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『ラストマイル』何が面白い?豪華コラボだけじゃない魅力とは

ラストマイル

 TBS系の人気ドラマ「アンナチュラル」と「MIU404」を手がけた監督・塚原あゆ子と脚本・野木亜紀子がタッグを組んだ、満島ひかり主演の映画『ラストマイル』が快進撃を続けている。週末映画動員ランキングは2週連続で首位、累計興行収入は21億5,000万円に達したと発表された(興行通信社調べ)。公式からは中村倫也がサプライズ出演していたことも発表され、まだまだ話題性は十分。興行収入50億円は狙えるだろう。『君の名は。』の新海誠監督や、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督も絶賛の声を寄せている『ラストマイル』。なぜ人々の心を掴んでいるのか、あらためて考えてみたい(文・大山くまお)※本文には一部内容に触れる部分があります。

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シェアード・ユニバース・ムービーの魅力

 まず多くの人を惹きつけたのが、“シェアード・ユニバース”と称される人気ドラマ「アンナチュラル」と「MIU404」とのコラボレーション企画だ。石原さとみ綾野剛星野源をはじめとする2つのドラマの出演者がそのままの役柄で出演するということで、興味を持った観客も多かったことだろう。

 捜査が必要な場面では4機捜の伊吹(綾野)と志摩(星野)が登場し、遺体を解剖する場面ではUDIラボのミコト(石原)が登場する。これだけでも両ドラマのファンは嬉しかったはずだ。「アンナチュラル」に登場した刑事の毛利(大倉孝二)と「MIU404」に登場した刑事の刈谷(酒向芳)がバディを組んで捜査していたり、4機捜やUDIラボにそれぞれドラマにゆかりのある新メンバーが加わっていたりするのも芸が細かい。

ラストマイル

 一方で、両ドラマを見ていない観客でも、ストーリーを十分に理解できる程度にとどめているよう配慮が行き届いているようにも感じる。いわば「豪華な友情出演」ぐらいの感覚だ。『ラストマイル』を見た後、両ドラマを観るのもまた楽しい。

サスペンスとミステリー

 ストーリーは、世界最大のショッピングサイトから配送された段ボール箱が無差別に爆発する連続爆破事件をめぐるもの。巨大物流倉庫のセンター長・舟渡エレナ(満島)とチームマネージャーの梨本孔(岡田将生)は、犯人の正体、爆弾を仕掛ける方法、犯人の目的、残りの爆弾の数などを探ることになる。

ラストマイル

 予告でエレナが「止めませんよ、絶対」と言っているように、彼らが奮闘するのは物流を止めないようにするためだ。現代の日本社会は、配送に頼っている部分があまりにも大きい。医療も介護も配送が止まってしまえば、途端に危機に陥ってしまう。犯人探しのミステリーと物流をめぐるサスペンスが絡み合い、息詰まるストーリーが展開していく。

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労働と社会構造についての映画

 とはいえ、『ラストマイル』は単純なミステリー・サスペンスではない。現代社会を支えているシステムがはらむ問題がそこここに顔を出している。

 作品の中では物流に関するいくつかの階層が描かれている。まず物流倉庫のホワイトカラーであるエレナと孔。彼らは日本支社の統括本部長・五十嵐(ディーン・フジオカ)らと近い位置にいる一方、物流倉庫の派遣社員たちと会話を交わすことはない。次に日本の大手運送会社のホワイトカラー・八木(阿部サダヲ)。彼らは外資の言いなりであり、いつも無理難題に従わされている。そして“ラストマイル”を担う配達員の佐野親子(火野正平宇野祥平)。彼らは荷物1つにつき100円単位の薄給で1日じゅう汗を流している。

 階層には明らかに格差があり、お互いに交わることもなければ共感もない。物流の上流にあたるホワイトカラーはいつもストレスを抱えて精神を病み、下流にあたるブルーカラーは貧しさと先の見えなさに疲弊しきっている。

ラストマイル

 表面張力いっぱいに水をはったグラスのようにすべてがギリギリで動いている物流の世界を「止めないこと」は本当に正しいのか、社会の歯車として疲弊しきっている我々は唯々諾々と今のシステムに従っているだけでいいのか、健康で勤勉に働いているだけでは一生暮らしていけない社会でいいのか、もっと怒ってもいいんじゃないのか。そんな問題を観ている側に突きつけてくるのが『ラストマイル』という作品である。

 終盤でエレナが発するセリフは、「アンナチュラル」と「MIU404」で現代社会の病理を描き、「獣になれない私たち」で現代社会の働き方にメスを入れた野木らしさが十分に出ており、意味を考えさせられる。

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人に寄り添っているから楽しめる

 『ラストマイル』は現代の社会に対して批評的であり、事件は解決しても、観終わった後スッキリとした気持ちだけで劇場を出られない作品である。それでもなんだかグッと来てしまうのは、物語が現実に生きる1人1人に寄り添っているからじゃないだろうか。

ラストマイル

 その象徴が汗水流して働いている佐野親子だが、作り手の視線は社会の歯車としてすり減りながら真面目に働いている1人1人に優しい。システムを支えているのは人間であり、人間が小さな幸せを運んでいる。そのことを思い出させてくれるから、劇場を出るとき、観客の胸が少し温かくなっているのだろう。このあたりも野木の脚本らしさであり、『ラストマイル』という作品の魅力の根幹だろう。

(C) 2024「ラストマイル」製作委員会

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