漫画家とつねに戦い?押井守監督、原作者との悩ましい関係を振り返る
映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』の公開を受け、原作であるコミック「攻殻機動隊」を22年前にアニメーション化した押井守監督が、原作者と映画監督の関係を、いま改めて振り返った。
攻殻機動隊の原作者は士郎正宗。メディアに顔を出さないのはもちろんのこと、仕事関係者でも直接、会った人はごくわずかという彼の逸話は有名だ。「Production I.G(『攻殻』などを手掛けるアニメ製作会社)で士郎さんに会ったのは、僕を含めて3人くらいしかいない。これは僕の想像だけど、今回の『ゴースト・イン・ザ・シェル』にもいろいろ言いたいことはあると思う。漫画家って、そういうものだからね」と語る押井監督。
押井監督自身は、士郎の原作を映画化する際に「そんなにもめなかった」そうだが、「いずれにしても原作者とつきあうのは大変。同じ表現者だから、うまくいかなくて当たり前だもの。僕の作品を士郎さんがどう思っているかも、直接は聞いたことはない。(感想を言わないことで)大人の対応ができる人かと思ったら、後にそうじゃないことも判明したけどね(笑)」と士郎の素顔について押井監督の意味深なコメントもとび出す。
何度も原作モノを手がけてきた押井監督にとって、原作者との関係は悩ましいと、次のように振りかえる。「僕がうまくいったのは、漫画家ではないけど、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』の森博嗣さんくらい。(『うる星やつら』の)高橋留美子さんとは、さんざんケンカしたもの(笑)。プロデューサーは、原作者と監督を会わせるべきじゃない。漫画家は、作品全体に一人で責任を負うわけだから、いろいろ言いたくなる気持ちも理解できるよ」。
近年、コミックの映画化がますます加速する日本映画界。そんな日本映画全般に対しても、押井監督は言いたいことがあるようだ。「僕の年齢だと映画が1,000円で観られるから、月に1回くらい映画館へ行くんだけど、ポスターを眺めると日本映画は高校生のラブストーリーとかが多すぎる。ハッタリでもいいから、人類の滅亡をかけた映画とか、もっと作ってほしいよ」。
「漫画を読むと、『映像にしたら こうなる』とか、つねに考えてしまう」と語る押井監督。とはいえ、安易にコミックを実写化するべきではないと次のように指摘する。「作品によっては、無茶して実写にするべきではないと思う。『攻殻機動隊』はアニメーションになるのを待っているような作品だった。実写化の際には、ちゃんとした俳優をキャスティングできるかどうかも重要な条件になる。その意味で今回の『ゴースト・イン・ザ・シェル』は、うまく条件をクリアしたんじゃないかな」。(取材・文/斉藤博昭)
映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』は全国公開中