黒澤明賞を受賞した、ナイトの称号を持つ名プロデューサー
第20回東京国際映画祭
27日、東京国際映画祭開催中の渋谷Bunkamuraで、黒澤明賞の受賞記者会見が行なわれ、今年この賞を受賞したイギリス人の名プロデューサー、デヴィッド・パットナム男爵が受賞の喜びを語った。
『炎のランナー』『キリング・フィールド』など数々の名作を送り出し、英国でも95年にナイトの爵位を授与され、97年には上院議員に任命、現在は英国ユニセフ協会会長を務めるデヴィッド・パットナム男爵。「私が若いころ、映画学校に通っていたのですが、そのとき黒澤明という名前を聞くだけでドキドキするほどの人だったんです」と黒澤明監督との思い出をたっぷり語ってくれた。
実は、黒澤明監督にはたった一度だけ会ったことがあるという。それはデヴィッド・パットナムが審査委員長を務めた第1回東京国際映画祭のゼネラルプロデューサーだった石田氏の葬儀でのことだった。
「家族の方へあいさつするために別室に待機していたときに、黒澤監督と偶然ご一緒したのです。私は日本語を20語くらいしか話せず、黒澤さんはハロー、グッドバイしかお話にならないのでほとんど会話はありませんでした。とにかく背の高い人で驚きました。サインをもらおうと思ったのですが、私はあいにくノートなどを何も持っておらず、白いハンカチをもっていたのでそれを出しましたが、ペンがなくて、ちょうどそこを歩いていた女性に口紅をもらってハンカチにサインをしてもらったのです。黒澤さんは絵も描いてくださいました」と、当時のエピソードを語った。今でのそのハンカチを宝物として持っているそうだ。
現在の映画産業に対しては「映画には未来の世界をになう若い人たちの役に立ち、良い方向に導くような素晴らしい倫理の方向性を示唆する力があると思う。しかし残念ながら今の若い人たちに、それを示すような映画は作られていないのではないか、と非常に心配している」と厳しい意見を述べ、「今の若い世代が、次の世代へ勇気、知性、強さを与えるような作品がこれから作られるように本当に強く願います」とうったえた。
黒澤明賞は、世界的巨匠黒澤明監督の業績を長く後世に伝え、豊かな日本文化の再創造への象徴として、広く日本の文化、および国の姿勢を世界へアピールすることを目的として、2004年に創設された賞。授賞式はクロージング・セレモニーの中で行なわれる。
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