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ジワる怖さ…韓国発スリラー「誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる」何が面白い?

誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる

 Netflixオリジナルの韓国ドラマ「誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる」(全8話)がじわじわと人気を集めている。どこまでも不穏で、展開が複雑、一歩先がまるで読めないミステリースリラーでありながら、人間の心の痛みをすくい上げる物語でもある。8月23日に配信がスタートして以来、「週間グローバルTOP10」(テレビ・非英語部門)でも2週にわたって上位にランキング、配信直後は「今日のTV番組TOP10(日本)」にもランクインし続けた。回を重ねるごとに目が離せなくなる同作の魅力をあらためてひも解いてみたい。(文・大山くまお)※本文には一部内容に触れる部分があります。

2つの時系列で進むストーリー

誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる

 森の奥にある瀟洒(しょうしゃ)な貸別荘を一人で経営している中年男、チョン・ヨンハ(キム・ユンソク)のもとへ、謎めいた女、ユ・ソンア(コ・ミンシ)が子連れでやってくる。これが2021年の出来事。一方、ク・サンジュン(ユン・ゲサン)とその家族が経営している、湖が見えるモーテルで凄惨な殺人事件が起こる。これが2001年の出来事。

 時系列が巧みにシャッフルされているため、最初は混乱するかもしれないが、このことだけ頭に入れておくと導入がわかりやすい。二つの出来事をつないでいるのが、2001年の事件を知る女性刑事のユン・ボミン(イ・ジョンウン)と、サンジュンの息子・ギホ(チャンヨル)である。

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誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる

 翌年、1人でやってきたソンアが本性を現し、ヨンハをはじめとする周囲を混沌の渦に巻き込みはじめる。一方、サンジュンは殺人事件の影響で人生の苦境に立たされてしまう。そして20年の時を経て、二つの悲惨な出来事と関係した人々が撚り合わさっていく。

緻密な物語の中の名優たち

 主人公のヨンハを演じたキム・ユンソクは『チェイサー』(2008)をはじめ、『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021)など数々の大ヒット映画に主演する名優。本作は17年ぶりの連続ドラマ出演となる。モーテル経営者のサンジュンを演じたユン・ゲサンは、マ・ドンソク主演の『犯罪都市』(2017)の凶悪なヤクザ役で鮮烈な印象を残した。

誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる

 謎めいた美女、ソンア役のコ・ミンシは『The Witch/魔女』(2018)や、Netflixシリーズ「Sweet Home -俺と世界の絶望-」(2020~2024)などで知られ、映画『密輸 1970』(2023)での情報通の喫茶店オーナー役も好評を博した。女刑事のボミンを演じたイ・ジョンウンは、なんといっても『パラサイト 半地下の家族』(2019)の家政婦役が有名な名バイプレーヤー。ギホ役のチャンヨルは、男性アイドルグループEXOのメンバーとして知られる。

 「夫婦の世界」(2020)で爆発的な反響を巻き起こし、百想芸術大賞の演出賞を受賞したモ・ワンイルが演出を務めている。

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不穏さの象徴“イカれ女”

 不穏な雰囲気に包まれている本作のストーリーを牽引していくのは、劇中で“イカれ女”と呼ばれるソンアの過激な言動だ。タイトでエレガントなトップスを華麗に着こなす美女でありながら、挑発的な言葉の数々と突発的な暴力でトラブルを撒き散らしていく。

 自分の欲望のためなら、容赦なく殴り、刺し、車をぶつけ、銃を撃つ。弱々しくも、しぶとい中年男・ヨンハを相手に、あるときは別荘をめぐって争いを繰り広げ、あるときは命の駆け引きまでやってのける。とうもろこし畑の中で返り血を浴びたまま、鮮やかなブルーのコンバーチブルに腰かけて夕陽を眩しそうに見つめるソンアの姿は、凶々しくも美しい。

誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる

 暴力衝動の塊のようなソンアだが、なぜ彼女がこのような凶行を繰り返すのかについては作品の中で描かれない。しかし、劇中で“鬼”と呼ばれる刑事ボミンが語ったように、鍵は「あるはずなのに見えないもの」にある。凶行を楽しんでいるようでどこか追い詰められたようなソンアの表情、DV疑惑のある別れた夫、なぜかヨンハを「おじさん」と慕っている様子、強大な権力を持つ父親など、ヒントはあちこちに散りばめられており、このドラマをより重層的なものにしている。

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タイトルの意味

 ヨンハとサンジュンは、いずれも不条理なほどの不運に見舞われている。経営しているモーテルで殺人事件が起き、“事故物件”を抱えることになったサンジュンと、自分の貸別荘に“イカれ女”がやってきたヨンハ。家族を守れなかった二人は、自分が悪かったのではないかと苦悩し、自責に苛まれる。

誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる

 そんな中、ボミンがヨンハに語ったのがカエルの話だった。石がぶつかったカエルは、なぜ自分に石がぶつかったのかと考え続ける。しかし、実際には石がぶつかったのは、自分のせいでもなければ、他人のせいでもない。ただ運が悪かったのだ。そのような不運は誰の身にも起こりうる。運が悪かっただけで、あなたは悪くない。そう語りかけてくれる作品だ。本作の英語タイトルは「The Frog(カエル)」である。

 では、不運が起こったらどうすればいいのか。ヨンハの親友ヨンチェ(イ・ナミ)が言うように対処するしかないのだ。カエルに関する言葉で「茹でガエルの法則」と呼ばれるものがある。カエルを熱湯に入れると逃げるが、水に入れた状態でゆっくり沸騰させると危険を察知できずに死んでしまう。ヨンハはまさに「茹でガエル」だった。しかし、それも人間の普遍的な心理なのかもしれない。

誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる

 「誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる」というタイトルは、誰も知らないところで理不尽な苦痛に苛まれて倒れていく人々のことを指しているのと同時に、他の人が見えないところ、気付かないところにも人が倒れるほどの痛みがあることを指しているのだろう。ちなみに劇中で何度もかかるボビー・ブランドの「ハート・オブ・ザ・シティ」は、大切な人を失ったこの街に愛などない、という悲痛な嘆きを歌った曲である。私たちは森の奥で木が倒れる音に耳を澄ましておくべきなのだ。

Netflixシリーズ「誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる」は独占配信中

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