今の映画界は直接的な描写が支配的…“ロメールの後継者”が語る自身の映画スタイル
36歳にして“エリック・ロメールの後継者”と目されるミア・ハンセン=ラヴ監督。フランスの大女優イザベル・ユペールとタッグを組み、第66回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した『未来よ こんにちは』の日本公開に際しインタビューに応じ、自身の創作スタイルや“ロメールの後継者”と注目される心境について語った。
自身も敬愛するロメールの“後継者”と呼ばれることについて、「そういう風に言っていただくと嬉しいのは確かです」とミア監督。シナリオ執筆時や映画を作っていく過程だけでなく、名作を多数世に送り出しているロメールの会社(レ・フィルム・デュ・ローザンジュ)に「私も関われたらなと思うこともあります」とさまざまな面でロメールの影響を受けてはいるものの、「ただ、彼のスタイルを真似するというか、積極的に彼の後継者としてやっていこうという気持ちはあまりないです」と正直な気持ちを告白した。
「ロメールのユーモア感覚や、声のトーンというかしゃべり方のちょっとしたクセみたいなもの、それからエスプリ的な部分」は自身の中からも自然に湧き出てくるもので共通点があるとしながら、「もう少し深い面でロメールの映画と私の作品を比べてみると、ロメールの映画で特徴的なのはすごく会話が多いことだと思うのですが、私の作品は会話も多いけれど、沈黙の部分もあり、交互にそういうところ(会話と沈黙)が現れるという傾向があると思います。私は“印象派的”と自分で呼んでいますが、そういう印象派的な場面が長く続くことも多いので、会話に非常に重点を置いているロメールとは違うところもあるというのは確かですね」とロメールと自身のスタイルの違いを指摘した。
ミア監督の作品はエモーショナルな描写に走りすぎず、まるで登場人物を眺めるかのような独特な距離感が特徴的だ。その被写体との距離感について「それはたぶん私の中にある“慎み”だと思うんですが」と自身の性格によるものが大きいと分析すると、「今の映画界で非常に支配的なのは、ある出来事や心理的に大きな変化が起こると正面からストレートに撮影することだと思うのですが、私はそれがあまり好きじゃないんです」と直接的な描写を避ける理由を明かす。
「何か事件が起こったことをすぐにカメラに収めるのではなく、暗示的な方法で収め、登場人物が後で(出来事を)思い出してだんだん気持ちに変化が訪れていったり、それが心の奥に深く染み込んでいき、登場人物の行動に変化を与えるような、即座に何か影響を与えるということではなく、ちょっと時間のずれがあるような、そういう感情の揺れ動きを私は良しとしている人間なのです」。
本作は、夫との離婚や母の死など予想外の困難に直面することになった哲学教師のナタリー(イザベル)を追ったヒューマンドラマ。劇中でナタリーがとにかく歩く姿は、映画のテーマである「未来や希望への歩み」と重なり印象的だが、「ご存知だと思いますがロメールは話すことを重要視している、言葉にとても重点を置いている映画作家ですよね。私もそれに異存はないんですが、もう一つ私にとっては『歩行』が非常に大事だということを付け加えたいです。歩くことで人の存在感が浮き彫りにされると思うんです」とただ歩くだけの一見なんともないシーンに隠されている思いを語った。(編集部・吉田唯)
映画『未来よ こんにちは』は公開中