寅さん没後20年 山田洋次、倍賞千恵子らが偲ぶ
『男はつらいよ』の寅さん役で知られる渥美清さんが1996年8月4日に亡くなってから20回目の命日となる4日、東銀座の東劇で『男はつらいよ』フィルム上映会が行われ、さくら役の倍賞千恵子、さくらの夫・博役の前田吟、源公役の佐藤蛾次郎、そして山田洋次監督が来場して故人を偲んだ。
1969年8月にシリーズ第1作が上映されてから半世紀という節目の年を迎える2019年に向けて配給元の松竹ではさまざまな取り組みを行う予定だが、この日はその立ち上げイベント。当時のスタッフ、舞台となった柴又の人たち、そして一般客を招待し、フィルム上映イベントが実施された。劇場内には、歴代シリーズのポスター、台本、歴代マドンナ紹介コーナーなどが掲示され、劇場内の売店も「くるまや」仕様に変更。寅さんが愛した柴又・高木屋老舗の草団子を販売するなど、ファン垂涎(すいぜん)の上映会となった。
イベントでは松竹の新入社員からの質問コーナーも実施。その中に「寅さんが歴代マドンナとうまくいかなかったのは妹さくらの存在があったからではないか」と指摘された倍賞は「お兄ちゃんが旅に出る時にとらやの2階で『お兄ちゃん、行っちゃうの?』と尋ねるシーンがあって。その時は不思議な感情で撮影に挑みましたね。兄妹が別れるだけじゃないプラスアルファの感情があった」と述懐。山田監督も「あそこはほとんどラブシーンだよね」とうなずいた。
さらに「そういう気持ちになったので、わたし個人としては、ああいう男の人に結婚を申し込まれたら『ハイ』と言ってしまう。(そういう思いがあったから)ラブシーンに見えたのかもしれないですね」と告白する倍賞に、山田監督は「兄貴と妹は異性でありながら、体の関係はなしで触れあい、終わりがない関係だからいつまでも愛し合える。不思議な関係ですよね。そういう意味では寅さんとさくらの永遠のラブロマンスだったのかもしれませんね」としみじみ語った。
そんな言葉にふと思い出したように倍賞が、「そういえばケンカの後のシーンで(前田)吟ちゃんが、『(寅さんが)一番大事なのはさくらだからな』とポロッと言ったのを覚えている」と続けると、前田も「僕も(映画鑑賞後に)映画館から出てきた時に(寅とさくらに)何度か嫉妬したことがありますよ」と告白。思わぬ新解釈の数々に、会場に集まった寅さんファンは熱心に耳を傾けていた。(取材・文:壬生智裕)