『ブラック・スワン』監督の衝撃作に喝采とブーイング入り乱れる!
第74回ベネチア国際映画祭
現地時間5日、第74回ベネチア国際映画祭にて、『ブラック・スワン』などを手がけたダーレン・アロノフスキー監督×ジェニファー・ローレンス主演の映画『マザー!』の上映が行われ、劇場では喝采とブーイングが入り混じる大波乱となった。同日の記者会見で、アロノフスキー監督はその反応に対し、「もちろんこういうタイプの映画を経験したくない人もいるだろうし、それはそれで構わない。ローラーコースターみたいな映画なので、何回か宙返りする覚悟がある人だけ乗ってくれれば」と理解を示した。
アロノフスキー監督とジェニファーが交際をはじめるきっかけにもなったことで知られる本作は、ある一軒家に住む夫婦を描いたサイコスリラー。創作に行き詰まった詩人を夫(ハビエル・バルデム)に持つ妻(ジェニファー)は、彼に尽くしながら穏やかに暮らしていた。しかしある日、見知らぬ訪問者がやってきたことでその生活は一変。夫との間に新たな命を授かった後でも、次々やってくる訪問者に心煩わせられ……。
2008年に『レスラー』で本映画祭の最高賞・金獅子賞に輝いたことがあるほか、『ファウンテン 永遠につづく愛』(2007)『ブラック・スワン』(2010)も公式上映されているなど、いわば本映画祭常連組のアロノフスキー監督。それだけに本作への期待がかなり高かったこともあってか、フタを開けて見ると、賛否が真っ二つに割れる事態となった。
「奇妙な経験だった。僕の映画のほとんどが形になるのに何年もかかった。『ブラック・スワン』は10年、『ノア 約束の舟』は20年だった。でもこの映画は5日でできた。この惑星に住んでいて、周りで何が起きているのかを目の当たりにしながらも何もできないというところから生まれたんだ。僕はちょうどどうしようもないほどの憤りや怒りを抱えていて、それを一つの感情にしたかった。5日間で、最初の脚本ができた。それは僕から溢れ出てきたようなものだった」と切り出すアロノフスキー監督。その第一稿を読んだジェニファーもすぐ乗り気になり、この映画がつくられることになったのだという。
そんな本作はストーリーがあってないようなものと言っていいほど、斬新な構成をしている。それに対する困惑がネガティブな反応につながったと思われるが、アロノフスキー監督は「この映画の意図というのは、ミステリーであるということ。継続的に観客を驚かせ続けることにあるんだ。どこへ向かうか全くわからない。ジェニファーのキャラクターが決して安心しないように、観客にもひと時も安心だと感じて欲しくなかった。ジェニファーのキャラクターは、一体何が彼女に起こっているのか、考え続けるんだ」と語っており、批判も想定内だったのかもしれない。
また、聖書の「天地創造」をはじめ、随所に寓意が織り込まれており、それが本作を理解する助けとなっている。アロノフスキー監督は全てを口にすることは避けたものの、「聖書の中で“6日目”と考えたら、この映画がどこから始まっているかがわかると思うよ」と一部ヒントを与える場面も。ハビエルも本作には何通りもの解釈があるだろうとし、「(本作は)創造主と彼の創造物、すなわち一編の書物や、一軒の家、あるいは地球との関係についてだと思う」と見解を述べた。アロノフスキー監督はそのほかにも、邸宅を舞台に物語が展開されていくルイス・ブニュエル監督作『皆殺しの天使』や、1970年代のフェミニスト文学「女性と自然」(スーザン・グリフィン著)から影響を受けているとも明かしていた。
ジェニファーは夫に従順な妻を演じているが、やたら印象に残るその従順さも「この映画の寓意に深く関わっていて、あえてそうしているんだ」と説明するアロノフスキー監督。強い女性キャラクターを演じることが多かったジェニファーにとって、その従順さを体現するのは難しかったようで、「これまでにやってきたキャラクターとは正反対だった。それに自分自身とも正反対だったから、本当によくわからなかった。これまで演じてきたものの中でで、最も自分自身から切り離さなければいけない役だったと思う」と役づくりの苦労を語り、「3か月にわたって厳密なリハーサルをしたわ。ダーレンが本当に手伝ってくれたおかげで、私の新たな一面を見出せたと思う」と恋人であるアロノフスキー監督への信頼を垣間見せていた。(編集部・石神恵美子)
第74回ベネチア国際映画祭は現地時間9月9日まで開催
映画『マザー!』は2018年1月19日より全国公開