塚本晋也『野火』の冒険は終わらない…戦争の記憶を伝え続ける決意
『鉄男 TETSUO』『KOTOKO』などの塚本晋也監督が、二十数年の構想を経て映画化を実現した『野火』の制作から上映までの全過程を記録した書籍「塚本晋也『野火』全記録」(洋泉社)の刊行記念イベントが27日、東京・高円寺の文禄堂書店で行われ、塚本監督が思いを語った。この日は塚本監督のほか、書籍に携わった編集の嶋津喜之氏と映画専門雑誌「映画秘宝」編集長の岩田和明氏も出席した。
塚本監督が製作・監督・主演・編集・脚本・撮影を兼任し、第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島で極限状態に追い込まれた日本兵の姿を通して、戦争の恐ろしさを克明に描き出す本作。本書は、その制作から自主配給、監督が自ら全国の映画館をまわった行程が、嶋津氏の徹底したリサーチやインタビューなどに基づいて克明に記録されている。
本書について塚本監督は「具体的にこういう映画館でかけてもらえるとか、こうやって映画祭に出さなくてはいけないとか、映画を作った後のことについてもかなり書かれていて、これから映画を作ろうという人にとっても参考になる」と称賛。また岩田氏は「『野火』は制作から全国行脚まで固有の道をたどっていて、その過程を記録するだけでも面白い。塚本監督が戦争の記憶を伝えるというコンセプトで本作を作ったように、この映画の作り方、見せ方を、映画人として後の世代につまびらかにしなくてはいけないという使命感で作っていました」と語る。
イベントでは、実際の絵コンテや埼玉・沖縄・フィリピン・ハワイで行った撮影のメイキング、全国行脚を敢行した個性豊かな映画館の写真を披露しながら、塚本監督が『野火』にまつわる裏話を披露。「書籍の表紙はスケッチーズというアプリを使ってiPadで書いた」「死体の人形はボランティアスタッフで昔の日本兵そっくりの人とやせている人の二人から型をとった」「メイクは自分で、(出演者の)リリー・フランキーさんも中村達也さんも基本的に同じ。中村さんは顔を真っ黒にしちゃって、暗い画面の中で歯が真っ白だった」などジョークを交えた貴重な裏話の数々に、客席からは驚嘆と笑い声がもれた。
戦後70年となる昨年公開を迎えた『野火』は、71年となる今年も上映を継続。現在も映画館行脚を続ける塚本監督は、「全体を通して、去年1年を冒険物のように書いた本ですが、その1年は、戦後70年で『野火』を公開した年でもあり、10年前にインタビューをした戦争体験者の方々がほとんど亡くなられてしまったりという、自分にとって大事なきっかけの年でもあった。激動でした。その1年と『野火』の旅がシンクロしている」と心境を明かす。
そして、戦争体験を語れる人々がいなくなっていく中、「戦争のことを伝えるっていうのは、今後も作り手にとって大きな課題になっていくる」と続けた塚本監督は「戦後70年だけじゃなくて、71年も上映したい。もっと言えば72年、73年と時間が経って余計に意識が薄らいでいく中で、よりこの映画を観せていくというのが気持ちとしてあるので、なんらかの形で『野火』を上映していきたいです」と語ると、岩田氏も「『野火』の冒険は終わらないということですね」としみじみ語った。(編集部・入倉功一)
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