カンバーバッチ、アカデミー賞受賞作で演じたヘタレの悪人とは!?
第86回アカデミー賞で作品賞、脚色賞、助演女優賞の3部門を受賞した映画『それでも夜は明ける』で、スティーヴ・マックィーン監督が「最悪の男」と断言するフォードを演じたベネディクト・カンバーバッチの演技に注目してみた。
ベネディクト・カンバーバッチといえば、テレビドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」で大ブレイクし、スティーヴン・スピルバーグ監督の『戦火の馬』や『スター・トレック イントゥ・ダークネス』など注目作への出演が相次ぐ人気スター。そのルックスからか病弱だったり、問題を抱えた知識人といった役どころを演じることが多い。
今回、映画『それでも夜は明ける』で演じたフォードは主人公ソロモン(キウェテル・イジョフォー)の最初の奴隷主。一見紳士的で、奴隷たちを虐待するわけでもなく、ひどい主人とはほど遠い人物に思える役柄だ。悪徳奴隷商人から奴隷たちを買い取る際に、子どもたちと離れ離れになるのを嘆き悲しむ母親奴隷に同情したりと、ソロモンを自分の借金のかたとして悪名高き奴隷主エップス(マイケル・ファスベンダー)に売り渡すまでは、ひたすらに「善人」として演じられている。だが、しょせんは奴隷を買う側の人間。劇的に悪人へと変貌するわけではないが、自分の生活のため、それまでの紳士的な姿から一転、情けない姿をあらわにし、ソロモンが自由黒人であると知っていながら、見て見ぬフリで売り渡してしまうのである。
奴隷たちを虫けら同然に扱う、誰が見てもわかりやすい「悪人」の奴隷主エップスを怪演し、助演男優賞にノミネートされたマイケル・ファスベンダーの演技は実に不愉快で鮮烈な印象を残す。だが一方で、フォードのような「善人」の仮面をかぶった「悪人」こそ、人間の弱さをリアルに描き出したキャラクターであり、カンバーバッチが演じたヘタレっぷりは彼を一癖ある「悪人」と印象付けることに成功しており、その演技力の幅広さを見せつけた。(文・平野敦子)
映画『それでも夜は明ける』は全国公開中