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【完全ネタバレ】『ジョーカー2』徹底解説 前作とのリンク&名作オマージュ、劇中楽曲を総まとめ

 全世界で話題の映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』には、前作『ジョーカー』(2019)とのリンク、原作コミックにまつわる小ネタ、名作映画のオマージュが山盛り。ここでは、思わず見落としがちなポイントを一挙紹介する。(文・平沢薫)

※ご注意:本記事はネタバレを含みます。『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』をまだ観ていない方はご注意ください。

前作『ジョーカー』とのリンク

 主人公のアーサー(ホアキン・フェニックス)が踊り狂ったあの伝説的な階段を筆頭に、前作『ジョーカー』とのリンクは、ドラマに大きく関わってくる。

●ワーナー・ブラザースのアニメシリーズ、ルーニー・テューンズ風で始まる冒頭シーンでは、劇場外の群衆の中に、前作冒頭でアーサーが盗まれたものとそっくりな広告看板を持ったピエロがいる。

●アーサーがリー(レディー・ガガ)を最初に見かけた時、リーは指で形作った銃で、自分の頭を撃ち抜くジェスチャーをする。これは前作で、アーサーが密かに好意を抱くソフィー(ザジー・ビーツ)と同じエレベーターに乗り合わせた時、彼女がしたのと同じ仕草。アーサーがリーに興味を持ったのは、この仕草のせいもあるだろう。

●看守がアーサーにサインをねだって差し出した本は、前作でアーサーが出演したトーク番組のプロデューサー、ジーン・ウルフランド著の「The Night the Laughter Died」。彼は、本番前にアーサーと何秒か顔を合わせただけなのに、事件後、ちゃっかりこんな実話本を出していた。

●アーサーが夢想の中でリーと一緒に出演する舞台の背後のカーテンに「Pogo's」の文字がある。ここは、アーサーが前作でコメディアンとして出演したクラブ。ちなみにこの「ポゴ」は、実在のシリアルキラー、ジョン・ウェイン・ゲイシーがパーティでピエロをする時のニックネーム

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●前作でジョーカーが踊りながら下った伝説的な階段を今回はアーサーが登る。

●本作で何度も歌われる歌「ザッツ・ライフ(That’s Life)」は、前作でマレー(ロバート・デ・ニーロ)のトーク番組のエンディングテーマ曲として使われていて、アーサーも鼻歌で歌っていた。これはフランク・シナトラの1966年の大ヒット曲。本作でジョーカーがこれを歌う時の身振りは、シナトラのステージでの動きに似ている。

●アーサーが階段で警官に捕まった後、パトカーで移送されていく時、窓によりかかって外の光景を見ている。この彼の姿勢と映像の構図は、前作でアーサーが番組で殺人をした後、パトカーに乗せられていくときと同じ。ただし外の光景はかなり違う。

●アーカム矯正施設で、若い受刑者(コナー・ストーリー)がアーサーをナイフで刺すときに言う言葉「報いを受けろ、クソ野郎!」は、前作でアーサーがトーク番組の司会者マレーを撃つ時の言葉と同じ。これは若い受刑者が、ジョーカーの誕生の瞬間を自ら再演して、自分こそジョーカーだと宣言しているように見える。この受刑者は、倒れたアーサーの背後で、ナイフで肉を切るような音を立てるが、これは『ダークナイト』のジョーカー(ヒース・レジャー)の口の両端にナイフで切ったような傷跡があったことを思い出させる。

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コミックが原点のネタもあちこちに

『ジョーカー』2作品は、他のアメコミ映画ほど原作コミックを意識しているわけではないが、それでもコミックを踏まえたネタは随所に散りばめられている。

●大きなネタは、DCの人気ヴィラン・トゥーフェイスになる前の検事ハービー・デント(ハリー・ローティーの登場。彼はアーサーの裁判の検事を務め、法廷の爆破によって顔の片側を負傷した。コミックの設定でも検事で、法廷で犯罪者に硫酸で顔の片側を焼かれ、トゥーフェイス(=2つの顔)になる。

●ジョーカーとリーがビルの屋上で古風なダンスをするシーンでは、2人の後に「ホテル・アーカム」のネオンサインがある。アーカムの名称は、DCコミックのヴィランたちが収容される精神病院アーカム・アサイラムでおなじみ。アーカムは創設者一族の名前なので、ホテルを経営していてもおかしくないが、アーサーの妄想かもしれない。また、このシーンの2人ポーズは、コミック「The Joker/Harley Quinn: Uncovered #1」(2023)のアレックス・ロスによる表紙絵を意識しているかもしれない。

●ジョーカーとリーの結婚式のようなシーンで、ジョーカーはいつもの赤いスーツではなく、白いスーツを着ている。これは結婚式のためでもあるだろうが、フランク・ミラーの名作コミック「ダークナイト・リターンズ」(1989)のジョーカーの白いスーツを意識しているのかもしれない。

●アーサーが裁判のために車で移送されていく時、「ウェイン」と看板がついた建物が見える。これはコミックで、バットマンの父が創設し、バットマンが引き継いだウェイン・エンターブライズを踏まえたもの。

●リーの設定は、コミックのジョーカーの恋人ハーレイ・クイン(本名ハーリーン・クインゼル)の設定と共通点が多い。本名、裕福な家で育ったこと、心理学を学んだことはコミックと同じ。リーはアーサーに妊娠したというが、コミックではハーレイがジョーカーによく彼の子供がほしいと言う。リーがアーサーの最後の裁判にいく時の服は赤と黒でトランプのダイヤモンド柄だが、コミックの初期のハーレイの衣装も赤と黒でトランプ柄が多い。

