樹木希林、カンヌ出品作はノーギャラ出演だった!
第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された、河瀬直美監督の『光』初日舞台あいさつが27日、新宿バルト9で行われ、劇中に登場する音声ガイドを担当した女優の樹木希林が来場し、本作の声の出演はノーギャラだったことをぶっちゃけた。この日は、現地時間28日の各賞発表を目前に、カンヌに滞在中の河瀬監督と主演の永瀬正敏がSkypeで出席、会場には樹木のほか、水崎綾女、藤竜也、神野三鈴が登壇した。
本作は、視力を失いゆくカメラマン(永瀬)と、視覚障害者向けに映画の音声ガイドを制作する女性(水崎)が心を通わせていくさまをつづったラブストーリー。本編に登場する音声ガイドのナレーターとして出演している樹木だが、「タダでやりましたよ。撮り直しもタダ」とまさかのノーギャラだったことを告白。「今日も監督がカンヌにいるから、代わりに舞台あいさつに行ってくれと言われて。なんでわたしが行くんですか。わたしがよっぽど物好きなおばあさんと思われちゃうじゃないと言ったんですけどね。河瀬監督はいつでも困った時の樹木希林なのよ。今回も予算がなかったというけど、わたしはタダだからね」とあけっぴろげ。
また、カンヌはちょうど朝の7時半だという河瀬監督と永瀬に対して、藤が「いよいよ明日発表ですが、もう一回、上映後に見せた笑顔と涙を見られることを期待しています。頑張ってください」とねぎらいの言葉を贈ると、樹木は「あたしは賞に関してはどっちでもいいと思っているんですけど、日本にとってはもらえた方がいいわよね」とコメント。その言葉を受けた河瀬監督は、「わたしは、藤さんと希林さんは、日本映画の時間を積み重ねてきた方だと思っていて。そんな希林さんに、賞は問題じゃないんだよと言っていただけて、グッとくるものがあります。日本の俳優さんにももっと、(世界を)体験して、何かを持ち帰ってもらいたい」と語ると、一足先にカンヌから帰国したばかりの水崎も強くうなずいていた。
樹木は「わたしは(役者たちに)河瀬さんの作品に出演交渉されたら、ぜひ出てくださいと言っているんですよ。でも現場ではえらいことになって。台本をたたき付けて帰る人もいるそうです。でもそういう厳しさがあっての今日だと思う。わたしは河瀬さんのフォローに来ているのよ」と話しつつも、「でもなんで河瀬さんはカンヌにかわいがられているの?」と直球の質問。それに河瀬監督は「カンヌには本当に映画が好きな人がいます。彼らはわたしがまっすぐに映画を作ることを大事にしてくれる。自分たちが観た事のない日本の風景、そこにいる人の心模様を抱きしめようとしているさまは、デコボコしていても次の先を見つめたいと言ってくれます」と返答。
樹木は「そうね、本当にデコボコ。『朱花(はねづ)の月』という映画も、わたしにはさっぱり分からなかったのに、カンヌのコンペに出てビックリしたことがある。『よく選ばれたわね』と言ったら『ほんまやね』と。面白い監督だな、すてきだなと思いました」と希林節を炸裂させ、会場は大笑い。神野が「(河瀬)直美は唯一無二の世界を出し続けている。それがどれだけ怖いことか、理解されない恐怖と戦うのはどれだけ大変か分からない。それに立ち向かう直美は同志です」というカンヌ関係者の言葉を紹介すると、それには樹木も「いい言葉ねぇ」と感心した様子だった。(取材・文:壬生智裕)
映画『光』は全国公開中