「例のあの人」は英語で? ハリポタ翻訳者が最も悩んだ言葉とは
「ハリー・ポッター」シリーズの翻訳者・松岡佑子が、洋画専門CS放送ザ・シネマで映画『ハリー・ポッター』シリーズ全8作が一挙放送されるのを前に、最も翻訳に悩んだ言葉などを明かした。
「言葉遊びは、すぐにひらめくときもありますし、いくらやっても出てこないときがあります。言葉のせいではなく、体調のせいかもしれないですけれど、降りてくるときには天啓がすぐに降りてきますし、ダメなときには何度シャワーを浴びてもダメなのです」。特に本作は独特の表現も多く、苦労も多かっただろう。
そのうえ、松岡はもともと同時通訳者で、文学の翻訳はこれが初めてだった。「第1巻で一番翻訳に慣れていなかったとき、『You-Know-Who』という言葉が出てきました。これは皆がヴォルデモート(闇の帝王)の名前を怖がってその代わりに言う言葉ですが、そのまま『何某(なにがし)』では面白くないので、『例のあの人』にたどり着くまで何度も推敲しました。アシスタントをしてくれた友達や、編集者、校正者全員で考えてたどり着いた『You-Know-Who』ですが、今でももっと良い訳はないかと時々考えます」と最も悩んだ言葉を明かす。
そんな松岡にとって役に立ったのは、小さいころにしっかりと勉強したことだった。「受験勉強にしろ何にしろ、ハーマイオニーのように必死で勉強したことがどこかに残っているんです。お子さんたちには、頭や心が柔らかいうちにしっかりと日本語を勉強することが、日本語だけでなく全ての勉強は役に立つとアドバイスしたいと思います。勉強といっても、母親に勉強しなさいと言われてする勉強ではないんですね。自ら知識を吸収したいと思う気持ちが大事で、それが楽しいと思えるようになればいいなと思います」。
現在はスイスに住み、「ハリー・ポッター」シリーズを日本で出版した静山社の会長も務める松岡。「ハリポタ」によって人生も大きく変わったようで、「変化を三つ挙げるなら、職業が同時通訳者から翻訳者に、住む場所が日本からスイスになり、そして夫は亡くなりましたが新しい伴侶を得たということです」と感謝。
自身の座右の銘は「一隅を照らすもの」という言葉だといい、「自分のやっている事はちっぽけなものであるけれども、これがどこか一隅を照らせば良いなという気持ちでずっと翻訳を続けてきました。本を読むことで子供の心が育ち、大人の心が広く柔らかくなるなら、出版人として、翻訳者としてこれ以上の喜びはありません」と思いを語った。
スカパー!やケーブルテレビで視聴できる洋画専門CS放送ザ・シネマでは、4月1日と2日に『ハリー・ポッター』全8作を一挙放送。それに合わせ、大人だからこそ楽しめるハリー・ポッターの魅力に迫るオリジナル特別番組「大人もハマる!ハリー・ポッターの世界」や、お宝メイキング映像集も放送する。(編集部・中山雄一朗)