なぜ、ラジー賞?その傾向と楽しみ方
第87回アカデミー賞
ハリウッド映画界のビッグな祭典、アカデミー賞授賞式が間近に迫ってきたが、映画ファンが注目するもうひとつの米映画賞の発表も刻一刻と近づいている。ゴールデンラズベリー賞通称“ラジー賞”。その年もっともヒドかった映画を選出して、その栄誉を讃える(?)イベント。今年もアカデミー賞授賞式の前日、現地時間の2月21日に授賞式が開催される。今回は人気SFアクションシリーズの新作『トランスフォーマー/ロストエイジ』が最多7部門でノミネートを果たしてしまったことが話題の中心。日本でも大ヒットした作品だから、“えっ、面白かったじゃん!?”と動揺する方もいるだろうが、まあ落ち着いて。ここでは、どんな映画がラジー賞に好まれるのかを考えてみよう。(文・相馬学)
まずはラジー賞の選考について、おさらいを。アカデミー賞が米映画アカデミーの会員によって選ばれるのと同様に、ラジー賞もゴールデンラズベリー財団なる怪しげな組織の会員によって選ばれる。映画人からなるアカデミー会員とは異なり、こちらには少額の会費を払って参加した一般の映画ファンも多数、存在する。ひと口に“映画ファン”と言っても度合いはさまざまだが、わざわざお金を払ってサイテーな映画に一票を投じようとするくらいだから、ある程度の本数を見ている、ある程度“目の肥えた”映画ファンであることは間違いない。そんなファンに最低映画の烙印を押されるのは、どんな作品か?
第一に莫大な製作費が費やされた、鳴り物入りの超大作。巨額の予算を投じて話題にはなっているものの、それに見合う面白さだったのか? そんな疑問が生じた場合、ラジー賞の候補となるケースは多い。新作が公開される度にラジー賞候補となる『トランスフォーマー』シリーズは、まさにその典型。ハリウッドでは1憶ドル(約120億円)の製作費を投じると大作と見なされるが、『トランスフォーマー』は1作目の製作に1億5,000万ドル(約180億円)を費やし、以降は2億ドル(約240億円)前後の予算を注ぎ込んでいるのだから、相当に贅沢なシリーズと言える。ちなみに今年ノミネートされた最新作『ロストエイジ』はシリーズ最高額の2億1,000万ドル(約252億円)が投入された。これは2014年に全米公開された作品では文句なしにトップクラス。しかし面白さや質の高さがそれに比例したかというと必ずしもそうではなく、映画ファンにはストーリー上のツッコミどころが多々目についてしまうようだ。シリーズ全作の演出を手がけてきたマイケル・ベイは泣く子も黙るヒットメーカーだが、『パール・ハーバー』等で、このシリーズ以前からラジー賞に愛されてしまっている。巨額の製作費が浪費と思われても仕方がない面もあるのだ。(1ドル120円計算)
もうひとつ、ラジー賞には大きな傾向がある。それは、くだらない笑いが大々的に盛り込まれたナンセンスコメディー。全米で観客を呼べるコメディー・スターとして認められているアダム・サンドラーがラジーでは冷遇(厚遇?)され続けているのは、その表われと言える。今年のノミネート作品でこのパターンに該当するのは、『荒野はつらいよ ~アリゾナより愛をこめて~』。監督のセス・マクファーレンは前作『テッド』で大ヒットを飛ばし、観客にも熱狂的に迎えられたが、今回はその反動がモロに出た格好となった。さらに、露骨すぎるファミリー層狙いの作品もラジー賞ではポイントを稼ぐ傾向にある。子ども騙しは若年層には有効でも、大人の観客は騙されない。そんな作品に、ラジー賞の会員は敏感に反応する。今年の候補作では『カーク・キャメロンズ・セイビング・クリスマス(原題) / Kirk Cameron's Saving Christmas』が、このパターンに当てはまる。
ラジー賞の傾向についてざっくりと振り返ったが、忘れてはいけないのがこの賞そのものがジョークであること。そもそもヒドい映画の基準は人それぞれだし、本気でサイテー映画を選ぶことは映画ファンとしても精神衛生上よろしくない。何よりファンが主体となる以上、楽しくなければいけない。そこにユーモア精神が宿っているのは、ハル・ベリーやサンドラ・ブロックといったジョークを理解する映画人が授賞式に足を運び、トロフィーを受け取っていることからも明らかだ。『トランスフォーマー』シリーズのファンも、もちろん映画ファンも、笑って楽しむのが正しい。