仮面夫婦 VS 契約夫婦!話題のミステリードラマ「その電話が鳴るとき」&「トランク」の魅力を徹底解剖
共に11月末にNetflixで配信がスタートした、夫婦がテーマのミステリードラマ「その電話が鳴るとき」と「トランク」。最新の週間グローバルトップ10(テレビ・非英語部門)では、揃って2位と3位につけるなど好調だ。一体、どこに引き付けられるのだろうか。2作まとめてその魅力を紹介しよう。(文・前田かおり)※本文には一部内容に触れる部分があります。
あらすじは?
「その電話が鳴るとき」は、政略結婚して3年目になる仮面夫婦に1本の脅迫電話がかかってきたことから始まる、人気ウェブ小説を原作にしたミステリーロマンス。「賢い医師生活」のユ・ヨンソクと、「キミと僕の警察学校」のチェ・スビンが夫婦を演じる。
次期大統領候補の一人息子で大統領報道官のペク・サオンには、話すことができない彼女は手話通訳士として働いている妻ホン・ヒジュがいるが、世間にはサオンの妻であることが隠されていた。ある日、ヒジュは拉致され、サオンのもとに脅迫電話がかかってくるが、不運なタイミングによりイタズラ電話とサオンは取り合わなかった。幸い、ヒジュは解放されたが、サオンの冷酷な言葉に衝撃を受けた彼女は、犯人が落としていったボイスチェンジャー付きの携帯電話を使い、犯人になりすますことに。その日からサオンに脅迫電話をかけるヒジュと、躍起になって犯人捜しを始めるサオン。そんな中、何者かがサオンのオフィスに爆弾を送りつけ、爆発事件が起こる……。
一方「トランク」は、湖畔に浮かび上がったトランクによって明かされる謎めいた結婚サービスと、そこで契約結婚をした男女の奇妙な同居生活を描くミステリーロマンス。人気小説家キム・リョリョンの同名小説を原作に、「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」や映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』などのコン・ユと、「なぜオ・スジェなのか」のソ・ヒョンジンが初共演し夫婦を演じる。
音楽プロデューサーのジョンウォンは、別れた妻・ソヨンへの未練が断ち切れず、ボロボロの生活を送っていた。だが、そんな彼の前に、ソヨンが申し込んだ1年間の期間限定の妻としてインジが現れる。インジは契約結婚をマッチングする会社のVIP対応スタッフで、今回が5回目の結婚。渋々同居生活を始めるも、自分のペースで家事をこなし、家でくつろぐインジに苛立つジョンウォンだったが、彼女にケガをさせたことをきっかけに少しずつ距離を縮めていく。だが、そんな2人の前に、インジを執拗に付け回すオム・テソンという男が現れる。
コミュニケーション皆無の仮面夫婦 VS 期限付きの契約夫婦
大統領報道官のエリートと優秀な手話通訳士、共にコミュニケーションが大事な仕事をしながら、政略結婚のため、2人の間にはほとんど会話がないという仮面夫婦が中心に描かれる「その電話が鳴るとき」。夫の本当の結婚相手は妻の姉だったが、挙式直前に失踪したことから身代わりに結婚した。それだけに、序盤に描かれる挙式シーンでは、夫の妻に対する態度が身震いするほどに冷たい。
そんな夫サオンを演じるユ・ヨンソクといえば、人気ドラマ「賢い医師生活」の小児科医アン・ジョンウォン役などいい人がハマり役。本作では柔和な雰囲気を完全に封印し、体を絞り、シャープで全身からスキのないデキる男オーラを体現している。そして、1本の脅迫電話によって自分の人生をかき乱されていくのだ。自分以上に妻のことを知る犯人に激怒し、嫉妬もする。そうかと思えば、次第に彼女を気遣い、笑みを浮かべてみたり……。そう、本作ではヨンソクの究極の<ツンデレ男>っぷりが見ものなのだ。序盤のモラハラぶりが半端ないだけに、この先、どれだけヨンソクらしい大甘な夫へと変わっていくのか目が離せなくなる。
