詩人・谷川俊太郎、市川崑監督『東京オリンピック』は目が開かれる体験だったと述懐
詩人・谷川俊太郎を追ったドキュメンタリー映画『谷川さん、詩をひとつ作ってください。』のトークショー付き先行上映会が4日、都内で行われ、谷川とメガホンを取った杉本信昭監督が出席し、本作に対する感想や、谷川が生み出す詩の世界、詩作の転機となった映画との出会いについて熱く語り合った。
本作は、東日本大震災について書いた詩「言葉」を発表した谷川が、さまざまな土地で暮らす人々の心の中に潜む喜びや悲しみから、新たな詩を生み出すまでを描いたドキュメンタリー。福島の女子高校生、大阪の日雇い労働者、東京の有機農家など、それぞれが置かれた環境や胸に秘めた思いを、谷川は自由で柔らかい発想で詩に表現していく。
上映後、作品の感想を聞かれた谷川は、「泥だらけの有機野菜みたいな映画だね。どこか野性的なところがある。きちんと完成していないところがいい」と独特の表現で称賛。これに対して杉本監督は、「映画の中でしか結び付けないバラバラな人々を、谷川さんの詩が結び付けている」と感心すると、谷川は、「もちろん映像の力もありますが、母語が日本語なら結び付くんですね」と迷いなく回答した。
さらに、劇中で出演者が詩を朗読するシーンについて谷川は、「日本語を読んでくれれば成り立つのが詩。そこが芝居のセリフと違うところ。感情を下手に入れると詩がセリフになってしまう、むしろ棒読みのほうがいいんです。映画の中で普通に読んでいたのがとても良かったね」と振り返り、「詩は言葉が表現しているのであって、自己表現ではない」と改めて詩に対する自身の考えを強調した。
また、脚本家としても活動している谷川は、昔から映画と深い関わりがあったという。「その一番大きな作品が『東京オリンピック』。市川崑監督に誘われて脚本家として参加したのですが、とても勉強になった。目が開かれましたね」と述懐。「(製作に入った時期は)まだオリンピックが始まっていないわけだから、全く体験したことのないことを想像で書くわけです。『~であろうか』『~かもしれない』といった文体がとても新鮮だった」と目を輝かせ、同作が自身の大きな転機になったことを明かした。(取材:坂田正樹)
映画『谷川さん、詩をひとつ作ってください。』は11月15日より渋谷ユーロスペースほか全国公開