アカデミー賞外国語映画賞有力候補はユーモラスなドイツ映画
第89回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたドイツ映画『ありがとう、トニ・エルドマン』(6月 日本公開)について、サンドラ・フラー、ペーター・シモニシェック、マーレン・アデ監督が、2016年10月2日(現地時間)ニューヨークのリンカーンセンターで開催されたニューヨーク映画祭の記者会見で語った。
【写真】国際映画批評家連盟賞のトロフィーを受け取るペーター・シモニスチェク
本作は、コンサルタント会社で働く娘イネス(サンドラ)と、いたずら好きの父親ヴィンフリート(ペーター)の関係を、人間の孤独や滑稽さを見つめつつ、ユーモラスに描いた秀作。第29回ヨーロッパ映画賞では、作品賞含む5部門を受賞し、第69回カンヌ国際映画祭では国際批評家連盟賞を受賞するなど、世界の映画祭で高い評価を受けている。
映画のコンセプトについてアデ監督は「最初から、父と娘の関係を描くつもりだった。父親が別の人物に扮して、娘の前に現れるという設定は念頭にあったの。父親は、娘と接するのが恥ずかしくて悪ふざけをするというキャラクター。一方、娘のほうは、いろいろとリサーチしなければいけなかったわ。娘にとって仕事はかなり重要だったから、実際のビジネスウーマンにインタビューして、キャラクターを構築していった」と明かした。
一般的にドイツ映画で描かれるドイツ人はシリアスなイメージだが、今作ではユーモラスに描かれている。娘を演じたサンドラは「実を言うと、撮影中は決してコメディーをやっている意識はなかったの。アデ監督は、『今作はユーモアを描いている』と言っていた。笑わせる意図をもって演じていないから、ほかの作品とは違うと思う。映画内では、悲劇的なシーンを絶望的に演じているから、それが余計に滑稽になってみえるの。わたしが演じたキャラクターは、とくに自分のことを面白いとは思っていないわ」と説明した。
本作は、構成やキャラクターが型にはまっていない作品だが、そのことについてアデ監督は「編集でカットしたシーンがそれほどあるわけではないし、最初は脚本に従って構成していたけれど、映画の中盤ではさまざまな展開をすることができたの」と語ると、サンドラが「リハーサルの時間が多かったから、いろいろなことを試したわ」と続けた。最後に父親を演じたペーターは「アデ監督は、僕らがリハーサル前に準備していたことに興味を持っていなかった」と現場で話し合いながら作り上げていったことを明かした。(取材・文:細木信宏/Nobuhiro Hosoki)