【完全ネタバレ】『クレイヴン・ザ・ハンター』徹底解説 コミックとの設定比較、イースターエッグ紹介
ソニー・ピクチャーズが製作するマーベル映画最新作『クレイヴン・ザ・ハンター』は、マーベルコミックの設定をかなり大胆にアレンジしたユニークな1作だ。原作コミックでの設定はどうなっているのか? アメコミ映画のお約束であるイースターエッグと合わせて解説する。(文・平沢薫)
※本記事はネタバレを含みます。映画『クレイヴン・ザ・ハンター』鑑賞後にお読みいただくことをおすすめします。
コミックの設定をかなりアレンジ
『クレイヴン・ザ・ハンター』は、いわゆるアメコミ風ではない、ギャング映画のようなダークで暴力的な世界観も魅力。その世界観を創造するため、キャラクターたちは、アメコミでの設定をかなりアレンジして描かれている。アメコミの設定と比べると、この映画のユニークさ、面白さがより見えてくる。
クレイヴン・ザ・ハンター
コミック初登場は「Amazing Spider-Man #15」(1964)の歴史あるキャラ。原作では、クレイヴンはロシアの貴族に生まれ、1917年にロシア革命が起きたために両親と共に亡命したという設定。そんな時代に生まれたのに高齢者に見えないのは、クレイヴンに長寿の能力があるからだ。この設定は、映画版のリアリズムには合わないだろう。映画では亡命貴族ではなく、ロシア出身の犯罪組織の首領の息子という設定。それにより、ギャング映画の雰囲気が加わった。
父親ニコライの死に方も、映画版のアレンジ。コミックでは、クレイヴンが家出した後、息子と再会することなく死去しているが、映画では息子との対立によって死に至る。映画では、父と息子の対立が大きな要素になり、ドラマチックに描かれる。
もっとも大きな違いは、クレイヴンの狩りの対象だろう。コミックではアフリカで動物狩りの名ハンターになるが、映画では彼の狩りの対象は、人間たち。人間の犯罪者の追跡の際に、獲物を追跡するハンターとしての能力が発揮される。動物を狩りの対象にしないのは、現代社会の価値観に合致したものだろう。
その一方で、コミックそっくりなシーンもある。それはラストでクレイヴンが、父に贈られたライオンの毛皮のついた衣服を身につけて椅子に座るシーン。「Amasing Spider-Man #636」(2010) の1シーンにそっくりだ。
カリプソ
コミック初登場はわりと新しく「Amazing Spider-Man #209」(1980)。コミックでは、ヴードゥー教の秘術の名手で、秘薬や蘇生術を使う。その秘薬でクレイヴンを蘇生させるのは、映画と同じだが、映画のカリプソは有名法律事務所で働く弁護士で、ヴードゥーの魔女なのはカリプソの祖母。秘薬はカリプソが祖母からもらったものだった。この設定変更も映画のリアルな世界観に合わせるためだろう。
カリプソは、サム・ライミ監督版の『スパイダーマン2』(2004)を下敷きにしたゲームに登場している。ゲーム版のビジュアルはコミックに近く、かなりヴードゥー教の魔女っぽい。今回の映画の外見は普通の女性で、まったく違う。また、このゲームには、クレイヴンとライノも登場していた。
ちなみに、原作のカリプソと同じブードゥー教の名手という設定で、見た目もコミックそっくり、役名もカリプソというキャラクターが登場するのが、ディズニー映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(2006)と『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』(2007)。同役を務めたナオミ・ハリスは、『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021)にカリプソそっくりの風貌で登場。演じたキャラはシュリークだが、映画のシュリークの姿はコミックとはまるで違うので、思わずカリプソが登場したのかと錯覚してしまう。
ライノ
コミック「Amazing Spider-Man #41」(1966)に初登場した古参キャラクター。原作のライノは、サイのような怪力自慢キャラで、元はロシアン・マフィアの下っ端。人体実験に参加して、サイのイメージで造られた頑丈な装甲スーツを手にいれる。最初は人工皮膚の移植によるスーツだが、それが破壊された後は着脱可能なスーツにもなった。
本作のライノは、コミックとは大違いの知的な犯罪者。変身も血清の注入というバイオテクノロジーにアップデート。変身時は苦痛を感じるというのも映画版のアレンジだ。
