「さよならのつづき」何が面白い?惹きつけられる魅力とは
有村架純、坂口健太郎主演のNetflixシリーズ「さよならのつづき」が11月14日の配信スタート以来、高い人気を集めている。「今日のTV番組TOP10」で1位を続けているほか、Netflix週間グローバルトップ10(テレビ・非英語部門、11月11日~17日)でも初登場9位という好成績を収め、日本のみならず世界からも注目されている。何が視聴者を惹きつけているのか。本作の魅力を考えてみたい(※一部ストーリーについて触れる部分があります)。(文:大山くまお)
「記憶転移」を題材にしたストーリー
「さよならのつづき」は、臓器移植の際に起こる“記憶転移”を題材にした愛の物語だ。医学的なエビデンスはないが、こうした記録は世界のあちこちに残っている。
さえ子(有村)はプロポーズされたその日に、最愛の恋人・雄介(生田斗真)を交通事故で亡くしてしまう。傷心から立ち直ろうとしていたさえ子の前に現れたのは、大学職員の成瀬(坂口)だった。心臓に持病のあった成瀬は、雄介の心臓を移植されて一命をとりとめていたのだ。
見た目も性格もまるで違うはずなのに、どこか雄介と重なる部分のある成瀬にさえ子は惹かれていき、成瀬もまたさえ子に心奪われる。成瀬に心臓を移植した際、雄介の記憶も一緒に引き継いでいたのだ。さえ子は成瀬に雄介の心臓が移植されていることを知り、さらに思いが募る。一方、変化が起こりつつある成瀬を、妻のミキ(中村ゆり)が複雑な眼差しで見つめていた。それでも、2人は逢瀬を重ねていくーー。
キャスティングの絶妙さ
主人公のさえ子は、傷ついた人を笑顔にする最高に美味しいコーヒーを世界に広めようと働く女性。バリバリ仕事をしてハイブランドの洋服をさらっと着こなすしっかり者だけど恋愛は不器用で、キュートな笑顔を振りまいているのに心には大きな喪失感を抱えていて、それでいて自分の気持ちに誠実でいようとする。そんなさえ子を有村が好演している。何か意を決したとき、無表情でスタスタと歩く姿が印象的だ。
坂口が演じるのは、体が弱くて内向的でさまざまなことを諦めてきた男、成瀬。内向的だった成瀬が、心臓移植によって変化するものの、さえ子への好意が自分の気持ちなのか他人の記憶なのか戸惑う姿を繊細に表現していた。「人の心を柔らかくする柔軟剤になるのが夢」と満面の笑顔で話し、おおらかで人を惹きつける太陽のような雄介は、生田が生き生きと演じている。
3人に加えて、光っていたのが成瀬の妻・ミキを演じた中村の存在感だ。ひたむきに夫を愛し、支え続けてきたからこそ、心臓移植にともなう夫の変化に戸惑ってしまう。彼を不安そうに見つめる眼差しが、作品に現実感と複雑さをもたらしていた。物語が進むにつれ、視聴者はミキと夫・成瀬の関係、そしてミキとさえ子の関係の行く末を緊張感とともに見守ることになる。
さえ子の年の離れた友人のようなハワイのコーヒー農園主を演じた三浦友和、雄介の親友・健吾を演じた奥野瑛太もそれぞれ重要な役割を担っていた。ミキの母親役の宮崎美子も、出番は少ないながら大切な言葉を発している。
脚本家・岡田惠和が紡ぐ言葉
脚本はヒューマンドラマの名手・岡田惠和によるもの。有村と岡田は朝ドラ「ひよっこ」をはじめ、多くの作品でタッグを組んできた。お互いの良さがわかっているからこそ生まれる信頼感が作品からにじみ出ている。
何度も組んだからこそ、違うものを描きたいと考えた岡田は、これまでにあまり描いたことのない役柄として、自分の気持ちをはっきりと口にして行動するさえ子という人物を生み出した。有村は坂口とともにプロット段階から意見を出し、現場でもアイデアを加えて、自分でも納得のいく役柄を作り上げていったという。
紡がれたセリフも印象的なものが多い。さえ子の言葉はいつも潔いし、成瀬の言葉はいつもどこか儚げで、雄介の言葉はいつも相手を肯定する力に満ちている。
「さえ子が生まれてきたことで、世界は明るくなってるんだよ。幸せにしてるんだよ、世界を。ありがとう。生まれてきてくれて、ありがとう」。これは雄介がさえ子に送った言葉。誕生日にこんなことを言われたら、誰だって泣いてしまうんじゃないだろうか。
滋味深いセリフや人生の本質を捉えたセリフも多い。「自分で選ぶものじゃないですか、運命って。生きてるってことは、常に何かを選択しているんだと思うわけです。ずっと選択の繰り返し。そしてすべての未来はその選択の先にある」。さえ子のこのセリフは、過酷な運命に翻弄されるだけではなく、自分の人生を選び取っていこうとする人の力に溢れている。
美しい景色と美しい記憶
本作のもう一つの主役と言えるのが、ドローンを駆使して撮影された風景だ。舞台となった北海道・小樽の四季や峠から見える絶景、ハワイの抜けるような青空や鮮やかな緑のコーヒー農園などが画面いっぱいに映し出される(ハワイの場面の多くはニュージーランドで撮影されたのだそう)。物語は決して急がず、運命に翻弄される人たちを美しい景色が優しく包み込むように、ゆっくりと進む。
北海道やハワイの景色が美しいように、誰かを愛した記憶、誰かが愛してくれた記憶はいつまでも美しいままだ。傷つき、悲しみ、落ち込んだ末、いつまでもこうしちゃいられないと、よろよろと立ち上がって前に進もうとする人たちを、景色と同じように優しく見守ってくれる。愛する人を失ったさえ子も、愛された記憶に支えられて新しい人生を歩もうとした。これは誰にでもあてはまること。人はいつか大切な人を失う。だけど、大切な人との記憶がその人を支えてくれる。
「さよならのつづき」は、ロマンチックだけどほろ苦くて、とても切ない物語だ。だけど、全8話を観終わったときには、心の奥に温かいものが灯っている。そんな作品になっている。
Netflixシリーズ「さよならのつづき」独占配信中