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なぜ美少年は独裁者に変貌したのか?衝撃のミステリー誕生秘話

女の子のように愛らしい美少年に、一体何が……
女の子のように愛らしい美少年に、一体何が…… - (C)COAL MOVIE LIMITED 2015

 恐るべき独裁者へと変貌を遂げる美少年の内なる怪物性を探求した『シークレット・オブ・モンスター』で監督デビューを飾った若きアメリカ人俳優ブラディ・コーベットが、2015年のベネチア国際映画祭で二つの賞に輝いた自作について語った。

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 哲学者ジャン=ポール・サルトルの短編小説「一指導者の幼年時代」に触発された本作は、第一次世界大戦後の1918年、ヴェルサイユ条約締結交渉のためにパリ郊外の屋敷に滞在するアメリカの政府高官一家の物語。思春期の入り口に差しかかった微妙な年頃の息子プレスコットが両親への不信を募らせ、神の教えを全面否定するなど、手に負えない反抗をエスカレートさせていく姿を映し出す。

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 「プレスコットの人物像は20世紀を代表する偉人を参考につくり上げた。しかし独裁者の幼年期を心理分析することが目的ではない。監督である僕自身がより詩的な表現をできるように、そして観客が自己投影しやすいように、架空のキャラクターにしたんだ」。そう語るコーベット監督は、イタリアの独裁者ムッソリーニの伝記に記されたエピソードなどを脚本に取り入れた。

 劇中では大人たちに自尊心を傷つけられ、純真さを失っていくプレスコットの内なる変化が描かれる。果たして彼は生まれながらの怪物なのか、それとも特異な家庭環境の影響で心が歪んだのか。この質問に「プレスコットは特殊な子供だと思う」と即答した監督は、「性質(Nature)と養育(Nurture)のどちらが問題かという単純な話ではない。両方に要因がある」とテーマを解説。さらに「この映画はプレスコットの将来を決めるきっかけになりうる、さまざまな形而上的な可能性や心理学的な可能性を描いている。しかし最後にすべての可能性が否定されてしまう。そのことを描くために、ロバート・パティンソンに一人二役を演じてもらった」と物語を読み解くヒントを示した。

 また、本作は元ウォーカー・ブラザーズスコット・ウォーカーが作曲した荘厳な音楽に加え、35ミリフィルムによる陰影豊かな映像美も圧巻だ。「舞台となる屋敷をハンガリーで見つけるまでに9か月かかった……。深みを出すために、壁に7種類のペンキを重ね塗りしている」。そんな裏話を披露した監督は「アンゼルム・キーファー(ナチスを主題にした作品で知られるドイツの画家)の絵画のような雰囲気を出したいと美術監督に相談し、いくつものレイヤーがあるように見せるため壁の一部に酸をふりかけた。そんなわけで予算の大半はペンキとカーテン代で消えてしまったよ(笑)」と映像への強いこだわりを語った。

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 かくして本作は新人監督としては極めて野心的で、オリジナリティーに満ちた異色作に仕上がった。最後に「製作中に壁にぶち当たったことは?」と尋ねると、「壁だらけさ!」と苦笑い。そして「お金がなくて、形にするまで何年も要したから多くのスタッフ&キャストが離脱し、極度のストレスを感じた。今はとても幸せだけど、初監督で複雑かつ意欲的な作品を生み出す経験は“出産”というより“悪魔祓い”のようだったよ」と語り、次回作の準備は順調に進んでいることを明かした。

 ちなみにコーベット監督は日本の古典映画を数多く観て育ち、小林正樹監督の熱狂的なファンだという。1988年生まれの新たな“恐るべき才能”を目の当たりにする一作となっている。(取材・文:高橋諭治)

映画『シークレット・オブ・モンスター』は11月25日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

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