ライノはすでに、アンドリュー・ガーフィールド主演の『アメイジング・スパイダーマン2』(2014)で一度映像化されている。演じたのは『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(2023)、『サイドウェイ』(2004)のポール・ジアマッティ。元はすぐに捕まるような強盗犯で、変身後の姿は、金属製の装甲スーツを装着した初期のコミックに近いものだった。今回の映画に、あえて既出のライノを登場させて、まったく違う姿で描いているのは、本作の世界観のユニークさを際立たせるためかもしれない。
ザ・フォーリナー
ザ・フォリナーのコミック初登場は「Peter Parker, The Spectacular Spider-Man #115」(1986)で、今回のキャラの中ではもっとも新しい。凄腕の傭兵で、過去が不明という設定はコミックと同じ。異なるのは、彼が使う技の説明の有無だ。映画では彼の技が何なのか説明されないが、コミックでは、超常的パワーではなく、彼と目が合った相手を10秒間、催眠状態にすることができる特殊な催眠術という説明がある。彼はこの技により、相手に気づかれないうちに急接近して敵を倒す。今回の映画で説明がないのは、リアリズム優先のためだろう。
カメレオン
コミックでは、なんとスパイダーマンの最初のコミック「Amazing Spider-Man #1」(1962)に登場する最初の敵。クレイヴンの異母弟であることはコミックでも同じだが、後付け設定だ。
このキャラクターの設定はほぼコミック通り。普通の人間だった時からモノマネが得意という設定も同じで、映画でも、兄に父親のマネをして見せたり、クラブで歌を歌う時に、ハリー・スタイルズやトニー・ベネットの歌い方のマネをしている。またコミックでは、最初は変装の名人だったが、後にバイオテクノロジーによって自由に変貌できるようになるので、そこも映画と同じだ。
しかし、コミックと違うのは外見。コミックでは真っ白なのっべらぼうのような顔をしているが、映画版では普通の人間の顔をしている。ただし、映画でもコミックと同じ顔になる瞬間がある。彼が、ある顔から別の顔に変身するとき、途中で一瞬、コミックと同じ真っ白な顔になっている。
ところで、カメレオンもすでにソニーの『スパイダーマン』ユニバースに登場済みかもしれない。カメレオンの本名ディミトリは、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019))で、ニック・フューリーの部下として働いている男の名前と同じ。演じているのはドラマ「HOMELAND」のトルコ出身俳優ヌーマン・アチャル。変身するシーンはないが、当時ファンの間ではカメレオンではないかという噂が流れ、それについて問われた監督のジョン・ワッツは「それについては何も言えない」と答えている。
本編に散りばめられたイースターエッグ
アメコミ映画に欠かせないのが、コミックやこれまでの映画関連のイースターエッグ。この映画にもやっぱり詰まっている。
まず、気になる名前がマイルズ・ウォレン。セリフの中に登場するだけだが、ライノが、彼の手術をしてくれたニューヨークに住んでいる医師としてその名前を明かす。クレイヴンの弟ディミトリがカメレオンになる手術をしたと言う“ニューヨークに住む医師”もおそらく同一人物だろう。コミックのマイルズ・ウォレンは、ピーター・パーカーの生化学の教授として「Amazing Spider-Man #31」(1965)に初登場。後に「Amazing Spider-Man #129」(1973)で、遺伝子実験によりヴィランのジャッカルに変貌し、スパイダーマンのクローンを製造することになった。
また、冒頭で監獄に収監されるクレイヴンの囚人番号は「0864」。これは、彼が初登場したコミック「Amazing Spider-Man #15.」の発行日が1964年8月だったことを踏まえた数字だ。
さらに、スパイダーマンことピーター・パーカーが働いていた新聞社「デイリー・ビューグル」も登場。カリプソがクレイヴンの過去を調べるとき、パソコン画面にオンライン版が映っている。
また、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を連想させる小ネタもある。クレイヴンの故郷が、実在する地名ロシア・ヴォルゴグラードなのはコミックと同じだが、この土地はコミックでもMCUでも、ブラック・ウィドウの出身地である。
そして気になるのは、フォリナーに薬物を注入されたクレイヴンが、無数のクモが動き回る幻影に苦しめられること。ここにあえてクモを登場させたのは、彼が後にスパイダーマンと出会うことを示唆するためなのではないだろうか。ソニーの『スパイダーマン』シリーズが終了するという報道もある中、はたしてクレイヴンは、スパイダーマンと遭遇することになるのだろうか。クレイヴンの今後に注目したい。
『クレイヴン・ザ・ハンター』は全国公開中
MARVEL and all related character names: (C) & TM 2024 MARVEL