『野火』塚本晋也監督、今でも手を挙げてくれる映画館が…上映続き感謝
第28回東京国際映画祭
塚本晋也監督が27日、新宿ピカデリーで行われた第28回東京国際映画祭「Japan Now」部門作品『野火』のティーチインイベントに出席、1959年に制作され、高い評価を受ける市川崑監督版『野火』に対する思いを語った。
第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島を舞台に、暑さと飢餓のために極限状態に追い込まれた日本兵の姿を描き出した大岡昇平の同名小説を映画化した本作。この日のイベントでは、観客から塚本監督に向け、「市川崑監督の『野火』をどう思うか?」という質問が寄せられた。
それに対して塚本監督は「僕は市川崑監督の映画が大好きで多大なる影響を受けている。8ミリ時代にも山上たつひこ原作の『光る風』という、市川崑監督の『野火』に露骨に影響を受けた作品を作ったことがあるくらい」と切り出すと、「しかし、市川崑監督の『野火』は日本で撮影されていたため、自然の風景というよりは人間のありようについて描いた作品だった。僕が撮りたかった『野火』は、美しい大自然の中で人間はどうしてこんなにもおかしなことをやってしまうのか、というもの。出発点が違っていたため、名作があったとしても、『野火』の映画化をやめようとは思わなかったですね」と振り返る。
さらに観客からは「敵の描写がなく、主人公自身の見ている視点が錯乱していくさまが、まるでクリント・イーストウッド監督の『アメリカン・スナイパー』のようだった」という意見も。それに対して「闇の中から、突然に弾が飛んでくるというように、この映画は主人公の主観で描きたかったので、最初から敵は映さないようにしようと決めていた」と語った塚本監督。続けて「僕も『アメリカン・スナイパー』を観ましたが、やっぱりイーストウッドってすごいなと思いました。あれはいろんなとらえ方がされていて、カッコいいという人もいれば、戦争の批判だという人もいた。僕自身はヒーローを描いているふりをして、とことん破綻している人を描いている映画だと思いました。本当にすごい監督だなと思います」と付け加えた。
7月25日に劇場公開された本作は、現在も全国で順次公開中だ。「今でも上映したいと手を挙げてくれる映画館があって。60館以上で上映されました。この後はオーストラリアやフランスの映画祭でも上映が予定されています」と語る塚本監督に、会場からは大きな拍手が寄せられた。(取材・文:壬生智裕)
第28回東京国際映画祭は31日まで六本木ヒルズ、新宿バルト9、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ新宿ほかにて開催中