一方、妻ヒジュを演じるスビンは、表向きは口をきくことができないというキャラクターで感情を内に秘めながら、脅迫電話ではサオンに怒りをぶつけるという二面性を熱演。また、犯人に成りすましたことから引くに引けなくなった不器用さからはチャーミングさも覗かせる。2人の関係がどうラブモードに転じていくのか、今後の展開が楽しみだ。
片や「トランク」は、未練が断ち切れないゆえに元妻が申し込んだ1年間の契約結婚をするハメになった音楽プロデューサーのジョンウォンと、高額なギャラと引き換えに“妻業”をビジネスとして請け負うインジの奇妙な結婚生活。注目はやはりジョンウォンを演じるコン・ユだろう。
前妻に未練タラタラで、未だかつて見たことがないようなダメ男っぷりに加え、幼い頃からの大きなトラウマも抱え、孤独に苦しむ内面を痛々しいまでに表現。多くを語らなくても、些細な表情や眼差しに感情をのせる演技がさすがだ。
それに応えるヒョンジンは、淡々と契約妻の仕事をこなしながら、結婚できずに負った傷を契約結婚という形で復讐するという、複雑な感情を持つインジを好演。初共演という主演2人の相性もよく、互いの感情の繊細な駆け引きが作品のムードと見事にシンクロし、この先がどうなるのかと次々に見進めてしまう魅力を放っている。
ミステリーロマンスとしての面白さ
1本の脅迫電話がかかってきたことから、互いに知らなかった思いや真実に気づき、仮面夫婦から一転かけがえのない存在へと変化していく「その電話が鳴るとき」。今年大ヒットした「涙の女王」でも描かれたタイプの夫婦愛ロマンスだ。それをベースに、ミステリーやサスペンス、大統領選に絡んだ陰謀や家族の愛憎など、シリアス要素が盛り込まれ、さらにはちょっとしたコメディー要素も散りばめられ……と、あらゆるジャンルを網羅。第1話からテンポよく、とくに妻ヒジュが拉致されたシーンはスリリングだ。
犯人との電話での応酬は緊迫感あふれた展開であっという間に引き込まれ、没入感もたっぷり。早々に脅迫電話の主が明らかになるものの、電話とは別に爆破事件やさらなる拉致事件が発生し、サオンを狙う。ヒジュの大学の先輩で、精神科医にしてミステリー系のYouTuberのチ・サンウ(ホ・ナムジュン)が怪しげなムードを漂わせているのも、気になるところ。物語は全12話の中盤に突入。果たしてどんな結末が待っているのか年越しと共に楽しめそうだ。
対する「トランク」は、契約結婚で期限付きの夫婦になった男女を通して、愛や孤独、執着、欲望といった感情がミステリアスに描かれている。共に結婚で失敗したジョンウォンとインジ、2人に一体、何があったのか、過去と現在を行きつ戻りつしながら明かされる。特に、ジョンウォンと、元妻ソヨンとの複雑な関係。互いに異常な執着を見せるが、彼らの間の愛憎は強烈で、ソヨン演じるチョン・ユンナの凄みある演技に圧倒される。
また、インジをストーカーするオム・テソン(キム・ドンウォン)の不気味さがスリルを煽る。「誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる」や「Miss ナイト& Miss デイ」など、今年も大活躍の名バイプレーヤー、イ・ジョンウンが謎めいたキャラクターで登場するなど、演技巧者揃いで独特な世界観を作り上げる本作。ジョンウォンが住む家や、リビングの天井に飾られたシャンデリア、そしてタイトルでもある“トランク”などにもこだわりが見られ、音楽使いも実に凝っている。上質なミステリーの趣きで没入感はもちろん最高。全8話、ちょっと長めの映画を見る感覚で楽しめる作品だ。
Netflixシリーズ「その電話が鳴るとき」「トランク」は共に独占配信中