大量虐殺の加害者と被害者における許し…痛ましさ秘めた東京グランプリ作品
第29回東京国際映画祭
10日間にわたって開催された第29回東京国際映画祭の審査委員&受賞者記者会見が3日、EX THEATER ROPPONGI で行われ、コンペティション部門の審査委員長を務めたジャン=ジャック・ベネックスら審査委員と各賞の受賞者が出席し、グランプリ作品選出の決め手について明かされた。
【写真】ジュリア・ロバーツのものまねメイクで登場したパオロ&受賞者一覧
今年は98の国と地域から1,502本もの応募があったコンペティション部門。その最高賞となる東京グランプリに選ばれたのは、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の加害者と被害者の孫世代の触れあいを、ラブコメ要素を交えて描き出したドイツ=オーストリアの合作映画『ブルーム・オヴ・イエスタディ』。審査委員のメイベル・チャンは「グランプリの作品に関してはいくつか候補があった。しかし最終的になぜこの映画に決まったのかというと、ホロコーストの被害者と加害者が触れあいを深め、そして最終的には許すことがどれだけ大事かという、特別なメッセージがあったから」と説明。
このチャレンジングな映画を撮ったクリス・クラウス監督は「痛ましいテーマでありながらユーモアに満ちているこの映画を作るのは本当に難しかった。お金集めも大変だったが、幸運なことにドイツの脚本賞を取ることができたので、それ以降は作りやすくなった」と述懐。さらに「ベルリンやワルシャワなどにいろいろな記録文書を探しに行った時に、加害者や、被害者であるユダヤ人の孫世代がつらい過去を冗談で話しているのを見て、このテーマには違った軽さが必要なのではないかと思うようになった」と本作の制作過程を振り返った。
また、ベネックス審査委員長によってグランプリ作品として発表されたことは思ってもいなかった幸せだったようで、「ドイツで『ディーバ』などを観た。特に『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』もそうだが、彼の作品にはラブストーリーと痛みが交じっている。わたしにとってベネックス監督はヒーローだったので、一緒にいられてうれしかった」と笑顔を見せた。
一方、美女コンテストを生業とするトランスジェンダーを演じた『ダイ・ビューティフル』で、最優秀男優賞に選ばれたパオロ・バレステロスは、ジュリア・ロバーツのものまねメイクで来場。今回の受賞を聞いて急きょ来日したというパオロには「最優秀女優賞か最優秀男優賞か、どっちが欲しかった?」という声も掛けられたが、彼は「もちろん最優秀男優賞でハッピーだったけど、もし女優賞だったらとても珍しいことになりましたね」とちゃめっ気たっぷりに笑ってみせていた。
なお、会場には映画会社アップリンクの浅井隆代表も来場。かつてスウェーデンで差別的な扱いを受けていたサーミ人女性の自立を描き、最優秀女優賞と審査委員特別賞を受賞した『サーミ・ブラッド』の日本配給権を早くも獲得、日本公開が決定したことを公表していた。(取材・文:壬生智裕)