『るろ剣』大友啓史監督、原作ファンが求めるものを映画にするためには?
和月伸宏の人気コミックを実写化した映画『るろうに剣心』の大友啓史監督が、人気のある原作だからこそ苦労したという制作の裏側を明かした。「原作ファンが喜ぶ魅力的なキャラクターはできるだけ映画に登場させたい。でも、ある程度の人数がいる。そうすると、どうしても映画の脚本文法から離れていってしまう」と漏らした大友監督にとってキーとなったのは、いかに原作ファンの期待に沿う形で映画作品として成立させるかだったという。
剣心やヒロインの薫のほか、相楽左之助、高荷恵、明神弥彦、斎藤一、武田観柳、鵜堂刃衛、山県有朋……連載終了から10年以上が経過した本作が現在でも人気を博している理由の一つに魅力的なキャラクターの存在を挙げた大友監督は「普通にいうと、2時間の映画でこんなにメインキャラクターは出せない」ときっぱり。だが、一本の映画として満足のいく出来栄えであることはもちろん、『るろ剣』の実写化というファンの期待に応えないといけない。そうした原作ものに付きまとうジレンマを解決したのは、キャストの力が大きかったと明かした。
例えば、武田観柳を演じた香川照之。「香川さんならキャラクターの魅力や背景を、脚本以上に引き出してくれる。普通なら、脚本にもう少し描き込まないといけないんですけど」とキャスト陣に信頼を寄せる大友監督は、脚本段階から生身の人間が演じるということを常に念頭に置いていたと強調する。その一つが、佐藤健ふんする剣心の口ぐせである「おろ?」「~ござる」というセリフだ。「原作がマンガなので、セリフを生身の人間が口にしたときにそのままセリフになるのかっていう問題があるんです。『おろ』『~ござる』なんて普通は言いませんからね」と笑いながらも「健くんならさらっとやってくれる」と確信したといい、事実、完成した映画でもそれらのセリフは観客を作品の世界に引き込む重要な役割を果たしている。
衣装をはじめとするキャラクターの外見についてもコスプレだと思われないレベルまで引き上げ、アクションも毎回ハードルを高くしながらも、それでいてクライマックスの対決が最も盛り上がるように、入念に準備と調整を重ねた。そうした本作の撮影期間は、近年の邦画では破格ともいえる4か月。「どうしても、それくらいかかってしまう題材なんですよ」と大友監督が言う通り、生半可な気持ちでは実写化できない原作だったということだろう。
アメリカに留学していたころに言語の壁を感じたという大友監督にとって、言葉に頼らずとも魅力を伝えられるアクション作品を手掛けるのは、かねてからの夢だ。さらに演出を手掛けた大河ドラマ「龍馬伝」と時代的なつながりもあり、NHK退局後第1作がマンガ原作の本作でも戸惑いはないという。
「明治って新しい時代ですけど、その裏で戸惑っている人がいっぱいいたわけです。その戸惑いが、原作では剣心の『おろ』っていう言葉で表現されているように思いますね。僕は、この作品を新しい時代にうまくなじめない人たちが、不器用に一生懸命に生きている物語というふうにとらえたんです。そして、その気分は時代を超えて伝わっていくと思いますね」と語る大友監督は、人気マンガ待望の実写化ということで大きな期待を背負いつつも、見事な作品を作り上げた。本作を観た人ならば誰もが望むであろう続編についても、きっと期待に応えてくれるに違いない。(編集部・福田麗)
映画『るろうに剣心』は8月25日より全国公開