展させたとも思われる。
なおディメンタスによって陥落したガスタウンや弾薬畑〈バレットファーム〉は、本作が初登場。『怒りのデス・ロード』ではセリフでのみ触れられていたが、町そのものは前作の製作時に美術監督コリン・ギブソンによって詳細に設定され、デザインも完成していた。
『マッドマックス』シリーズが独特なのは、マックスを取り巻く世界が刻々と変化していく点にある。核戦争を生き残った人々が小さなコミューンを作った『マッドマックス2』にはじまり、『サンダードーム』では町や娯楽が生まれ、『怒りのデス・ロード』では独裁者による都市国家シタデルが出現。時系列としては『怒りのデス・ロード』より前の今作では、都市間で経済活動をしている様子が描かれた。果たして今後『マッドマックス』がどんな進化を遂げるのか、そこでマックスがどんな活躍を見せるのか楽しみに待ちたい。
映画『マッドマックス:フュリオサ』は全国公開中
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