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ワーナーアニメ、スコセッシ映画へのオマージュ

 冒頭から全編を通してワーナーの名作アニメ、ルーニー・テューンズがたっぷり。前作に続いて、マーティン・スコセッシ監督の名作映画へのオマージュもある。

●ルーニー・テューンズは、アーサーが収容されている施設のテレビ画面に何度も映る。その中で、顔がアップになるキャラクターがスカンクのぺぺ。ぺぺは、自分の同類だと勘違いしてクロネコのペネロッピーに片想いしているが、ペネロッピーは相手にしない。その関係は、アーサーとリーの関係に似ている。ぺぺの丸い球のような鼻も、アーサーのピエロの付け鼻と似ている。

●弁護人ジョーカーの裁判でのセリフ「これでおしまい!」は、ルーニー・テューンズの人気キャラクター、ポーキー・ピッグが毎回ドラマの最後に言う決まり文句「こ・こ・こ・これでおしまい!(Th-Th-Th-That's All Folks!)」を踏まえたもの。

●アーサーの裁判の裁判長ロスワックス(ビル・スミトロヴィッチ)は、風貌がスコセッシ監督にそっくり。これは『ジョーカー』がスコセッシ監督の『タクシードライバー』(1976)、『キング・オブ・コメディ』(1982)を踏まえており、本作がこの監督のミュージカル映画『ニューヨーク・ニューヨーク』(1977)を意識しているからか。3作とも、前作でトーク番組司会者マレーを演じたデ・ニーロが主演している。

●ジョーカーは、裁判で弁護人として話す時だけ南部訛りになる。これは名作法廷ドラマシリーズ「アラバマ物語」(1962)の弁護士が南部訛りで話すことを踏まえているのだろう。

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名作ミュージカルの曲、スタンダードナンバーの引用元

 アーサーとリーは劇中、名作ミュージカルの曲やスタンダードソングの数々を歌いまくる。「これは何の曲?」と気になった印象的な曲の引用元をまとめる。

 本作のミュージック・スーパーバイザーは『ジョーカー』と同じく、ウェス・アンダーソン監督監督作の常連ランドール・ポスターと、『バービー』等のジョージ・ドレイコリアスが務めた。

注:曲名の表記は、邦題のある曲名は「邦題(原題)」、邦題のない曲は「原題」で表記しています

●曲ではなく、情景が引用されたのがジャック・ドゥミ監督のミュージカル映画シェルブールの雨傘』(1963)。雨の中、傘をさした看守たちがアーサーを連行するシーンで、並んだ傘を真上から映し出す構図は、この映画そっくり。側面から映し出される実際の傘の色は黒いが、アーサーが夢想の中で俯瞰で見下ろす傘は、赤、黄、緑というジョーカーの衣装と同じ色をしている。

●施設の治療でアーサーとリーが歌う「ゲット・ハッピー(Get Happy)」は、ジュディ・ガーランド主演のミュージカル映画『サマー・ストック』(1950)から。ガーランドは、本作以前から、体調と精神状態の不安定さから入退院を繰り返しており、本作撮影の後にMGMを解雇された。

●アーサーとリーがアーカムで観ていた映画は、フレッド・アステア主演のミュージカル映画『バンド・ワゴン』(1953)。2人は作中の曲「ザッツ・エンターテインメント(That’s Entertainment)」を歌って踊り、リーはアーサーの裁判初日でも歌う。同曲は「ズボンがずり落ちた道化師」という歌詞でスタートする。

●リーが歌う「今の私を見せたいわ(If My Friends Could See Me Now)」は、ボブ・フォッシー監督のミュージカル映画『スイート・チャリティ』(1968)から。その原作舞台は、フェデリコ・フェリーニ監督が純心な娼婦を描く名作映画『カリビアの夜』(1957)が下敷き。

●リーとアーサーが幸福な未来を夢見て歌う「Gonna Build a Mountain」は、日本未公開のフィリップ・サヴィル監督のミュージカル映画『地球を止めろ 俺は降りたい』 (1966)から。主人公は何か不満なことがあるたびに「世界を止めてくれ、俺は降りる」と叫ぶ。

●リーが歌う「The Joker is me」で始まる曲「The Joker」は、映画化されていないミュージカル舞台「The Roar of the Greasepaint - The Smell of the Crowd」(1964)から。舞台は、英国の上流階級の男と下層階級の男のゲームを描くもの。この曲はシャーリー・バッシーサミー・デイヴィスJr.がカバーしている。

●映画のエンドクレジットの最後に流れる、ホアキンが歌う「True Love Will Find You In The End」(1990)は、アーサーが歌っているという設定だろう。この曲のみ、制作年が突出して新しいことも印象的。この曲は多数のミュージシャンにカバーされている名曲だが、作曲・作詞は2019年に58歳で死去した米ミュージシャン、ダニエル・ジョンストン。彼が10代の頃から双極性障害に苦しんだこと、生涯一人の女性に片想いしていたと言われていることを、アーサーの生涯と思い合わせると、より感慨深い。

 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は、アーサーの運命から目が離せず、画面の端までは目が行きにくい。2回目以降は、映画の細部に隠れているさまざまな要素に目を向けると、より深く楽しめそうだ。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は全国公開中

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