人体破壊描写がヤバイ…『グリーンルーム』は絶叫マシーン!
復讐劇『ブルー・リベンジ』(2013)での激しい暴力描写で注目を浴びた気鋭ジェレミー・ソルニエ監督が、ネオナチ集団による殺人事件を目撃してしまったことで楽屋に立てこもらざるをえなくなってしまったパンクロックバンドの顛末を描いた新作スリラー『グリーンルーム』について、その卓越した人体破壊描写から今の世相と重なるような設定までを語った。
楽屋にたてこもった彼らの運命は…映画『グリーンルーム』予告編
2016年に27歳の若さで事故死したアントン・イェルチンさんに、『マイ・ファニー・レディ』のイモージェン・プーツ、『X-MEN』シリーズなどのパトリック・スチュワートらが名を連ねている本作。ずばり今回のゴールは「観客がジャンル映画に求めている絶叫マシーンを提供することなのです」と言い切るソルニエ監督。「この映画は、実験的かつ教科書的になるように、そして根源的な感情のリアクションを引き出すために設計されています。『グリーンルーム』はスイス製時計ではなく、大型ハンマーなのです」といかに、観る者の感情をかき乱すことを考えたかを明かす。
その大きな要素の一つになっているのが、「恐ろしく力不足の主人公にフォーカス」したことだそう。「彼らがビクビクしながら決断を下すとき、彼らにあえて間違いを犯させます」。そうすることで、「彼らはアクションヒーローではなく怯えたキッズであり、数分前まで彼ら自身が信じていたであろう“超かっこいい奴ら”には程遠いもの」になると説明する。
そして本作でも、凄まじい暴力が満載だ。思わず目を覆いたくなるような人体破壊描写も含まれているが、そのリアルさには特殊メイクの効果をとても大事にしたという。「私が子どもの頃の1980年代は特殊効果の黄金期だったと思うんです。(『ハロウィン』『遊星からの物体X』などで知られる)ジョン・カーペンターの映画はコンピューターを使わずに、人の手で作ったもので特殊効果をやっていました。(『ゴッドファーザー』『エクソシスト』などを手掛けたメイクアップ界の巨匠)ディック・スミスの作品や『タクシードライバー』(1976)の怖さというのは、コンピューターに頼ってない時代だったと思います」と過去の名作を例に挙げ、特殊メイクの重要性を説く。
「今回はとても才能のあるニュージャージーの特殊メイクアップのチームを使うことができました。恐らく業界で一番だと思います」とスタッフを称えつつ、リアルさ追求には先陣をきってメイクアップチームに指示を出したのかと思いきや、「医学的、解剖学的なリサーチも大切ですが、私はそういうものを見るのが耐えられないので、メイクアップチームにすべて任せていました」と意外すぎる一面も(?)。そして、リアルさを出すためのもう一つの鍵に俳優の演技をあげ、「B級映画で、大したことない役者にメイクを施して叫ばせてもインパクトに欠けてしまうんです。それがA級の俳優にメイクをしてグロテスクなものを見せるとよりインパクトが強くなると思います。ですので、メイクも俳優も演技も大事だと考えています。暴力の裏に本物の人間がいると感じさせることで余計に不快さが増すと思います」とこだわりを熱弁していた。
また、政治的なものにするつもりはなかったという本作だが、「不運にも今の政治的な状況と合致してしまっているのですが、大統領選があのような結果になるとは予想していませんでした」と驚きをあらわにする。「本作を書くに当たってリサーチをした時、これほど国粋主義的なムーブメントが押し寄せてくるとは思っていませんでしたが、そういう人たちがいるということは分かっていました。彼らはずっと影にいて、たまたま私が光を当てたわけなんですが、2008年にオバマ大統領が誕生した時にもすでにウェブサイト上では彼らは着実に活動していたんです」と振り返り、「2013~2014年に私がこの脚本を書いた時には、周りの人から『現実離れしている』『極端すぎる』と言われたんですが、それが今になってみると不運にもタイムリーなものになってしまったんです」とアメリカが直面している現実を嘆く一幕もあった。(編集部・石神恵美子)
映画『グリーンルーム』は全国公開中