何もやりたいことのなかった北海道の女子高生がカンヌ出品を果たすまで!
第70回カンヌ国際映画祭
第70回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門に映画『溶ける』が出品された井樫彩監督(21)が現地で取材に応じ、カンヌまでの道を振り返った。
シネフォンダシオン部門は、世界中の学生映画が集まる部門。今年は2,600作品の応募があった中、感情を抑えるために密かに川に飛び込む女子高生の姿を描いた『溶ける』は最終16作品の中に残り、カンヌでの公式上映を果たした。北海道伊達市出身の井樫監督は「シネフォンダシオン部門の中でも尺が長く、帰られたりするんじゃないかと心配だったんですけど(笑)、最後まで観てもらえ、拍手もいただけてよかったです」と笑顔を見せる。
そんな井樫監督だが高校生の時は特にやりたいこともなく、とりあえず札幌の大学に行こうかなぐらいに考えていたという。しかし、進路相談で学校の先生から「やりたいことは見つからなくてもいいから、これならいいかなというものを探してごらん」と言われ、考え方が変わった。「もともと文章を書くのが好きで、東京や芸能界への憧れもあり、当時インディー映画にもハマっていて『あ、わたし映画やるわ!』ってなったんです。監督が一番仕切れるだろうから、『わたし監督になります』って。『だったら東京に行った方がいい』と言われ、それで東京に行って映画を撮りました(笑)。勢いみたいな感じです」。
そして東放学園映画専門学校の卒業制作として、高校生の時に感じていた違和感を表現した『溶ける』を制作。同作は「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワード2016」審査員特別賞や、河瀬直美監督がエグゼクティブディレクターを務める「なら国際映画祭2016」NARA-wave部門(学生映画部門)のゴールデンKOJIKA賞(最優秀作品賞)を受賞した。そしてカンヌシネフォンダシオンとパートナーシップを結んでいる「なら国際映画祭」の推薦という形でカンヌにも申請されることになり、見事正式出品を果たした。
河瀬監督から「カンヌで上映されるというだけでものすごいことだから、それをチャンスにするべき。ゴールでなく、ここからがスタートだから頑張って」という言葉をかけてもらったという井樫監督は、「この作品は卒業制作だったので、名刺代わりになればいいなと思っていました。それがこういう風にいろいろな場所で上映してもらえたので、次が大事なんだろうなと。わたしもここからだなという気持ちです」と気を引き締める。
俳優や監督がまばゆいフラッシュを浴びながらレッドカーペットを歩く、コンペティション部門の公式上映も目の当たりにして「世界の遠さを感じました。日本にいると感じなかったんですけど、自分の目で見てしまったことによって、うーわ! って(笑)。なんだか怖くなりました」と明かす井樫監督だが、「多少のプレッシャーは感じているのですが、わたしはわたしで怠らずにコツコツやっていければいいのかなと。何をやりたいのか、どういう表現をしたいのか、きちんと自分の中で消化できればと思います」と頼もしく語った。新作『真っ赤な星』の制作も決まっており(CAMPFAIRにてクラウドファンディング中)、カンヌを経験した井樫監督がどう羽ばたいていくのか、今後に期待がかかる。(編集部・市川遥)