佐村河内守を追った『FAKE』海外から熱視線!質問相次ぐ
ゴーストライター騒動で話題となった佐村河内守氏を森達也監督が追ったドキュメンタリー映画『FAKE』が、このほどオランダで開催された第46回ロッテルダム国際映画祭でヨーロッパ初上映された。『ムーンライト』や『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』など、気鋭作家による約700本の話題作が上映された中、本作は観客賞で65位と100以内にランクインする大健闘。今後も国際映画祭への参加が予定されているという。
昨年6月に国内で公開されて話題を呼んだ同作品。第90回キネマ旬報ベスト・テンで日本映画と文化映画の両ベストで10位外となったのは「ガッカリ」だったそうだが、海外セールス担当者曰く問い合わせは多く、海外での上映は昨秋の第21回釜山国際映画祭(韓国)に続いて2度目。ポーランドの映画関係者から「このスキャンダルを題材に小説を書きたい」という要望もあったという。
ただし予備知識がない人も楽しめるよう海外版は映画冒頭にイラストで経緯の説明と、文中にも数か所、英語のテロップで補足がされている。同様の対応は、オウム真理教側から事件を見つめたドキュメンタリー映画『「A」』(1998)でも行なったという。森監督は「『「A」』の時に海外の人が『信者と市民と警察がロールプレイングゲームをしているようにしか見えない。この映像は本物ですか?』と聞かれた。市民は怒りまくっていて、警察はカメラが回っているところで不当逮捕をする。皆が役割を演じているように見えたのでしょう。『本物です』と答えたら、『日本ってFAKEな国ですね』と。その時からFAKEという言葉が頭の中にありましたね」と振り返る。
上映後は「目の前で起こっていることが真実か嘘か。自分自身も心を揺れ動かされました」とサスペンス劇を味わったかのように興奮しながら感想を述べる一方で、「監督は佐村河内さんの言葉を信じていましたか?」と真相を求める質問が会場から相次いだ。森監督は「これは日本だけでなく世界的な傾向だと思っていますが、正義か味方か、真実か偽りか、物事を2つに分けたがる。そう単純化されることに違和感がありました。最後に僕が佐村河内さんに投げかけた言葉に対してどう答えたのか? という質問を必ず聞かれるのですが、『最近、年をとって忘れっぽくなったので覚えていません』と答えるようにしています」と煙に巻いた。
国内は3月2日に本作DVD発売が決定。劇場公開版に25分の未公開映像を含めたディレクターズ・カット版だ。森監督は「未公開シーンは2つあって、1つは実験しました。人によっては失笑するかもしれないし、プロデューサーも『何よ、これ!』と呆れていたけどディレクターズ・カットだからと押し通しました」と舞台裏を語る。
次回作は『最も危険な刑事(デカ)まつり』(2003)に参加した時以来となるフィクションに挑むという。「たまたまドキュメンタリーが続いたが、僕の中で違いはない。テーマはメディア批判。海外では『スポットライト 世紀のスクープ』や『ニュースの真相』など実話をベースにメディアの内側を描いた作品はあるが、日本では名称を変えてしまう。しっかり実名で役者に演じさせたい」と意気込みを語る。またどんな問題作を放つのか、大いに期待したい。(取材・文:中山治美)