Netflix「火花」が海外でヒットした地盤 リコメンドの強み
Netflixが製作したオリジナルドラマ「火花」の視聴者の約半数は、日本以外の国からの視聴だという。6月に行われたNetflix特別プレゼンテーションでは、出演者の好井まさお(井下好井)が海外の人からTwitterで感想をもらったと興奮気味に話したり、コンテンツ部門最高責任者のテッド・サランドスが、漫才という日本独自のコメディー形式が海外の人の興味を引き、若者が夢を追いかけるという普遍的なテーマが共感を呼んだのだろうと分析したりと海外人気をひしひしと感じている様子を見せていた。しかし、この人気を築いた基盤にはNetflixの強みであるリコメンド機能があることを忘れてはいけない。
Netflixの日本法人代表取締役社長のグレッグ・ピーターズらによると、特に「火花」は海外向けとして作った……わけではないとのこと。配信が190か国に広がったことによって、海外の人に観てもらえるチャンスは増えているが、やはり各国それぞれ自国の人々に評価してもらうことを何よりも優先しているという。
ただ今回の「火花」は、「アンダーウェア」「TERRACE HOUSE BOYS & GIRLS IN THE CITY」のような共同製作作品を中心としてきたこれまでのNetflixの日本オリジナル作品とは異なる点がある。それは、はじめからNetflixが製作に関わり、4K画質で190か国世界同時一斉全話配信ができた初めの作品だということだ。彼らがグローバルで掲げているような形で送り出せる、最初の作品ということで特に気合が入っていたことは事実だという。そして「火花」では、廣木隆一監督ら第一線で劇場映画を撮っている監督たちが集められ、Netflixならではの一本の映画として見られるような全10話のドラマとして作り上げられた。
だが作品の質がいかに高くとも、観るきっかけがなくてはなかなか視聴へはつながりにくいはず。やはり日本のように海外でも宣伝したのだろうか? Netflixのグレッグ日本代表らによると、残念ながらそうではないよう。ではどうやって? 実は、「火花」が配信される1週間前から海外を含めたユーザーが見るNetflixの画面上で、おすすめ作品として表示していったのだそう。しかしユーザー全員ということではなく、視聴データから「火花」が好きそうなユーザーを割り出して、じわじわと作品を薦めていった。Netflixは、このユーザーに合わせたおすすめ作品を紹介する「リコメンド機能」を強みとしており、会員全体の視聴時間の7割強がリコメンド機能で表示された作品を観ている時間だとされている。まさしく自社コンテンツの強みが、「火花」の海外ヒットを生んだのだ。「火花」の視聴時間も止まらずに増えているというデータがあるという。いかに作品と相性の良いユーザーとマッチさせているかがうかがえる。
しかしこのリコメンド機能によって、Netflixはある点を意識することを迫られた。それは、リコメンド機能で5年前や10年前のオリジナル作品がオススメされる可能性があるという点だ。だからこそNetflixは、画質を4KやHDRなど最先端のものにし、かつクリエイターたちの自由を利かせられる現場を作り作品の質の向上に努めているのだという。Netflixには、古くなるものを古く感じてほしくないという基本姿勢があるのだそう。今はまだ4Kテレビを持っている人が少なくとも、5年後の東京オリンピックの後には新しいテレビを買っている人がいるかもしれない。常に先を見据えているからこそNetflixの判断力は鈍らない。(編集部・井本早紀)